酸ヶ湯が教えてくれた滞在型の旅行 / 温泉での自炊旅、湯治旅の楽しみ

酸ヶ湯が教えてくれた滞在型の旅行 / 温泉での自炊旅、湯治旅の楽しみ

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温泉や湯治もよいなぁ、と思いつつ、過去幾度か訪ねた酸ヶ湯温泉旅館の思い出をまとめてみた。
この時の湯治旅が最近のヨーロッパ旅行でアパートに逗留するスタイルの旅のきっかけになったのかもしれない。
滞在型の旅というのは、地元をよく知ることになるし、日々の移動にあくせくしないのがよい。逆に移動中心の旅となると、荷物を持って右往左往、荷造りに荷ほどき、旅程調べとせわしない。逗留旅では、そのようなプロセスがないので、じっくりゆったり宿泊地を堪能できるのが魅力だ。湯治旅では、更に温泉が加わるのだからたまらない。
(以下、2023年追記)
酸ヶ湯の千人風呂なる大浴場には「熱湯(ねつゆ)」と言う身体の温もりが持続する、ぬるめのお風呂がある。ここは「母の意見と熱湯ばかりゃぬるいようで、粗末にゃならぬヨ、あとでききます、身にしみる」と八甲田音頭で唄われている。じっくり日に何度も入るに最適な湯温で、風情ある木造の建物とともに、このお風呂は何度浸かっても良いものと感じる。
学生時代、テント持参のツーリングで酸ヶ湯温泉でお湯だけ借りた際には、周辺のお百姓さんが千人風呂にたくさんおり、若い者がこんな山奥で何をしてるのだ、とからかわれた。市内から来て山菜採りついでに湯治をしているご婦人方も自炊棟にはいらした。今回、こうした地元の方の姿がかなり減っていて少し寂しく感じたのも事実だ。客層は観光客にかなりシフトしたようで、宿泊料も若干上がっている。
しかし、随所に湯治宿の姿を残そうとする経営努力がみられた。共同炊事場はしっかり残っているし、売店のおむすびの値段も変わっていない。湯治客向けの食事は以前ほど豪勢ではなくなったが、美味しい料理を安価に提供してくださっている。また、宿の各所のリニューアルによって快適さは増し、若い女性客も気兼ねなくリラックスできる工夫が随所に凝らしてあるのもよい。
今回、酸ヶ湯温泉を再訪して追記をしたためた。

酸ヶ湯温泉へ
酸ヶ湯温泉で湯治
酸ヶ湯名物の千人風呂は混浴
湯治客のサポートも万全な酸ヶ湯温泉
これまで酸ヶ湯を訪れて
湯治逗留で読書の楽しさ、オートバイ関連の小説に読みふける
改めて酸ヶ湯の魅力

(こちらの記事は過去の数回にわたる酸ヶ湯訪問をまとめたもので、赤色下線部分が2023年の追記部分になります)

酸ヶ湯温泉

酸ヶ湯温泉旅館 は本州最北の八甲田の山々の中にあり標高900m、涼しくて空気は美味しく、当然、人も少ないという風光明媚な温泉。弘前(黒石)、青森、八戸(十和田市)のどこへ行くのも数十キロと、山の上ながら都市間の中心に位置しており、足があれば、どこへ行くにも便利である。

酸ヶ湯 滞在型旅行 自炊旅湯治旅 酸ヶ湯温泉旅館 八甲田山の山並み
八甲田山の山並み @酸ヶ湯

山の中と言っても、千人風呂と言われる大きな浴場を有するだけあって、温泉施設も駐車スペースもとても広い。林道のような細い道を抜けると忽然と巨大な温泉宿が現れるのも酸ヶ湯ならではの景色。

酸ヶ湯 滞在型旅行 自炊旅湯治旅 酸ヶ湯温泉旅館  酸ヶ湯の巨大な温泉宿が現れる
酸ヶ湯の巨大な温泉宿が現れる @酸ヶ湯

酸ヶ湯温泉で湯治

1番手間にある旧館の建物(三号館)。本館正面右側(向かって左側)にあり、多分昭和初期の建物で、現在も湯治宿として使われている。湯治部の中でも古い建物であった三号館が、現在ではとても綺麗になり、各部屋にトイレと洗面台までついている。驚いたのは昔は雑然としていた三号館の玄関付近が見違えるような変化を遂げていた。

