作曲家ジョン・ウィリアムズが一目置く名演奏、チャールズ・ゲルハルト指揮のスターウォーズ旧三部作 / スター・ウォーズの音楽特集 プロデューサーと録音エンジニア

作曲家ジョン・ウィリアムズが一目置く名演奏、チャールズ・ゲルハルト指揮のスターウォーズ旧三部作 / スター・ウォーズの音楽特集 プロデューサーと録音エンジニア

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前回からの続き。映画「スター・ウォーズ」音楽の音源はサウンドトラックを筆頭に数多ある。その中に、オリジナル音楽を作曲したジョン・ウィリアムズが一目置くほどの名演奏がある。チャールズ・アラン・ゲルハルト(Charles Allan Gerhardt)が指揮したスター・ウォーズ旧三部作(エピソード4、5、6)のディスクがそれである。
録音も優秀であり、未だその音楽は色あせていない。知られざるスター・ウォーズ演奏の超名盤なのだが、なぜか評判にならない。
スター・ウォーズの楽曲はハリウッドの流れをくんだ正統派の音楽である。作曲家のジョン・ウィリアムズや名プロデューサー、匠レベルの録音エンジニア、素晴らしい収録スタジオなど極めて恵まれた環境がこれを紡いできた。そして、日本では音楽誌にもオーディオ誌にも無視されているゲルハルトという名プロデューサー兼指揮者を抜きに、このことは語れない。
彼は一流のレコードプロデューサーでオペラ「死の都」の全曲録音を初めてプロデュースしたのも彼、彼なくしては作曲家のコルンゴルトの認知度がここまで急激に上がることはなかっただろう。また、映画音楽の指揮者としても目を見張るところがあり、ゲルハルトの指揮はメロディの歌わせ方が上手く情感が豊か、時折あざといくらいにメロディを誇張し映画のワンシーンを想いおこさせる。
更には、ゲルハルトのプロデュースしたレコード、CDは録音の面でも秀でている。目の前にオーケストラがデンと拡がっているかのような録音の良さを兼ね備えており、中でも『スター・ウォーズ』演奏は奇跡的とも言える音の良さである。ここには彼の収録の度に指名されている名録音エンジニアのケネス・ウィルキンソン(Kenneth Wilkinson)の技術によるところが大きい。録音エンジニアの腕前如何で再生音楽は聴こえ方が激変してしまうのだが、日本では、この録音エンジニアやミキサーのお仕事が無視されがちである。そこで今回はエンジニアについても少し触れてみた。

ウィーンの作曲家エーリッヒ・コルンゴルトとスター・ウォーズ
ゲルハルトがコルンゴルトの傑作オペラ「死の都」の全曲録音を初プロデュース
大推薦のゲルハルトが指揮したスター・ウォーズ 音楽シリーズ
映画音楽には定番の覆面オーケストラ
ゲルハルト指揮のスター・ウォーズ「帝国の逆襲」は大傑作
ゲルハルトによるスター・ウォーズ エピソード4と6は超優秀録音
録音エンジニアの腕と録音場所で音楽は激変する

● ウィーンの作曲家エーリッヒ・コルンゴルトとスター・ウォーズ

前回ご紹介したウィーンからの流れ者であった作曲家エーリッヒ・コルンゴルト(Erich Wolfgang Korngold)は、「スター・ウォーズ」シリーズの音楽を担当したジョン・ウィリアムズ(John Williams)にも大きな影響を与えている。

「エピソード1/ファントム・メナス」の楽曲「パナカと女王の護衛たち」は、ウィリアムズ自身もコルンゴルトへのオマージュと言っており、コルンゴルトが音楽をつけた映画「シー・ホーク」や「ロビンフット」などの活劇音楽を彷彿(ほうふつ)させる。また、コルンゴルト作曲の映画音楽「嵐の青春(Kings Row)」は、一聴すればすぐにわかるほどスター・ウォーズのメインテーマに似ている。

