実機がズラリ展示、迫力ある東京近郊の航空博物館 / 科学技術展示館、所沢航空発祥記念館、航空科学博物館と成田空港 空と大地の歴史館

実機がズラリ展示、迫力ある東京近郊の航空博物館 / 科学技術展示館、所沢航空発祥記念館、航空科学博物館と成田空港 空と大地の歴史館

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東京近郊には複数の実機を展示している航空博物館がいくつかある。どちらの博物館も都心からは離れているが、整備の行き届いた機体を見ることができる。
最初に取り上げた墨田川沿いにある「科学技術展示館」は少々珍しい。都立産業技術高等専門学校内にある本物の学習施設であり、展示された機体の状態が非常に良い。
次に注目すべきは、日本最初の飛行場であった所沢の跡地にある「所沢航空発祥記念館」。広大な敷地にハンガーのような大きな展示館が建つ。
最後は、成田空港近くにある「航空科学博物館」。ここは民間航空機について網羅的に学ぶことができる。また、その隣には「成田空港 空と大地の歴史館」があり、こちらを見学すると空港建設の難しさ、公共施設のあり方を深く考えさせられる。

科学技術展示館 @東京都 南千住
所沢航空発祥記念館 / 所沢航空記念公園 @埼玉県 所沢
航空科学博物館 @千葉県 成田
● 成田空港周辺の航空関連史跡
成田空港 空と大地の歴史館
三里塚御料牧場記念館のお召し機用特別調度品
三里塚さくらの丘の「空の安全」と刻まれたメモリアル

● 科学技術展示館 @東京都 南千住

マイナーと思われる航空博物館ながら、展示品の各機体は授業で用いられている為に整備も行き届き、たいへん見やすく、間近に近づくこともできる。こちらは東京都立産業技術高等専門学校内にあり、都立航空工業高等専門学校の時代から教材として使用されていた航空機を各種展示している。
入場は無料、年に数回の公開日は航空技術にちなんだ日に設定されており、同校のホームページで確認ができる。

科学技術展示館外観
科学技術展示館外観

展示館の建物の形はコンコルドの主翼を模して三角形であり、これがユニークかつ航空機の収まりをよくしているようにも見える。

展示される航空機 @科学技術展示館
展示される航空機 @科学技術展示館

戦後活躍した国産機の展示が多く、これらはたいへん貴重と思われる。その中には8年もの年月をかけて高専の学生らが組み立てた米国製の飛行機キット(ストルプSA300スターダストⅡ)という機体がある。こちらは実際に飛ばしたりもしたらしい。調べるとル・ブルジェ航空宇宙博物館にも同型機がある。

ストルプSA300スターダストⅡ @科学技術展示館

ル・ブルジェ航空宇宙博物館についての記事はコチラ↓

海外ツーリング-フランス編 3 / コンコルドに乗れるル・ブルジェ航空宇宙博物館とゴッホが晩年過ごしたオーヴェル・シュル・オワーズそばの美味しいレストラン
前回からの続き。今日は、朝からツーリングに出かける。前夜にアパルトマンの前の駐車スペースに停めたバイクにそのまま跨がって出発。パリ西北方面の鉄道では行きにくい場…
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また、科学技術展示館はエンジン好きにとってもたまらない博物館である。講義に用いる為に各種エンジンが多く展示されており、カットモデルも多い。教材故に簡潔ながらも体系だったキャプションが各々についている為、網羅的に各種エンジンのことを学ぶことができる。
主なものとしては、艦上攻撃 ダグラス A-4 のエンジン「ライトJ65」や爆撃機 B29に搭載されていた星形18気筒の「ライト R-3350」などがあり、エンジンの一部をカットしてあり内部構造がわかるようになっている。

ジェットエンジンの構造がよくわかるカットされた ライトJ65 @科学技術展示館
ジェットエンジンの構造がよくわかるカットされた ライトJ65 @科学技術展示館

そして、一式陸攻や二式飛行艇などに用いられた火星エンジン(三菱 ハ-101)までカットされて展示されていた。この火星エンジンは三菱の星型14気筒で、大出力かつ整備のしやすさなどから息の長い名エンジンであった。

火星エンジン @科学技術展示館
火星エンジン @科学技術展示館

エンジンだけでなく、機体も分解されているものがいくつかあり、これによって航空機の細部がよくわかる。他の航空博物館に比べても機体に近づけるので、まじまじと機体のカットされた部分を眺め、ラダーやタブを操作するワイヤーの細さや尾翼の接合部の簡素さに驚きもした。また、ヘリコプターのテールローターのピッチ角調整ワイヤーなども目を近づけて見ることができる。

航空機のラダー下 @科学技術展示館
航空機のラダー下 @科学技術展示館

印象に残った機体が二機あった。1つはフレッチャー FD-25で、長くて美しいガルウイングが特徴的だった。設計はアメリカだがライセンス生産を日本でおこない軍用機としてアジア諸国に送られたらしい。

