酸ヶ湯が教えてくれた滞在型の旅行 / 温泉での自炊旅、湯治旅の楽しみ

温泉や湯治もよいなぁ、と思いつつ、過去幾度か訪ねた酸ヶ湯温泉旅館の思い出をまとめてみた。
この時の湯治旅が最近のヨーロッパ旅行でアパートに逗留するスタイルの旅のきっかけになったのかもしれない。
滞在型の旅というのは、地元をよく知ることになるし、あくせくしないのがよい。逆に移動中心の旅となると、荷物を持って右往左往、荷造りに荷ほどき、旅程調べとせわしない。逗留旅では、そのようなプロセスがないので、じっくりゆったり宿泊地を堪能できるのが魅力だ。
湯治旅では、更に温泉が加わるのだからたまらない。

(こちらの記事は過去の数回にわたる酸ヶ湯訪問をまとめたものになります。酸ヶ湯温泉は2018年に改装され、更に綺麗になっているようです。)

酸ヶ湯温泉

酸ヶ湯温泉旅館 は本州最北の八甲田の山々の中にあり標高900m、涼しくて空気は美味しく、当然、人も少ないという風光明媚な温泉。弘前(黒石)、青森、八戸(十和田市)のどこへ行くのも数十キロと、山の上ながら都市間の中心に位置しており、足があれば、どこへ行くにも便利である。

八甲田山の山並み @酸ヶ湯

山の中と言っても、千人風呂と言われる大きな浴場を有するだけあって、温泉施設も駐車スペースもとても広い。林道のような細い道を抜けると忽然と巨大な温泉宿が現れるのも酸ヶ湯ならではの景色。

酸ヶ湯の巨大な温泉宿が現れる @酸ヶ湯

酸ヶ湯温泉で湯治

1番手間にある旧館の建物。本館正面右側にあり、多分昭和初期の建物で、現在も湯治宿として使われている。

玄関はもう使われていないが、旧館は湯治用の宿泊施設になっている @酸ヶ湯

ちなみに、湯治客向けのお部屋はテレビしかない畳6畳の部屋。この部屋で日々、温泉に浸かりながらゆったり生活をする。布団の上げ下げは自分でやるし、室内に洗面やトイレはなく、共同のものを使用する。まあ、たいていの湯治客は1日に数度温泉に浸かるために布団は万年床なので、布団の上げ下げをしてもらう必要はないのだが。

一般的な湯治部屋 @酸ヶ湯

炊事場も共有スペースとなり、時間になると各部屋の住人が調理をし始める。ここでは、湯治暮しをしている地元のおばあちゃんから畑でとれたお野菜を炊事場でお裾分けされたこともある。こうした語らいや交流が生まれるので、共同施設というのはまんざら悪くはない。湯治に専念する者同士まったり過ごすのがかえって魅力にもなる。

炊事室 @酸ヶ湯

屋内の廊下も風情があり、宿の中には看護師常駐の医務室まである。湯治客のおばあさん、おじいさんが部屋に入って、相談をしている姿なんかも本格的な温泉ならでは。

風情ある廊下 @酸ヶ湯

こちらは部屋にあった「湯治のお客のお約束ごと」。ポットのお湯は自分で沸かす、掃除は三日おきにやってくださる、だそう。

湯治棟の注意事項 @酸ヶ湯

酸ヶ湯名物の千人風呂は混浴

そして、お風呂は本当に見事。酸ヶ湯は最近の風潮に反して、混浴を死守している。その為に男女の境界線や戒めの立て札等、最近では午前午後一時間ずつ女湯タイムを設けているようで運営側の苦労もうかがえる。
ちなみに、平日の夜中となると湯船には誰もおらず一人で浸かることにもなる。八甲田の山奥にある広くて古い浴場は静けさに包まれ、湯煙、ぼんやりとした灯りの効果もあるものだから、夜中は「物の怪」とか出てきそうな、いささか怖いものがある。

千人風呂 @酸ヶ湯
※撮影禁止の為、こちらの写真は酸ヶ湯の公式ページのものになります

この温泉には「上手な温泉とのつき合い方 九ヶ条」なるものがある。元は10ヶ条だったものが、9ヶ条 になっているようだが(笑)。消された1ヶ条は、お湯をおちょこ一杯程度飲むことを奨励していた内容だと思われる。実は、このお湯は硫黄分がとても強く、傷口にはしみる上に目に入ると痛い。そして、逗留すると体中から硫黄の臭いを発するという、すごいシロモノ。飲泉にはちょっと向いていないかもしれない。

