長年愛用している椅子、アーロンチェア(Aeron Chair)の背もたれのパーツを交換した。国内では個別のパーツは販売していないようなので、海外通販サイト eBay を利用して該当パーツ「ポスチャーフィット(PostureFit)」を取り寄せてみた。この椅子を使い続けて20年、本当にタフである。小まめに対処すればすぐに新品に元通り、本来の快適な機能を取り戻してくれる。
ポスチャーフィット(PostureFit)には、取り付け説明書が同封されていなかったので、その取り付け方法を図示してみた。また、eBay のトラッキングを探ってみたところ、米国のシンシナティや五大湖周辺の物流の歴史が面白かったので、まとめてみた。
● 素晴らしかったアーロンチェアのメンテナンスとサポート
● 背もたれのパーツを「ランバーサポート」から「ポスチャーフィット」へ
● アーロンチェア ポスチャーフィット(PostureFit)の取付方法
● eBayの優れた配送トラッキングシステム
● シンシナティのeBayの発送基地とシカゴ科学産業博物館のUボート
● 素晴らしかったアーロンチェアのメンテナンスとサポート
アーロンチェア(Aeron Chair)を購入したのは2002年の4月、もう20年が経つ。未だに販売され続けており、息の長い製品である。このアーロンチェアは、人間工学に基づいて設計され、座る人の体型や使うシーンに合わせて細かく調整でき、シートはメッシュで通気性に優れ、体重分散をしてくれるので腰痛を防ぐ効果もある。
この椅子を購入したおかげで椅子にも興味が沸き、各国の工芸博物館に立ち寄った際には椅子の展示をつぶさに見るようになった。古代から椅子に座る文化のあった地域では、椅子は身近な家具の代表格である。そして、モダニズムからポストモダニズムとデザイン背景が変遷する中で椅子はますます着目され、優れたデザインの椅子が登場してきている。
このアーロンチェアも1994年に誕生し、その美しい機能美からニューヨーク近代美術館(MOMA)の永久コレクションに選定されている。
自宅での仕事も多く、椅子に長時間座ることが多い為、座り心地のよい椅子はたいへん助かる。それだけではなく、見飽きないデザインも椅子を家具として使い続けるので大切である。
このアーロンチェア、椅子は長く使うものと思いつつも、そのお値段から、当時はかなり思い切って購入した。まだ人間工学に基づいた椅子など少なく、ゲーミングチェアもなかった時代、ここまで高額な椅子も少なかった。たしか、どこかの企業の会議室で腰掛ける機会があり、そこが気に入ったきっかけだった。
驚いたことにアーロンチェアには12年間の保証がついており、12年目の際に無償で点検修理をしてもらった。修理と言っても頑丈なフレームの椅子である、たいした故障はなく、背もたれのストッパーに少々不具合が生じたので、調整をしてもらっただけだ。その際に、椅子を分解クリーニングをしてくれ、劣化したウレタン素材の大きなパーツを2つほど無償で交換もしてくれた。
この時は、わざわざ自宅までに来てくださり、自社製品への自信とモノを大切にする会社の姿勢をジワリと感じて好印象を持った。修理をしてくれた方も雑談の端々に自社製品への自信が垣間見え、この会社のインナーブランディングも見事と感じた記憶がある。
● 背もたれのパーツを「ランバーサポート」から「ポスチャーフィット」へ
この12年目の点検修理の結果、新品のような仕上がりになり、その後は不自由なく使用していた。しかし、最近になって背もたれのパーツである「ランバーサポート」が脱落するようになってしまった。「ランバーサポート」と椅子との接合部分が経年劣化によって緩くなってしまい、背もたれに寄りかかって加重すると「ランバーサポート」が脱落してしまう。
そこで調べてみると、現在は「ポスチャーフィット」呼ばれる新しい背もたれが「ランバーサポート」の代わりに普及しているようである。更に機能的になっており、骨盤を押し上げ、猫背を避けて披露を防ぐ工夫が凝らされている。