その昔の三号館玄関(外側) @酸ヶ湯温泉 三号館玄関
その昔の三号館玄関(外側) @酸ヶ湯温泉 三号館玄関
現在の三号館玄関(外側) @酸ヶ湯温泉 三号館玄関
現在の三号館玄関(外側) @酸ヶ湯温泉 三号館玄関

雑然と放置状態だった玄関内部も現在はギャラリーになっており、しかも吹き抜け構造になっている。2階には棟方志功の真作とされている作品が展示されていた。(館内にある他の棟方志功作品はほとんどが複製とのこと)

その昔の三号館玄関(内側) @酸ヶ湯温泉 三号館玄関
その昔の三号館玄関(内側) @酸ヶ湯温泉 三号館玄関
ギャラリーとなった現在の三号館玄関(内側) @酸ヶ湯温泉 三号館玄関
ギャラリーとなった現在の三号館玄関(内側) @酸ヶ湯温泉 三号館玄関
ギャラリー2階吹き抜けに展示されている棟方志功作品 @酸ヶ湯温泉 三号館玄関2階
ギャラリー2階吹き抜けに展示されている棟方志功作品 @酸ヶ湯温泉 三号館玄関2階

ちなみに、湯治客向けのお部屋はテレビしかない畳6畳の部屋。この部屋で日々、温泉に浸かりながらゆったり生活をする。布団の上げ下げは自分でやるし、室内に洗面やトイレはなく、共同のものを使用する。尚、酸ヶ湯の湯治部は万年床推奨、入浴は1回20分を1日3~5回奨励なので、そもそも布団の上げ下げをしてもらう必要はない。

酸ヶ湯 滞在型旅行 自炊旅湯治旅 酸ヶ湯温泉旅館 一般的な湯治部屋 @酸ヶ湯
一般的な湯治部屋 @酸ヶ湯

炊事場も共有スペースとなり、時間になると各部屋の住人が調理をし始める。ここでは、湯治暮しをしている地元のおばあちゃんから畑でとれたお野菜を炊事場でお裾分けされたこともある。こうした語らいや交流が生まれるので、共同施設というのはまんざら悪くはない。湯治に専念する者同士まったり過ごすのがかえって魅力にもなる。
この各棟の共同炊事場などの自炊施設は昔と同じように残されている。しかし、洗面所まである湯治部屋ができた今、共同のこちらの洗い場を使う人は少なくなったようだ。

酸ヶ湯 滞在型旅行 自炊旅湯治旅 酸ヶ湯温泉旅館  炊事室
炊事室 @酸ヶ湯

屋内の廊下も風情があり、宿の中には看護師常駐の医務室まである。湯治客のおばあさん、おじいさんが部屋に入って、相談をしている姿なんかも本格的な温泉ならでは。

酸ヶ湯 滞在型旅行 自炊旅湯治旅 酸ヶ湯温泉旅館  風情ある六号館の廊下 @酸ヶ湯
風情ある六号館の廊下 @酸ヶ湯

ちなみに六号館も外見を大きく変えずに、現在は内外ともにリニューアルされている。

その昔の六号館玄関(外側) @酸ヶ湯温泉
その昔の六号館玄関(外側) @酸ヶ湯温泉
現在の六号館玄関(外側) @酸ヶ湯温泉
現在の六号館玄関(外側) @酸ヶ湯温泉
現在の三号館(手前)と六号館(奧) @酸ヶ湯温泉
現在の三号館(手前)と六号館(奧) @酸ヶ湯温泉

ただし、まだまだ昔の風情を残す湯治棟がある、それが五号館。2023年は五号館2階の505号室で逗留をした。部屋にトイレや洗面台はないがテレビや冷蔵庫、衣装ダンスは備わっており、今まで宿泊したリニューアル前の湯治棟と同じスタイルの部屋だ。電気ポットはないが、部屋の扉を出てすぐのところに炊事場があるので、やかんで湯をわかし魔法瓶に入れれば問題はない。同様に共同の洗濯機も共同トイレも部屋付近にあるので全く不自由は感じなかった。