上手な温泉とのつき合い方 9ヶ条 @酸ヶ湯

● 湯治客の食事サポートも万全な酸ヶ湯温泉

湯治客は先の炊事場で調理する方は多い。しっかりした炊事場なので温泉施設内で食材を買って、簡単な料理ならいつでもできる。以前は大きな「食品売店」があったが、この売店はマッサージ室に変わってしまい、更にその後は男女別温泉に様変わりしてしまった。しかし、食品等の生活必需品はお土産店にブースが用意され引き続き購入できる。つまり、食材の用意なく手ぶらで行った湯治客も何不自由なく生活できるようになっている。

以前あった味わい深い食品売店 @酸ヶ湯

土産店にある生活必需品ブースでは、缶詰、調味料、そして日用品も軍手や亀の子タワシ、絆創膏などまであり、必要なものはほとんどすべて揃う。

湯治客用の生活必須物資たち @酸ヶ湯

土産物店には、 簡単な総菜やお握りもあって、八甲田山に登山に行く方もここでお弁当を買って出かけていた。

総菜なども販売している @酸ヶ湯

自炊を遠慮したい人は、こうした売店を活用してもよい。また、朝夕付で湯治棟に泊まれるプランもあるので、とにかく自炊は一切しないで逗留することも可能だ。
ある日の湯治客用の夕食では、こんなボリューム感ある献立の時があった。秋刀魚焼きに、ハンバーグ、鍋はウナギの卵とじ、いか納豆と和え物、煮物。献立を間違えてしまったのではないかというボリュームであった。しかし、温泉に日に幾度も入るとけっこうお腹がすくもので、他のお客様も皆さんこの献立を食べきっていたようだ。そして、もちろん朝ご飯も美味しいシラス大根や筋子が山盛りいただけたりと立派なものが用意されている。

とある日の夕食 @酸ヶ湯

● これまで酸ヶ湯を訪れて

最初に酸ヶ湯に訪れたのは1988年の学生時代、その時はオートバイに積んだテントでの寝泊まりだったので、千人風呂に浸かっただけ。浴場には地元の老人達がたくさんおり、現在とは全く雰囲気が異なり、観光地と言うよりも地元の方々の湯治場そのままの雰囲気。
自分のような若輩者が山奥の温泉に来ることが珍しかったらしく、湯船でその老人達にやたら話しかけられた。ただ皆さんの話す東北訛がキツくて、なかなか聞き取れなかったことを覚えている。そして、八甲田山近辺の林道をオートバイで走り回ったが、まだ未舗装道路も多く、砂利道の農道に迷い込んでしまい難儀した。

その次に訪れたのは、それから数年後。この時もまだ観光地化されておらず、湯治場の雰囲気が強かった。早朝5時くらいにお風呂に行き「お早いですね」とおじさんに、ご挨拶をしたところ「俺ら。百姓だから、ぜんぜん早くねぇ、今時分はいつも仕事してっから」みたいなことを言われた。この時初めて八甲田山を太平洋側に下り、立派なアーケードがある十和田市に魅了された。ちょうど秋祭りの時期であった。
思い出すのは、十和田市では子供も家族連れも街にくり出して買物をし、小売店はとても元気がよかった。なかでも中央商店街というパサージュに似た小規模なアーケード空間が素敵であった。イオンなどの大規模店舗ができる前の日本の地方都市ではこれが一般的な景色だった。

1990年代の中央商店街 @十和田市

続いて、酸ヶ湯訪ねたのは初訪問から20年あまり経っての2007年、今から10年以上前である。大型バイクで北海道ツーリングに行った帰りに立ち寄った。そして酸ヶ湯をベースにして青森、弘前、十和田各地に日帰りツーリングをした。さすがにこの頃になると酸ヶ湯の観光地化が進み、雰囲気もだいぶ垢抜けてきていた。登山客も増えて酸ヶ湯を活用して山登りに向かう人が増えたようだ。しかし、まだ酸ヶ湯では携帯電話はつながりにくかった。
十和田市も再訪してみたが、とても驚いた。アーケードはシャッター通りと化しており、あのパサージュに似た中央商店街は入口付近にある2店舗しか営業していない有様である。ちなみに、その翌年に十和田市現代美術館が完成したが、結局、十和田市の商店街が再度活性化することはなく、2014年に再訪した際には1店舗のみの営業になり、先日歴史ある中央商店街のアーケードは取り壊されてしまったらしい。

