色彩と線の画家クレーによるアーティスト論評と谷川俊太郎も惚れこんだ魚の絵 / 『クレーの日記』と『クレーの絵本』を読む

・クレーの日記 / The Diaries of Paul Klee, 1898-1918 / Paul Klee Tagebücher 1898-1918
画家パウル・クレーによる1890年代~1918年第一次大戦終結-39歳時-までの日記。

この素晴らしい装丁だけでも手にしたくなるが、その内容も劣らず素敵。クレーはヴァイオリンの腕もプロ級で、文筆力を含め才人だった。日記を読むと、旅好きで、美食家で、大戦中の描写はしんどいけれども、読むと時空を超えた旅をすることができる。

今でこそ、TwitterやFacebookと他者の日記、日常を手軽に垣間見る手段はいくらでもあるが、昔の人となると話は別で簡単なものではない。しかし、日記文学であれば、手軽に当時の日常に埋没でき、時代の息吹を直に感じることができる。今日食べたもの、たわいもない知人たちとの会話等々、日記に書かれることは日常すぎて、当時の状況に埋没できない場合は、退屈の極みなのだけれども、日記の描かれる状況や雰囲気に馴染んでくると楽しいものだ。そして、就寝前にまどろみながら読むのに、案配がよいのが日記文学。

そんな淡々と日常が描かれる「クレーの日記」からアートや音楽についての記述を以下に抜粋してみた。絵画のみならず音楽についても造詣が深く、プッチーニやシュトラウス、マーラーなどの記述は同時代の作曲家の音楽評論としても面白い。そして、ゴッホへの高い評価も読んでいて嬉しくなる。

1901年10月27日
ペルジーノやボッティチェリもミケランジェロを前にしては大したことがないのがわかる。ラファエロの壁画は及第。しかし、ミケランジェロに圧倒されまいとラファエロが背伸びをしているあとがありありと見える。

1902年1月16日
プッチーニのボエーム。優秀だ。すべての要素が当分にかみあっている作品だ。これが演劇であったら、この幼稚な原作はただ貧しい効果しか上げ得ないだろう。しかし、音楽によって、全ては人間化され心深く迫るので、人々はいたく同情し登場人物や運命を崇高なものと思う。

1905年6月1日
ブローニュの森を通って、歩いてサン・クルーへ行く、帰りはセーヌ河のほとりを歩く。晩、サラ・ベルナールのセビリャの理髪師。イタリア語。

1906年10月
ミュンヘン。モットル指揮によるウェーバーの歌劇「魔弾の射手」ダルベールのフラント・ソロとリヒャルト・シュトラウスの「火難」。間が抜けている。

1908年4月1日
晩、ピーパーを訪問。ピーパーは一風かわった人間で、マーラーとブルックナーの音楽に惚れこんでいる。私は夢中になれない。ほんの一時だけならまだしも、音楽もこうなってはおしまいだ!!

1911年早春
とくに興味深いのは、歴史の流れのなかにおけるファン・ゴッホの位置を確かめること-すなわち、印象主義と断絶することなく、しかも新しいものを創造したという事実である。

パウル・クレーはスイス人ながら第一次大戦ではドイツ軍に従軍するほどのドイツな人。彼の日記を読むと、そんな戦時中の最中でも食通であることがわかる。そして、戦争に対しては唾棄していることも伺える。

1916年3月31日
まさしく軍隊病だ。本当にいやけがさす。夜行演習のとき、中尉が茶番劇をやってみせたのだ。私達を鉄道線路の土手にならばせ、私達を撃たせた。弾丸にあたったものはだれもいなかったが・・・

1917年10月24日
今日は航空学校の厄日だった。早朝、一機が墜落し、操縦士が骨をひどく折る。午後は、一中尉がかなり高いところから墜落死。君たち、明日の日曜飛行を存分おたのしみなさい。私は、ぬくぬくと暖かい部屋におさまり、戦争などまっぴら御免だ

・クレーの絵本 谷川俊太郎 著

昨年、ハンブルクを訪れ念願のクレーの「黄金の魚」を見ることができた。谷川俊太郎の「クレーの絵本」の表紙にもなっている画である。そして、実物を見て驚いた。全体にひどくくすんでいて、暗い色調なのだ。画集などの印象とは全く異なって、まるで深海魚のよう。しかし、暗い深海で金色にうすら輝く魚は荘厳さがひたひた伝わってくる。

黄金の魚(Der Goldefisch)@ハンブルグ市立美術館(Hamburger Kunsthalle)2018年撮影

先の谷川俊太郎がクレーの魚の絵によせて「おおきなさかなはおおきなくちでちゅうくらいのさかなをたべ」と詩をつけたものが「クレーの絵本」に収録されている、詩のタイトルは「黄金の魚」。だが、同じくクレーによるニューヨーク近代美術館(MOMA)の魚の絵と、この詩はかぶった内容になる。

こちらの絵「魚をめぐって(Around the Fish)」は、食物連鎖をなんとなく描いているらしく、実は魚は皿にのっているのではなく、水の中にいる。魚の周りに描かれた紋様も食物連鎖と言われれば、さもありなんの感じである。

魚をめぐって(Around the Fish)@ニューヨーク近代美術館(MOMA)2016年撮影

クレーの絵の関連美術館として、ベルリンのシャルフ・ゲルステンベルク・コレクション(Sammlung Scharf-Gerstenberg)もご紹介しておきたい。ちょうど訪れた時はクレーの特別展をやっていたのだが、そもそもクレーの収蔵が多い美術館なので、クレーがお好きな方は訪問する価値があると思う。

Karge Worte des Sparsamen@シャルフ・ゲルステンベルク・コレクション(Sammlung Scharf-Gerstenberg)2014年撮影

また、シャルフ・ゲルステンベルク・コレクションの横には、ブレーハン美術館(Bröhan-Museum)という分離派、ユーゲント・シュティールの一大コレクションがあるので、こちらも大推薦である。

クレーの日記 パウル・クレー著
クレーの絵本パウル・クレー / 谷川 俊太郎著

ドイツ / ハンブルク ベルリン アメリカ / ニューヨーク

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