五号館2階の505号室 @酸ヶ湯温泉
五号館2階の505号室 @酸ヶ湯温泉
五号館2階の505号室 @酸ヶ湯温泉
五号館2階の505号室 @酸ヶ湯温泉

それに、大昔からある金庫、展示されているのか、廃棄が難しく捨て置かれている(笑)のわからぬが、しっかりとこちらも廊下の同じ場所に鎮座していた。

以前のままの古い金庫 @酸ヶ湯温泉
以前のままの古い金庫 @酸ヶ湯温泉

参考までに、部屋にあった「湯治のお客のお約束ごと」。ポットのお湯は自分で沸かす、掃除は三日おきにやってくださる、とのことである。

酸ヶ湯 滞在型旅行 自炊旅湯治旅 酸ヶ湯温泉旅館  湯治棟の注意事項
湯治棟の注意事項 @酸ヶ湯

酸ヶ湯名物の千人風呂は混浴

そして、お風呂は本当に見事。酸ヶ湯は最近の風潮に反して、混浴を死守している。その為に男女の境界線や戒めの立て札等、最近では午前午後一時間ずつ女湯タイムを設けているようで運営側の苦労もうかがえる。
ちなみに、平日の夜中となると湯船には誰もおらず一人で浸かることにもなる。八甲田の山奥にある広くて古い浴場は静けさに包まれ、湯煙、ぼんやりとした灯りの効果もあるものだから、夜中は「物の怪」とか出てきそうな、いささか怖いものがあるが、とても素敵なひと時でもある。

酸ヶ湯 滞在型旅行 自炊旅湯治旅 酸ヶ湯温泉旅館  千人風呂
千人風呂 @酸ヶ湯
※撮影禁止の為、こちらの写真は酸ヶ湯の公式ページのものになります

この温泉には「上手な温泉とのつき合い方 九ヶ条」なるものがある。元は10ヶ条だったものが、9ヶ条 になっているようだが(笑)。消された1ヶ条は、お湯をおちょこ一杯程度飲むことを奨励していた内容だと思われる。実は、このお湯は硫黄分がとても強く、傷口にはしみる上に目に入ると痛い。そして、逗留すると体中から硫黄の臭いを発するという、すごいシロモノ。飲泉にはちょっと向いていないかもしれない。

酸ヶ湯 滞在型旅行 自炊旅湯治旅 酸ヶ湯温泉旅館  上手な温泉とのつき合い方 9ヶ条
上手な温泉とのつき合い方 9ヶ条 @酸ヶ湯

お風呂の様子は変わっておらず、以前と同様の落ち着いた趣、脱衣場にある「入浴方法順序」を示した古い看板もそのまま掲示されていた。

「入浴方法順序」を示した古い看板 @酸ヶ湯温泉
「入浴方法順序」を示した古い看板 @酸ヶ湯温泉

● 湯治客のサポートも万全な酸ヶ湯温泉

湯治客は先の炊事場で調理する方は多い。しっかりした炊事場なので温泉施設内で食材を買って、簡単な料理ならいつでもできる。以前は大きな「食品売店」があったが、この売店はマッサージ室に変わってしまい、更にその後は男女別温泉に様変わりしてしまった。しかし、食品等の生活必需品はお土産店にブースが用意され、引き続き購入できる。つまり、食材の用意なく手ぶらで行った湯治客も何不自由なく生活できるようになっている。