そして、映画『シー・ホーク』の音楽こそが、コルンゴルト再評価のきっかけとなった。チャールズ・ゲルハルト(Charles Allan Gerhardt)とコルンゴルドの息子・ジョージがプロデュースし、ゲルハルト自身が指揮をした「シー・ホーク:エリッヒ・ヴォルフガンク・コルンゴルト作品集」のレコードがそれである。

このレコードがヒットしたおかげで、コルンゴルトの名前も知られ、ゲルハルト指揮の映画音楽はハリウッド映画の名曲シリーズ「Classic Film Score」として次々と発売され、未だにその愛聴者は多い。

この時の録音は名エンジニアの誉れ高いケネス・ウィルキンソン(Kenneth Wilkinson)が担当し、超良質で豊かな響きのするロンドンのキングスウェイ・ホール(Kingsway Hall)で収録されている。

スターウォーズ ハリウッド クラシック音楽 チャールズ ゲルハルト プロデューサー 録音エンジニア ミキサー ケネス ウィルキンソン  現在のキングスウェイ・ホール跡、ホテルの名前だけがかつての存在を示す
現在のキングスウェイ・ホール跡、ホテルの名前だけがかつての存在を示す

ちなみに、このキングスウェイ・ホールは戦後レコーディングのメッカであり、英国のEMIを筆頭にDeccaやDeutsche Grammophonなど各種レーベルがこぞって活用していた。しかし、1984年に 惜しまれつつその役目を終え、現在はホテルに改装されてしまった。キングスウェイ・ホール での最後の録音としては以下の2つがある。

● ゲルハルトがコルンゴルトの傑作オペラ「死の都」の全曲録音を初プロデュース

一連の映画音楽の指揮をしているチャールズ・アラン・ゲルハルト、彼の本業は指揮者ではなくRCAレーベルとリーダーズ・ダイジェスト誌のレコード・プロデューサーであった。ゲルハルトとコルンゴルトの関係は深く、コルンゴルト作曲のオペラ「死の都」の全曲録音を初めてプロデュースしたのもゲルハルトである。

自らプロデュースした「死の都」のレコードには詳細なプロダクションノートまで書き残しており、この難曲を全曲盤として製作する苦労と曲への愛情を切々と訴えている。また、ゲルハルトが録音エンジニアとして組んだのはこの時も名エンジニアのケネス・ウィルキンソン。これ以外にもゲルハルトがエンジニアのウィルキンソンと組んでプロデュースしたクラシックの録音も多く、そのほとんどが名盤として記憶されている。

● 大推薦のゲルハルトが指揮したスター・ウォーズ 音楽シリーズ

ジョン・ウィリアムズと同様にハリウッドのフルオーケストラ音楽復古の立役者であるゲルハルト。実は彼がスター・ウォーズの旧三部作(エピソード4~6)すべてを自ら指揮してディスクに収めている。しかも、作曲者ジョン・ウィリアムズですら一目置くほどの名演奏なのである。録音エンジニアは、もちろん名手ウィルキンソン。それ故に録音も優秀であり、未だその音楽は色あせていない。

スターウォーズ ハリウッド クラシック音楽 チャールズ ゲルハルト プロデューサー 録音エンジニア ミキサー ケネス ウィルキンソン スター・ウォーズ旧三部作(エピソード4~6)のCD。
上段が各オリジナルサウンドトラック、下段がゲルハルト指揮による各組曲
スター・ウォーズ旧三部作(エピソード4~6)のCD。
上段が各オリジナルサウンドトラック、下段がゲルハルト指揮による各組曲

先に触れたように、ゲルハルトはClassic Film Scoreシリーズにて往年のハリウッドの活劇曲やコルンゴルトの復興に努めた。その御大自らが指揮しており、しかも同じくハリウッドの系譜上にあるウィリアムズの曲をとりあげているのだから、これを聴きのがす手はない。

しかし、日本では映画音楽関連の話題でも、オーディオ誌においても、ゲルハルトとスター・ウォーズ三部作について、ほとんど触れられていない。この評価の低さは誠に残念である。

