ヨーロッパでの劇場チケットの買い方 / 欧州の劇場で見た、紳士たちの壮絶な席取り合戦

ヨーロッパでの劇場チケットの買い方 / 欧州の劇場で見た、紳士たちの壮絶な席取り合戦

現在、欧米におけるたいていのコンサートチケットは、インターネットで購入できる。振り返ってみるとインターネットのなかった時代の旅は、コンサートチケットだけでなくホテルも鉄道も予約が大変だった。しかしながら、手続きが大変なだけに旅の思い出も増える。
今回はそんなチケット予約と座席確保にまつわる旅のエピソードと共に、海外のチケット購入は難しいと思われている方に向けて、欧州でのコンサートチケットの入手方法について紹介する。
古い劇場で観客に求められる能力とは?
大昔のミラノ・スカラ座「席取りの鉄則」
とても親切な対応だった ロイヤル・オペラ
メールでのやり取りでつかんだ幸運 ドレスデン国立歌劇場
ウィーンフィルとミュンヘンのコンサートチケットについての詳細情報

(以前、日経ビジネスオンラインに連載した記事を加筆再編集して掲載しております)

● 古い劇場で観客に求められる能力とは?

現在、欧米ではたいていのコンサートチケットはネットで入手できる。本人確認はクレジットカードでなされるので、公演前に劇場にあるボックスオフィス(チケット売り場)でクレジットカードを提示すれば、その場でチケットを渡してくれる。また、昨今はネットでチケット購入した段階でサイトからダウンロードできたり、主催者から送られてくるメールに添付されていたりしており、自宅でプリントアウトができる。

このプリントアウト方式はなかなか重宝する。開演直前のボックスオフィスはひどく混雑するため、プリントアウトしたチケットを持参すれば、それを避けることができるからだ。また、チケットをスマホ画面に表示させ、コードを読んでもらうことで対応も可能なところも多くなった。しかし、入場の際の行列中に画面表示や読み取りでモタついたりするのも嫌なので、自分はプリントアウトを持参するようにしている。

ただし古い劇場の場合、通路が狭くて入り口もたくさんあったりする。そこで、開演間近に押し寄せる観客を避けつつ、チケット売り場を探すというダンジョンマスター的な能力も求められる。さらにボックスオフィスの場所は大きな劇場だとわかりにくい場所にあることも多く、ボックスオフィス探しに難儀したりもする。これらを避けることができるのが、事前に自らチケットをプリントアウトする方式なのである。

例えば、ベルリンのコンツェルトハウス・ベルリン、正面玄関の下。通常はこのあたりにボックスオフィスがあるのだが、なんとここは劇場横のカフェ内を通り抜けた奥に窓口があった。わかりにくい場所の代表格かもしれない。

ベルリンのコンツェルトハウス・ベルリン、正面玄関の下 @Konzerthaus Berlin
ベルリンのコンツェルトハウス・ベルリン、正面玄関の下 @Konzerthaus Berlin

日本のコンサートチケットも、そろそろこのプリントアウト方式にならないものかと思う。多くの場合、ネットで支払手続きをした後は配送かコンビニで受け取りとなる。しかし、高い発券手数料まで取られて、なぜわざわざコンビニに出向いて、紙のチケットを受け取る必要があるのだろうか。海外では主催者に発券を依頼しても請求は送料プラス小額の手数料だけであり、自分でプリントアウトすれば、もちろんチャージはない。昨今は鉄道の乗車券ですら、このプリントアウト方式やスマホアプリのQRコードを提示すれば済むことも多いのだから理解に苦しむ。

ネット購入のよい点をもう1つある。旅先でみっちりコンサートやオペラ観劇の日程を組んでいたところ、会場であるコンサートホールから突然コンサートがキャンセルになった旨のメールがスマホに届いたことがある。海外のボックスオフィスはインターネットでのチケット購入者に対して、こういった通知を個別にメールで送ってくれるので、公演がキャンセルになったことを事前に知ることができる。

