金沢文化施設の2つの共通パス「金沢市文化施設共通観覧券」と「サムライパスポート」を携えて、金沢の文化施設巡りをしてきた。最初に着目したのは兼六園周辺の県立美術館、博物館に加え、東京から移転した国立工芸館までも集中する博物館地区である。そして、工芸館の裏手の土手を下った本多町界隈にも小粒ながら素敵な博物館が並んでいる。
● 兼六園付近
・石川県立歴史博物館
・石川県立美術館
・石川県立美術館 広坂別館
・いしかわ生活工芸ミュージアム
・国立工芸館
・北陸電力会館 本多の森ホール
● 本多町界隈
・鈴木大拙館
・金沢ふるさと偉人館
・金沢市立中村記念美術館
● 兼六園付近
・石川県立歴史博物館
建物が1909年建設の陸軍兵器庫の赤レンガというのも胸が高鳴る。展示手法はキャプション中心ではなく、多くのジオラマがあり、「加賀の一向一揆」の動画、古墳の再現など手法鮮やかなものが豊富で面白い。大陸の玄関として文化的熟成が早かった加賀の発展ぶりがよく理解できる。
中でも、現存する最古の御触書が刺激的であった。849年に加賀郡牓示札(かがぐんぼうじふだ)と言う農民に対する8条のお触れで、その内容がブラックすぎて激烈。また、大名行列で餅好きの殿様の為に行列中も火鉢を携えていた等、ちょっとエピソードが展示各所で面白い。昭和ブースにあるアルバムには家族写真まで貼ってある芸の細かさに驚いた。
・石川県立美術館
実態としては工芸博物館に近く、国宝含め見事な工芸品が並ぶ。中心となるのは加賀藩前田家のコレクション。野々村仁清作の色絵雉香炉が国宝であり目玉展示品。Facebookのアイコンはこれを戯画化しておりとても表情がよい。
この香炉の高度な色絵技術は佐賀藩によって有田から追放された陶工によって伝播したものらしい。
こういった最新の技術を積極的に取り入れることによって、加賀藩藩主は江戸幕府に文化的対抗し、このような逸品製作を進めた。
・石川県立美術館 広坂別館
旧陸軍第九師団長官舎、ドイツ風の洋館で当時の照明器具なども一部現存。
建物は家裁などに転用された後、今は文化財の保存修復工房として活用されている。修復過程の見学スペースもあり、表具など修復工程の解説パネルも充実、ここまで修復を仔細に見せる試みは立派。
・国立工芸館
旧陸軍の施設を用いながらも屋内は明るく、外観の見栄えが良い、ただ観賞客もまばらで展示数も少なく、移転前の旧近衛師団司令部庁舎のほうが趣があった。
「めぐるアール・ヌーヴォー展」はリーフレットを読むと楽しめるがやや凡庸、杉浦非水の繊細な作品を楽しめたのが良かった。
・いしかわ生活工芸ミュージアム
建物は旧石川県美術館で設計は金沢出身の谷口吉郎。金沢和傘、楽器、能登花火など生活に根ざした工芸品が豊富に見られる。親しみやすい工芸品で解説も丁寧なので見飽きることはない。
こちらの展示で加賀友禅とは別に、牛首紬の存在を知る。釘に引っ掛けても釘が抜けるほど丈夫で「釘抜紬」とも言われる。生地には生糸ながら不良繭を使う、これは2匹の蚕が一緒につくった珍しい「玉繭」なる繭を敢えて使う。糸は太くて節があり、それが独特の風合を生んでいる。
もうひとつ興味深いのは豊臣秀吉の黄金の茶室、力の誇示の為に造られたらしいが、なんと茶室自体に可搬性を持たせている。
説明書きには、金色とえんじ色でもわび茶の精神に反しない、なぜなら夜の茶会で蝋燭に照らされた空間がとても幻想的だからとあった。
・北陸電力会館 本多の森ホール
旧石川厚生年金会館、1977年に竣工。黒川紀章による設計なので、立ち寄ってみた。野球場の跡地だった為か、建物形状が野球グラウンド型であり、屋内の各施設の配置が面白い。内部はモダンな香りが随所に感じられる。ホールは綺麗な内装ながら多目的ホールなので、音響が気になるところ。
● 本多町界隈
・鈴木大拙館
設計は谷口吉生、建物内には思索にふける空間が随所に設置されている。学生時代に少々学んだ思想家なので、あれこれ思い巡らし、人も少ない館内で、しばし佇んだ。
展示されている大拙のデジタルアルバムを眺めていると、蝶ネクタイ姿の写真も多く、意外や洒落者と知った。
・金沢ふるさと偉人館
隠れた優秀博物館、キャプションに優れ、子供向け説明書きを含めてセンス良く、ほぼすべてを読んでしまった。
初めて知る日本の偉人も多く、日記や手帳から寄稿文まで、その場で読めるように展示してあるのも人柄を知る上で秀逸。これらすべてに目を通したくなった。
・金沢市立中村記念美術館
タイガー&ゴールドなる企画展、虎が可愛らしいのは、当時は生きた虎を見たことがないのだから仕方ないとキャプションにある。力強いが、近くで見ると全く怖くなく猫顔、おまけに毛繕いまでしている。新春に気の効いた企画。酒造家中村氏の寄贈による陶芸等の工芸品展示多数。