ゲルハルトの指揮は、メロディの歌わせっぷり、情感の豊かさにおいて、他の演奏の追随を許さない。いささか大仰な印象を受ける部分もあるが、映画音楽であれば、時折あざといくらいにメロディを誇張して、映画のワンシーンを想いおこさせるくらいのほうが聴いていて楽しめる。さらには、目の前にオーケストラがデンと拡がっているかのような録音の良さを兼ね備えているのだから、スター・ウォーズ演奏の中でも奇跡的なシリーズと思う。

● 映画音楽には定番の覆面オーケストラ

演奏を受け持つのはナショナル・フィルハーモニック管弦楽団(National Philharmonic Orchestra)。これはレコーディング専門のオーケストラで、実はロンドンフィルハーモニーを中心としたロンドンの主要オーケストラのメンバーから構成されている。ジェリー・ゴールドスミス等のサウンドトラックの録音が有名である。クラシック音楽の著名指揮者もこのオーケストラでいくつもの名曲を録音しており、実力は相応に高い。

このような録音専用のオーケストラは「覆面オーケストラ」と呼ばれており、他社とのライセンス契約などの関係でオーケストラ名をオープンにできない場合に使われている。代表的な事例はRCAレコードのRCAビクター交響楽団、コロンビアレコードのコロンビア交響楽団などがあり、各都市の名オーケストラとその助っ人奏者で構成されているので、けっして演奏の技量が落ちるわけではない。

余談だが、ゲルハルトはフランスでパリ・コンセール・サンフォニーク協会管弦楽団という妙な名称の「覆面オーケストラ」を組成している。このオーケストラには、ルネ・レイボウィッツという指揮者を据えて、壮麗な演奏を奏でたものが多い。エンジニアはケネス・ウィルキンソンが担当し、録音も申し分ない。ただ、それらのレコードは『リーダーズ・ダイジェスト』誌の読者向け通信販売だったので、日本では一般に流通しなかったようだ。とはいえ、現在では中古レコードであれば海外通販で非常に安価で購入できる。そして、このレコードボックスセットには、今では考えられないような美しい大判の解説書が付属されている。レコード文化は廃れてしまったが、大判のジャケットやこういった解説書を見ると、レコード文化もなかなかよかったとしみじみ思う。

スターウォーズ ハリウッド クラシック音楽 チャールズ ゲルハルト プロデューサー 録音エンジニア ミキサー ケネス ウィルキンソン 「Festival of Light Classical Music」(当時米リーダーズ・ダイジェスト社が発行)の家庭名曲集(12枚組レコード)と詳細な解説書
「Festival of Light Classical Music」(当時米リーダーズ・ダイジェスト社が発行)の家庭名曲集(12枚組レコード)と詳細な解説書

また、CDでもこちらのレコードは再販なされている。

● ゲルハルト指揮のスター・ウォーズ「帝国の逆襲」は大傑作

話をスター・ウォーズに戻すと、ゲルハルトは旧三部作をエピソード4→6→5の順に録音している。そのため、最後の録音となった「エピソード5/帝国の逆襲」の演奏に彼の思い入れを一番感じる。また、持ち味のドラマティックな演出が一番効果的に表れているのがこのディスクだ。トラック7の「雪の中の戦い」ラストの打楽器が乱舞するアッチェレランド(次第に速く)のかけ方は尋常でなく、オーケストラの技量とゲルハルトの熱量を強く感じる。

このCDジャケットの裏面でジョン・ウィリアムズは、自身もゲルハントのファンであると表明したうえで、ゲルハルトの映画音楽への貢献への賛辞、初作である「エピソード4/新たなる希望」の録音についての感謝を述べている。残念ながら、こちらのディスクだけは、録音エンジニアのウィルキンソンは関わっておらず、キングスウェイ・ホールでの録音でもない。但し、コルンゴルトの息子ジョージがプロデューサーを務め、録音も悪くはない。

スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲
チャールズ・ゲルハルト指揮/ナショナル・フィルハーモニック管弦楽団
裏面には、ウィリアムズによる謝辞が記載されている