親切に返金方法も書かれてあり、窓口での現金手渡し、銀行振込、他の公演とバーターなどといった具合に選択できるようにもなっていた。このときは公演前々日と、日程が差し迫ったキャンセル連絡ではあったが、それでも事前に知らせてもらえれば、わざわざ劇場まで出向いたところで失望したり、旅先で突然に生まれた空白時間の対処に困ったりしないで済むのでありがたいかぎりである。

● 大昔のミラノ・スカラ座「席取りの鉄則」

30年以上前の座席指定のない時代のお話であるが、ミラノのスカラ座では、さんざん苦労して一公演しかないプラチナチケットを入手した。

入手したチケットはPalco(パルコ)と呼ばれる馬蹄形のスカラ座の劇場で横側のバルコニー状態のボックス席であった。1つのパルコに数名の観客が相席となるが、舞台に向かって横側に位置するボックス席なので、手すりに近い前列に座らないと舞台がよく見えない。そして、パルコ内の席は早い者勝ちときている。それゆえに、開場と同時に壮絶な席取り合戦が展開されるのだ。

プラチナチケットだけあって、皆良い場所で聴きたいし、舞台もしっかり見られる席を得たい。事前に現地の知人から受けた席取りの指南は極めて具体的かつ厳しいものだった。なにせ劇場に入るドアまで指南された。曰く「入場する際は一斉に劇場玄関ドアが開くが、あのドアから入るのがよい。入ったら一斉に皆が走り出すので、そこで負けてはならない。ダッシュで3階まで駆け上がったら首から金色のチェーンをさげたパンフ売りの人に素早くチケットを見せて最前列をとる。前列の席を確保したらトイレも含めて開演まで絶対に動くな」というのだ。

指示通り無我夢中で走った結果、よい席を確保できたのだが、先に到着し隣席に座ったミラノ紳士から「初めてなのによく良い席を押さえたな。開演まで絶対動くなよ、動いたら他の人に取られるぞ」と同じことを言われたことを覚えている。

このプラチナチケットとなった所以は、指揮者 クラウディオ・アバド、ピアニスト マウリツィオ・ポリーニ というミラノ出身の2人がウィーン・フィルを引き連れての凱旋コンサートであったからだろう。演奏会はもちろん素晴らしいものだったが、ミラノ紳士たちがこぞって壮絶な席取り&ダッシュを繰り広げる姿はそれ以上に面白かった。

翌日劇場を再訪し、日本へのお土産にするために劇場に頼み込んで当日の公演ポスターをいただいたのもよき思い出である。劇場裏口の守衛さんにポスターが欲しいと告げたところ、なんなく裏口から通してくださり、スカラ座の裏方部屋をちらちら横目に見やりながら、劇場内を歩いて広報室まで連れて行ってくれたのだ。そして「街中に張り出すので、たぶんないと思うけど」と言いながらも、広報の方が探し出してくれたのが、こちらのポスターである。本当におおらかな時代であったし、優しい方々であった。

ミラノ・スカラ座におけるコンサート当日のポスター @Teatro alla Scala
ミラノ・スカラ座におけるコンサート当日のポスター @Teatro alla Scala

● とても親切な対応だった ロイヤル・オペラ

今度は数年前の話であるが、英国のロイヤル・オペラのチケット購入も思い出深い。ロイヤル・オペラの人気プログラムであるワーグナーの『ニーベルングの指環』がほぼ完売で、インターネット経由ではチケットが購入できず、電話予約が必要と記されていた。

その時は珍しく日本から国際電話をかけてチケットを購入したのだが、対応してくれたボックスオフィスのご婦人がたいへん親切であった。カード番号やメールアドレスを伝えると、「17ポンドの席と222ポンドの席しかないがどうする?」と先方。「ちょっと高いね」と当方。「当日直接くればなんとかなるかも」などと詳細に説明してくれる。

ただし、これを真に受けて、当日券目当てに劇場に行くと、なんとかならなかったりするので要注意。また、ヤキモキしながら並んでいると結局一番安い桟敷席しか残っていなかったり、人気度によっては相当早く劇場に行ったりしなくてはならない。

結局この時は高い席を購入したのだが、間違いがあってはならぬと、メールでのやりとりをお願いすると、快く応じてくれた。「チケットを当日受け取るカウンターがどこにあるか」、「何分前に取りに行けばよいか」など(変な時間に行くとカウンターが開いていないことがある。また、例えば20分前なら「あそこに行って受け取ってくれ」と、別な場所を指定される可能性がある)の質問にも親切に応えてくれた。