酸ヶ湯 滞在型旅行 自炊旅湯治旅 酸ヶ湯温泉旅館  以前あった味わい深い食品売店 @酸ヶ湯温泉売店
以前あった味わい深い食品売店 @酸ヶ湯温泉売店

土産店にある生活必需品ブースでは、缶詰、調味料、そして日用品も軍手や亀の子タワシ、絆創膏などまであり、必要なものはほとんどすべて揃う。

酸ヶ湯 滞在型旅行 自炊旅湯治旅 酸ヶ湯温泉旅館  以前販売されていた生活必要物資 @酸ヶ湯温泉売店
以前販売されていた生活必要物資 @酸ヶ湯温泉売店

土産物店には、 簡単な総菜やお握りもあって、八甲田山に登山に行く方もここでお弁当を買って出かけていた。

酸ヶ湯 滞在型旅行 自炊旅湯治旅 酸ヶ湯温泉旅館  以前は総菜なども販売していた @酸ヶ湯温泉売店
以前は総菜なども販売していた @酸ヶ湯温泉売店

現在の売店はすっかりお土産屋さんになってしまっており、湯治客向けのブースは縮小されて、日用雑貨が少しと即席麺などが少々ある程度。以前のような豊富な調味料や缶詰類は見当たらない。どちらかと言うと酸ヶ湯をベースにして登山やトレッキング客に向けたサービスが主となっているようだ。

現在の玄関わきにある売店 @酸ヶ湯温泉売店
現在の玄関わきにある売店 @酸ヶ湯温泉売店
現在の日用雑貨ブース @酸ヶ湯温泉売店
現在の日用雑貨ブース @酸ヶ湯温泉売店
現在軽食調味料ブース @酸ヶ湯温泉売店
現在軽食調味料ブース @酸ヶ湯温泉売店
トレッキング客向けの軽食  @酸ヶ湯温泉売店
トレッキング客向けの軽食 @酸ヶ湯温泉売店

湯治客向けの食材販売は減ってしまったが、朝晩の食事については湯治客向けにも安価に提供してくれる。また、部屋には冷蔵庫もあり、炊事場にはガス台の他に電子レンジもあるので、数日分の食材を持込んで自炊しながらの湯治もまだまだ可能である。実際、今回も五号館で自炊をしながら数日の湯治逗留をされている方がいらした。

自炊を遠慮したい人は、売店活用以外に朝夕付で湯治棟に泊まれるプランもあるので、とにかく自炊は一切しないで逗留することも可能だ。
ある日の湯治客用の夕食では、こんなボリューム感ある献立の時があった。秋刀魚焼きに、ハンバーグ、鍋はウナギの卵とじ、いか納豆と和え物、煮物。献立を間違えてしまったのではないかというボリュームであった。しかし、温泉に日に幾度も入るとけっこうお腹がすくもので、他のお客様も皆さんこの献立を食べきっていたようだ。そして、もちろん朝ご飯も美味しいシラス大根や筋子が山盛りいただけたりと立派なものが用意されている。

酸ヶ湯 滞在型旅行 自炊旅湯治旅 酸ヶ湯温泉旅館 とある日の夕食
とある日の夕食 @酸ヶ湯

また、昨今の酸ヶ湯温泉のリニューアルによる恩恵もたくさんある。広々とした休憩スペース「御鷹々々サロン」はとても快適だ。湯上り後、窓の景色を見ながら本を読んで過ごすこともあった。日帰り客が帰った後は静かなもので、ここでノートパソコンに向かっている方もいた。窓の外には川が流れており、そのせせらぎを聴きながら、夜がふけていくひと時もよかった。

休憩スペース「御鷹々々サロン」 @酸ヶ湯温泉
休憩スペース「御鷹々々サロン」 @酸ヶ湯温泉

手もみ処「ご褒美の部屋」も綺麗になっており、今回初めて利用した。マッサージをしてくださった方が地元津軽の方で、青森の今昔や酸ヶ湯の古い建物の至る所に住み込み従業員部屋が隠れている等、いろいろな話を伺えて楽しくもあった。