● ゲルハルトによるスター・ウォーズ エピソード4と6は超優秀録音

ゲルハルトによるスター・ウォーズ最初の録音はエピソード4である。これに収録されている「レイア姫のテーマ」を初めて聴いた時には驚かされた。濡れて輝くようなストリングスはマントバーニ・オーケストラのそれであるかのように魅惑的で、管楽器の低音もたっぷり鳴り響き、まさに響きの饗宴。

そして、なんと言っても素晴らしいのが、スピーカーの間にフルオーケストラが浮かぶ録音の空間表現だ。それも当たり前。数多くの名録音が生まれたロンドンのキングスウェイ・ホールでの収録で、エンジニアは鉄板のウィルキンソン、プロデューサーはコルンゴルトの息子のジョージというゲルハルト最強の布陣なのである。なお、キングスウェイ・ホールは残念ながら今では閉鎖されてしまっている。

スペース・ファンタジー~スター・ウォーズ&未知との遭遇
チャールズ・ゲルハルト指揮、ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団

そして、ゲルハルトによる「エピソード6/ジェダイの復讐」。これは貴重なディスクである。おちゃらけたイォーク族がたびたび登場して軽くなりがちな本エピソードに、ゲルハルトは重厚な音楽をアルバムに選び、シリアス度をアップさせている。それ故エピソード6の楽曲はこのCDが私にとっても一番の愛聴盤である。

特筆すべきは、トラック7の「ハン・ソロの生還」。ジャングルに迷い込んだかのような深淵な音の連なり、ここでもウィルキンソンのミキシングの腕が冴え渡っている。そして、見事すぎるパーカッションの音が汪溢(おういつ)するトラック11「フィナーレ」の冒頭、大音量でウィルキンソンの妙技を堪能していただきたい。ウィルキンソンによる数少ないデジタル録音という意味でも貴重なディスクである。

スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの復讐
チャールズ・ゲルハルト指揮、ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団

● 録音エンジニアの腕と録音場所で音楽は激変する

ところで、CDなどディスクの話をする際に録音場所や録音エンジニアについてたびたび記述をしているが、実は再生音楽を聴く場合、もっとも重要なのがこれらなのである。どんなによい演奏でもエンジニアの腕が二流ではすべてが台無しになり、また録音場所がふさわしくなければよい音楽は収録できない。

一般的に録音場所はオーケストラの場合、ホームグラウンドにしているコンサートホールもしくは録音レーベルと関係が深いスタジオになる。しかし、コンサートホールは吸音材として作用する観客がいない場合、音が響きすぎるきらいがある。実際、ウィーンのムジークフェラインザールで観客のいないリハーサルを見学した際、響きすぎで輪郭のボヤけた、まろやかすぎる音を体験した。この音響状態で本番に備えた練習がよくできるものだ、と感心すらした。
観客を入れないコンサートホールでの録音では、客席に毛布をかけたり、残響を調整する工夫が必須のようだ。そして、録音場所において、このような工夫と努力を重ねてよい収録が行なわれているのが実際である。

録音エンジニアはミキサーとも呼ばれるが、その存在はとても重要である。スタジオにおけるエンジニアの仕事は、各楽器の特性を踏まえて楽器の配置を考える、最適なマイクを選択し楽器にあわせて設置する、音量・音色・響き・楽器間のバランスをコントロールしてミキシングをしていく、といったものである。これだけの作業を担うのだからエンジニアの技量によって音楽の質や聴こえ方が激変するのは当然だ。まさにCDなどの再生音楽においては、音楽をつくっているのは録音エンジニアだとも言える。

そして、ウィルキンソンという、エンジニアの中でも希代の名手が関わったゲルハルト指揮によるスター・ウォーズのディスクを聴いていただければ、他のスター・ウォーズのディスクといかに一線を画しているのかおわかりいただけると思う。一聴すれば、その瞬間に目の前に広がるオーケストラの巨大さを、そして上方に音が立ち昇るさまが確認できるはずである。(次回に続く)

イギリス / ロンドン

<詳細情報>
・キングスウェイ・ホール跡(Kingsway Hall Hotel)
66 Great Queen St, Bloomsbury, London

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