販売元の説明には『アーロンチェア ポスチャーフィット交換プログラム』というのがあって、『ハーマンミラーストアでは、現在ご愛用頂いているアーロンチェアのランバーサポートを、オーバーホール時の有償オプションとしてポスチャーフィットへ交換するサービスをご提供しています。』とある。
しかし、オーバーホールのオプションだから、今は不要なオーバーホール代金がのせられてしまい高額になる。そして、以前のような自宅に来てくれるサービスを辞めてしまったようなので、この重たい椅子を発送する手間がかかってしまい、とても面倒ですらある。
更に調べてみると、日本では交換パーツのみの販売はやっていない。しかし、海外では「Aeron Chair PostureFit」として単体品が普通に売られていた。そこで1番安かった ebay で購入することにした。
購入前に注意することは、アーロンチェアのサイズを把握しておくことくらいである。しかも、確認方法は簡単、背もたれのハーマンミラー(Herman Miller)のロゴ裏に突起があり、この突起の数でサイズがわかる仕組みになっている。
Size A は突起が1個、Size B は突起が2個、Size C は突起が3個となっており、日本で購入した場合のほとんどがSize Bであるはずだ。
● アーロンチェア ポスチャーフィット(PostureFit)の取付方法
そこで、「Aeron Chair PostureFit Size B」 を ebay で注文をすると、すぐにパーツ一式が届いた。梱包は簡素で内容物は少なく、解説書も付属していない。
しかし、基本的パーツは、背もたれ部品のポスチャーフィット本体と、これを稼動させるワイヤーのコントロール・メカニズムのパーツの2つのみであり、組み立ては簡単である。わざわざ椅子ごとサービスセンターに送ったり、不要なオーバーホールをつけて高額な取り付け費を支払う必要は感じられない。そして、工具はプラスドライバーとT15 トルクスドライバー(星形/六角ドライバー)だけである。
トルクスドライバーはパソコン修理でも使うことがあるので、T15だけでなく安価なものを各種サイズを揃えておくとよい。また、オートバイなど車両をいじる方はT25くらいまであると便利である。
① コントロール・メカニズムを取り付ける。
コントロール・メカニズムには、ポスチャーフィットの前後押し出しを調整するダイヤル部がついている。
注意点はこのダイヤルを取り付ける際に上下を間違えないこととワイヤーを座面下に取り回すことだけである。コントロール・メカニズムのダイヤルは、座面下のアームの曲線にフィットするので、上下が合っていればすんなりアームを挟むことができ、あとはプラスドライバーでネジを締めるだけである。取り付けたら、ハンドルを左にいっぱいにまわしておき、次の工程でのクリップを取り付けやすくしておく。
② ワイヤーの頭を処理する
コントロール・メカニズムのワイヤーの頭にはクリップと呼ばれる椅子ワイヤーをガイドするパーツがある。
このクリップを取り付ける為に、背面下の既存の星形ネジが不要になるので、これをT15 トルクスドライバーではずす。
次にクリップにちょっと力を入れて、背面下にパチりとはめ、ワイヤー頭部を編み目から押し出す。ワイヤー頭部も少しずつ力を入れれば編み目を裂くことなく通すことができる。
③ ポスチャーフィットの組立てと取付け
ポスチャーフィットはY字フレームの「ウィッシュボーン」とX字の「パッド」の2つのパーツの組み合わせなので、この2つを接合する。
X字の「パッド」の上下に注意して、ウィッシュボーンにはめ込むだけでポスチャーフィットの組み立ては完了する。
椅子の背部には元の「ランバーサポート」が付いていた溝がある。この溝に「ランバーサポート」と同様に、完成した「ポスチャーフィット」をY字の形になるように取り付ける。
そして、次にランバーサポートの下部に、編み目から出しておいたワイヤー頭部をひっかけて完了である。コントロール・メカニズムのダイヤルをいっぱいに緩めておけば、ワイヤーを少し引っ張れば、ランバーサポートに引っかけることは可能である。