手もみ処「ご褒美の部屋」 @酸ヶ湯温泉
手もみ処「ご褒美の部屋」 @酸ヶ湯温泉

そして、浴衣は廊下に備えてあり、自由にサイズを選択でき、日々交換ができるようになっていた。

浴衣コーナー @酸ヶ湯温泉
浴衣コーナー @酸ヶ湯温泉

また、ロビーには「木霊清水」と名付けられた八甲田のわき水飲み場が設置され、湯上がりに冷水を飲むことできる。

「木霊清水」と名付けられた八甲田のわき水飲み場 @酸ヶ湯温泉
「木霊清水」と名付けられた八甲田のわき水飲み場 @酸ヶ湯温泉

● これまで酸ヶ湯を訪れて

最初に酸ヶ湯に訪れたのは学生時代、その時はオートバイに積んだテントでの寝泊まりだったので、千人風呂に浸かっただけ。浴場には地元の老人達がたくさんおり、現在とは全く雰囲気が異なり、観光地と言うよりも地元の方々の湯治場そのままの雰囲気。
自分のような若輩者が山奥の温泉に来ることが珍しかったらしく、湯船でその老人達にやたら話しかけられた。ただ皆さんの話す東北訛がキツくて、なかなか聞き取れなかったことを覚えている。そして、八甲田山近辺の林道をオートバイで走り回ったが、まだ未舗装道路も多く、砂利道の農道に迷い込んでしまい難儀した。

その次に訪れたのは、それから数年後。この時もまだ観光地化されておらず、湯治場の雰囲気が強かった。早朝5時くらいにお風呂に行き「お早いですね」とおじさんに、ご挨拶をしたところ「俺ら。百姓だから、ぜんぜん早くねぇ、今時分はいつも仕事してっから」みたいなことを言われた。
この時の旅で初めて八甲田山を太平洋側に下り、立派なアーケードがある十和田市に魅了された。ちょうど秋まつりの時期であった。
思い出すのは、十和田市では子供も家族連れも街にくり出して買物をし、小売店はとても元気がよかった。なかでも中央商店街というパサージュに似た小規模なアーケード空間が素敵であった。イオンなどの大規模店舗ができる前の日本の地方都市ではこれが一般的な景色だった。

酸ヶ湯 滞在型旅行 自炊旅湯治旅 酸ヶ湯温泉旅館  1990年代の中央商店街 @十和田市
1990年代の中央商店街 @十和田市

続いて、酸ヶ湯訪ねたのは初訪問から20年あまり経っての2007年、今から10年以上前である。大型バイクで北海道ツーリングに行った帰りに立ち寄った。そして酸ヶ湯をベースにして青森、弘前、十和田各地に日帰りツーリングをした。さすがにこの頃になると酸ヶ湯の観光地化が進み、雰囲気もだいぶ垢抜けてきていた。登山客も増えて酸ヶ湯を活用して山登りに向かう人が増えたようだ。しかし、まだ酸ヶ湯では携帯電話はつながりにくかった。
十和田市も再訪してみたが、とても驚いた。アーケードはシャッター通りと化しており、あのパサージュに似た中央商店街は入口付近にある2店舗しか営業していない有様である。ちなみに、その翌年に十和田市現代美術館が完成したが、結局、十和田市の商店街が再度活性化することはなく、2014年に再訪した際には1店舗のみの営業になり、先日歴史ある中央商店街のアーケードは取り壊されてしまったらしい。

酸ヶ湯 滞在型旅行 自炊旅湯治旅 酸ヶ湯温泉旅館  2007年の中央商店街 @十和田市
2007年の中央商店街 @十和田市

この時、黒石や弘前を訪れたがどちらも印象深かった。黒石のこみせは、まだしっとりとした昔の面影を残し、「つゆ焼きそば」も今ほどは盛んに売り出されてはいなかった。弘前では日本聖公会弘前 昇天教会が記憶に残っている。この建物は戦前の赤レンガ建築。内部は障子で仕切られており、その障子を開けると立派な礼拝堂が現れ、内装の見事な和洋折衷様式に驚いた。

酸ヶ湯 滞在型旅行 自炊旅湯治旅 酸ヶ湯温泉旅館  日本聖公会弘前昇天教会教会堂  @弘前
日本聖公会弘前昇天教会教会堂 @弘前

そして、湯治や逗留旅に目覚めたのがこの時であり、移動する日々ではなく、ベースを決めて時にはベースに1日滞在したり、逗留場所を起点に周囲を巡ったりの旅に味をしめた。