2007年の中央商店街 @十和田市

この時、黒石や弘前を訪れたがどちらも印象深かった。黒石のこみせは、まだしっとりとした昔の面影を残し、「つゆ焼きそば」も今ほどは盛んに売り出されてはいなかった。弘前では日本聖公会弘前 昇天教会が記憶に残っている。この建物は戦前の赤レンガ建築。内部は障子で仕切られており、その障子を開けると立派な礼拝堂が現れ、内装の見事な和洋折衷様式に驚いた。

日本聖公会弘前昇天教会教会堂 @弘前

そして、湯治や逗留旅に目覚めたのがこの時であり、移動する日々ではなく、ベースを決めて時にはベースに1日滞在したり、逗留場所を起点に周囲を巡ったりの旅に味をしめた。

● 湯治逗留で読書の楽しさ

連日の雨模様だった時は無理して外出せずに、読書三昧の旅に振り変えることを覚えたのもこの時の旅行である。ツーリングだったので、持参したたくさんのオートバイ関係の本に夢中になっていたことも手伝って、数日間温泉に入りながら部屋で読書三昧だったことを思い出す。

失われた記憶の探求という物語面からも価値の探求と言う哲学面からも刺激的な「 禅とオートバイ修理技術」という本、その後の旅のお伴とすることにしたのも酸ヶ湯での再読がきっかけだった。

禅とオートバイ修理技術 ロバート・M. パーシグ著

その他にも、破天荒な振舞いと当時の南米諸国の実情が興味深かったゲバラの「モーターサイクル・ダイアリーズ」。

モーターサイクル・ダイアリーズ エルネスト・チェ・ゲバラ 著

マニエリズムの絵画を見ているようなバイクを操る躍動感、スリル、満足感が一文一文に凝縮された主人公レベッカのオートバイを操縦する様の描写がなんとも素晴らしいマンディアルグ「オートバイ」。

オートバイ A.ピエール・ド・マンディアルグ 著

酸ヶ湯で、こんな本を読んでいたことも良き思い出だ。そして、これらに登場するのは古きよき時代のオートバイ。常々のメンテは欠かせない手のかかる代物。だからこそ、オートバイを操縦して、周囲を肌で身体で感じることができ、地形だけでなく土地の文化を、空気も風も雨もを、生身で感じるすばらしさがあり、これらの本にはそのことが共通していると感じた。

● 改めて酸ヶ湯の魅力

当時の日記にはこうある
「この大浴場、本当によいお風呂だと思う。総ヒノキ造り、80坪の面積。朝は、陽光きらめく薄ガラスの窓、夜は、黄色灯のぼんやり仄かな光、雨の日は、雨足が木の壁をたたくかすかな音、古木に囲まれたお風呂で折々の雰囲気を感じながらゆっくりつかる。
お湯は白濁した源泉かけ流し、口には酸っぱく、目に入ると痛いほど酸が強い硫黄泉。日に何度もつかると身体中が硫黄臭くなるが、心身に効能がしみこんでくる気にもなってくる。洗い場はなく、湯治中は石鹸を使わない、せっかく体に沁みつつある温泉成分を洗い流すことになってしまうから。
湯治宿の部屋は、廊下も軋み、薄い壁一枚で隣の部屋の音はまる聞こえ物質的な贅沢さとは対極にある。が、たいへん優雅なひと時。」

この酸ヶ湯の温泉が、滞在する旅の楽しみ方を教えてくれたとも言える。

日本 / 青森県 酸ヶ湯

<詳細情報>
酸ヶ湯温泉旅館
〒030-0197 青森県青森市大字荒川南荒川山 国有林 小字酸湯沢50

にほんブログ村 旅行ブログ 旅行情報へ
↑よろしければ、ランキングにクリックくださると嬉しいです。ブログランキングに挑戦中でして怪しいリンクではありません-笑