作業はあっと言う間におわって、20年も経つのに、またもや新しいアーロンチェアの完成である。購入時は高いと感じた椅子だが、こうなると座り心地だけでなく、コスパもかなり良い椅子と言える。
● eBayの優れた配送トラッキングシステム
今回のポスチャーフィットはeBayで95ドル+送料29ドルの合計124ドルで購入した。最近は海外のものもamazonで購入することが多くなり、eBayでの買物はかなり久しぶりだったが、トラッキング表示がとても細かくて驚いた。
Transit 表記が多いものの、1日の局内の細かな移動まで記録されており十何行にも及ぶ記載がある。こうしたトラッキングがしっかりしていると買物も安心だ。すぐに出荷されているのがわかるし、配達に時間を要しても、どこでなにが行なわれているか一目瞭然だからだ。
海外郵送の場合、荷物は毎日各地を転々としており、日本からは遠のいたりもする。一旦、荷物を集積する必要があるからだろう。今回は各州を転々としてケンタッキー州のアーランガー(Erlanger)という町で税関をパスしたらしい。
このトラッキングシステムでは、Parcel Tracker というサイトが日本語に対応しており、地図まで表示されるのが楽しい。
● シンシナティのeBayの発送基地とシカゴ科学産業博物館のUボート
ちょっと調べてみたところ、eBayのGSP(Global Shipping Program)の海外発送基地は、このケンタッキー州のアーランガー(Erlanger)というところにあるらしく、米国出荷の貨物は、そこに集積される。アーランガーは、地図を見るとオハイオ州のシンシナティ(Cincinnati)からオハイオ川を渡って10kmの町。州をまたいでいるが、シンシナティ都市圏の町である。
それで更に地図を細かく見てみると、シンシナティ空港(Cincinnati/Northern Kentucky International Airport)はオハイオ州ではなく、ケンタッキー州のアーランガー近くにある。それ故にアーランガーが物流拠点となっているようで、Amazon社もハブ空港としてこちらを使っている。
面白いことに、シンシナティ自体が、そもそもオハイオ川の河川交通の拠点として発展していた。シンシナティは流通拠点であり、かつてアメリカ南北流通の責務を担っていた都市であった。そして、オハイオ川はピッツバーグからシンシナティを経由してミシシッピ川に合流することから、工業地帯の発展に大きく寄与していたらしい。
更には、今は亡きマイアミ・エリー運河 (Miami and Erie Canal)というシンシナティとエリー湖を結ぶ運河も建設されていたので、一大水運ルートをなることを見込まれていた。
内陸の都市が5大湖のひとつエリー湖につながるというのは地図で見るとすごいことで、エリー湖に面しているデトロイトやクリーブランドとつながることを意味し、更にはヒューロン湖、ミシガン湖を経てシカゴにもアクセスできる。そして、そもそもエリー湖につながるということはオンタリオ湖、セント・ローレンス川で大西洋にもアクセスできる。
以前、シカゴの科学産業博物館(Museum of Science and Industry, Chicago)でドイツの潜水艦 U-505を見た。
この巨大な潜水艦を大西洋からシカゴまで曳航して来たのも、セント・ローレンス川を使い、エリー湖に経てシカゴに至るルートだったのを思い出した。
この時の巨大な潜水艦を博物館内に納める動画も公開されている。
しかし、そのマイアミ・エリー運河の開通と共に物流の主流は蒸気船から鉄道へと移行してしまう。ポークポリス(豚肉の都)と言われるほど食肉産業で栄えたシンシナティにとって、速度の遅い水運は向かなかったこともあり、物流の主役は鉄道に譲ってしまったようだ。
そして、今や物流手段には航空運輸も加わり、国際空港を備えたシンシナティ/アーランガーは相変わらずの物流拠点ぶりを発揮している。