そして、今回も酸ヶ湯温泉をベースに、弘前市内や周辺の美術館を巡った。小一時間で青森県の各都市にアクセスできる位置はあいかわらず便利である。ただし、夕暮時は八甲田山の天候が怪しくなりがちで、濃霧に2度ほど合った。帰路の運転には少々注意が必要である。

● 湯治逗留で読書の楽しさ、オートバイ関連の小説に読みふける

連日の雨模様だった時は無理して外出せずに、読書三昧の旅に振り変えることを覚えたのもこの時の旅行である。ツーリングだったので、持参したたくさんのオートバイ関係の本に夢中になっていたことも手伝って、数日間温泉に入りながら部屋で読書三昧だったことを思い出す。

失われた記憶の探求という物語面からも価値の探求と言う哲学面からも刺激的な「 禅とオートバイ修理技術」という本、その後の旅のお伴とすることにしたのも酸ヶ湯での再読がきっかけだった。

その他にも、破天荒な振舞いと当時の南米諸国の実情が興味深かったゲバラの「モーターサイクル・ダイアリーズ」。

マニエリズムの絵画を見ているようなバイクを操る躍動感、スリル、満足感が一文一文に凝縮された主人公レベッカのオートバイを操縦する様の描写がなんとも素晴らしいマンディアルグ「オートバイ」。

酸ヶ湯で、こんな本を読んでいたことも良き思い出だ。そして、これらに登場するのは古きよき時代のオートバイ。常々のメンテは欠かせない手のかかる代物。だからこそ、オートバイを操縦して、周囲を肌で身体で感じることができ、地形だけでなく土地の文化を、空気も風も雨もを、生身で感じるすばらしさがあり、これらの本にはそのことが共通していると感じた。

余談ながら、酸ヶ湯温泉での宿泊客のオートバイは、以前と同様に玄関脇の庇の下に置かせてもらえた。山の天候はくずれやすく雨も多い地域なので、この待遇は毎回とても助かっている。

オートバイ置き場 @酸ヶ湯温泉
オートバイ置き場 @酸ヶ湯温泉

● 改めて酸ヶ湯の魅力

最初に酸ヶ湯を訪れた昔の日記にはこうある。
「この大浴場、本当によいお風呂だと思う。総ヒノキ造り、80坪の面積。朝は、陽光きらめく薄ガラスの窓、夜は、黄色灯のぼんやり仄かな光、雨の日は、雨足が木の壁をたたくかすかな音、古木に囲まれたお風呂で折々の雰囲気を感じながらゆっくりつかる。
お湯は白濁した源泉かけ流し、口には酸っぱく、目に入ると痛いほど酸が強い硫黄泉。日に何度もつかると身体中が硫黄臭くなるが、心身に効能がしみこんでくる気にもなってくる。洗い場はなく、湯治中は石鹸を使わない、せっかく体に沁みつつある温泉成分を洗い流すことになってしまうから。
湯治宿の部屋は、廊下も軋み、薄い壁一枚で隣の部屋の音はまる聞こえ物質的な贅沢さとは対極にある。が、たいへん優雅なひと時。」
この酸ヶ湯の温泉が、滞在する旅の楽しみ方を教えてくれたとも言える。

そして、今回も昔の湯治客の味わいを残す五号館に泊まることができ、古い柱や木の窓枠に囲まれた落ち着いた和室でのんびりしながら、総ヒノキ造りの千人風呂と味わいある部屋との往復に明け暮れる日々を過ごすことができた。この古い湯治棟が残っているうちに、酸ヶ湯温泉の湯治を体験されては如何だろうか。
今なら廊下にある「お静かに」の看板も以前と変わらぬ風情で良き味わいを残しながら迎えてくれる。

廊下にある「お静かに」の看板 @酸ヶ湯温泉
廊下にある「お静かに」の看板 @酸ヶ湯温泉

日本 / 青森県 酸ヶ湯

<詳細情報>
酸ヶ湯温泉旅館
〒030-0197 青森県青森市大字荒川南荒川山 国有林 小字酸湯沢50