ロイヤル・オペラのボックスオフィスは劇場の横の屋内にある @Royal Ballet and Opera
ロイヤル・オペラのボックスオフィスは劇場の横の屋内にある @Royal Ballet and Opera

● メールでのやり取りでつかんだ幸運 ドレスデン国立歌劇場

もう1つ思い出深いのは、昨年のドレスデンの歌劇場での話である。ゼンパーさんが作ったからゼンパーオペラと呼ばれている旧ドレスデン国立歌劇場は、設立当初はワーグナーも指揮をしていた由緒ある劇場で、現在はザクセン州立歌劇場と言う。今でもドレスデン国立歌劇場と過去の名称でも呼ばれることが多く、紛らわしい。

そこに所属するオーケストラはシュターツカペレ・ドレスデンと呼ばれ、現存する最古に等しいオーケストラである。演目はドレスデンと縁の深いリヒャルト・シュトラウス。人気の常任指揮者ティーレマンが振るとあって、チケットはかなり前からソールドアウト状態であった。

夜のゼンパーオペラ。日が落ちると空気も和らぎ、エルベ川からのそよ風が劇場前の広場をなでる
 @Semperoper Dresden
夜のゼンパーオペラ。日が落ちると空気も和らぎ、エルベ川からのそよ風が劇場前の広場をなでる
@Semperoper Dresden

そこで、例によってダメ元で劇場に直接「本当にもうチケットないですか?」、ついでに「キャンセルチケットの入手方法も教えてくれませんか?」とメールしてみる。対応してくださったのは、ゼンパーオペラのチケット売り場の担当である Andrea さん。丁寧に「とっても残念だけど、お渡しできるチケットはありません。キャンセルチケットをお求めの場合は、1時間前にボックスオフィスに来てください」とつれない返信だった。

肝心なのは、返事をいただいたらキチンとお礼のメールをすること。ついでにザクセン地方(どこの国でも郷土愛が強いためドイツなどとは書かない)と貴方の劇場に行くのが楽しみだ、なんて付け加えることも忘れない。

そうしたところ、なんと数時間後に「席が空きましたよ。特別にとってあげる」というメールをAndreaさんから直接いただいたのだ。即刻「是非に」と返事。「席はこことここが空いているけどどうします?」とまで尋ねてくださる。こんな貴重なチケットが手に入るなら劇場に出向くしかない、といったんは取りやめたドレスデン訪問を逗留先に再度加えた次第であった。

但し、気をつけたいのは、ドレスデン歌劇場のボックスオフィスの場所である。ここは今まで経験したことのない場所にあった。歌劇場とは別棟で、なんと大きな広場の反対側にある。その距離は100m以上。開演ギリギリにチケットを受け取ろうとすると、とても間に合わないので注意が必要だ。

ドレスデン歌劇場のボックスオフィス棟  夜のゼンパーオペラ @Semperoper Dresden
ドレスデン歌劇場のボックスオフィス棟 夜のゼンパーオペラ @Semperoper Dresden

というわけで海外コンサートのチケット予約はネットで確実に完了できるし、公演キャンセルの連絡までメールでもらえる。座席の指定も1つ1つ予約時に好みで確保できる劇場がほとんどなので、ちょっとした手続きを覚えれば、簡単に素晴らしい席のチケットが入手できる。今はグーグルなどによる自動翻訳サービスもあるので、現地の言葉がわからなくてもドイツ語サイトやフランス語サイトは自動翻訳しながらチケット購入をすることが可能だ。

● ウィーンフィルとミュンヘンのコンサートチケットについての詳細情報

日本人に人気のウィーン・フィルはチケットの入手が困難で知られているが、その気になればこちらもなんとかなる。こちらはこの記事にしたためた。

また、ミュンヘンではオンラインでチケットを購入しても、チケット発行代理店でリアルチケットを発券してもらわなければならない。ドイツの日曜日は店舗がすべてお休みになるから留意が必要で、詳細をこの記事にしたためた。

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