フレッチャー FD-25 @科学技術展示館
フレッチャー FD-25 @科学技術展示館

もう1つはリベットの配列が美しいノースアメリカン F-86D。レーダーを備えた初期の全天候型のジェット戦闘機で、操縦が極めて難しかったようだ。

ノースアメリカン F-86D @科学技術展示館
ノースアメリカン F-86D @科学技術展示館

月1度の開館の為か昼休みは学生も多く見学をしている。その中の1人の学生が、翼のことを「よく」と言っており妙に格好良かった。ちなみに場内は昼休みを除けば人の気配がしないほどガラガラである。

講義用のホワイトボード @科学技術展示館
講義用のホワイトボード @科学技術展示館

● 所沢航空発祥記念館 / 所沢航空記念公園 @埼玉県 所沢

1911年に開設された日本初の飛行場と言う由緒ある立地に所沢航空発祥記念館はある。ちなみに欧州の飛行場も1909年に相次いで完成していることから、所沢飛行場はけっして遅いスタートではない。そして、開港と同時にフランス製複葉機が初飛行する。この日は4月5日と桜の時期と重なり、見物客が押しかけ、屋台まで出るお祭り騒ぎだったと言う。

所沢航空発祥記念館外観
所沢航空発祥記念館外観

滑走路は400m、芋畑だったので砂利を敷きローラーをかけ、牧草のクローバーの種をまいたとパネル解説にある。なるほど、草原から複葉機が飛び立つシーンがあるが、あの草の下には砂利も敷いてあったのだと知った。当初はフランス製とドイツ製の飛行機4機があり、続いて早くも同年5月には国産機も完成し初飛行をする。

初飛行した奈良原式2号機の模型 @所沢航空発祥記念館
初飛行した奈良原式2号機の模型 @所沢航空発祥記念館

同地では1919年には陸軍によって航空学校が設立され、多くの操縦士を輩出した。その後、戦争でこれらの組織は統廃合され、最終的に飛行場としての役目を終え、戦後は米軍基地となる。

尚、戦前の同地には航空参考館と言う東洋一の航空博物館があった。第1次世界大戦時にドイツから押収した鉄骨倉庫をここに移築し南倉庫と名づけ、その一部を展示室としたらしい。往時は92式重爆撃機やJu87 急降下爆撃機まで展示されていたという。

東洋一の航空博物館「航空参考」のジオラマ @所沢航空発祥記念館
東洋一の航空博物館「航空参考」のジオラマ @所沢航空発祥記念館

所沢航空発祥記念館の実機展示は、屋内展示にもかかわらず展示機体が多く、ヘリコプターの展示数も多いのが特徴。入場料は520円とお安い。更にJAFの会員証の展示で100円引、JAFの会員証は博物館巡りで重宝する。
展示機体の側にはレシプロエンジン、ジェットエンジン各々の構造を種別毎に丁寧に説明したパネルなどもあり、航空博物館の中でも構造や素材の解説に優れている。

屋内にはぎっしり航空機が展示されている @所沢航空発祥記念館
屋内にはぎっしり航空機が展示されている @所沢航空発祥記念館

とりわけ、他ではあまり観ることがない「航空輸送史の年表」が興味深かった。当時の朝日新聞社が日本の航空史において重要な役割を果たし、先駆的であったことがここからわかる。1923年には朝日新聞社が東西定期航空会なる航空輸送の会社を設立し、東京-大阪間の輸送が始まる。この会社などが統廃合をし、戦後のANA(全日空)に連なっていく。1937年に立川〜ロンドン間で飛行時間の世界記録を達成した神風号(九七式司令部偵察機)も朝日新聞によるものだった。

航空輸送史の年表 @所沢航空発祥記念館
航空輸送史の年表 @所沢航空発祥記念館

ニューポール81E2は民間飛行家の岩田正夫氏が1926年に郷土訪問飛行時に使用したとのことで、そのレプリカが展示されている。注目すべきはそのエンジンで ル・ローンC型(Le Rhone C)という回転式エンジンを搭載している。
回転式エンジン(ロータリーエンジン)とはプロペラと共にエンジン全体も回転するエンジンで、クランクシャフトのみが機体に固定されている。エンジン自身が回転する為、冷却効果などメリットもあったようだが、遠心力でエンジン周囲に負荷がかかり、潤滑油の循環などに問題が生じたと言う。回るエンジンの始動するところを見て、その音なども聞いてみたいものだ。

ニューポール81E2(レプリカ) @所沢航空発祥記念館
ニューポール81E2(レプリカ) @所沢航空発祥記念館

また、記念館の2階には日本の航空黎明期の偉人たちと航空史を豊富な写真パネルで解説するブースがある。そして、その片隅に三式戦闘機(飛燕)に搭載されていたダイムラー・ベンツ DB 601のライセンス生産である液冷12気筒エンジン「川崎 ハ40」が展示されていた。

川崎 ハ40 @所沢航空発祥記念館
川崎 ハ40 @所沢航空発祥記念館

尚、所沢航空発祥記念館には屋外展示機としてYS-11、C-46がある。

● 航空科学博物館 @千葉県 成田

航空科学博物館外観
航空科学博物館外観

十数年ぶりに再訪した航空科学博物館は幾分鮮度を増したように感じた。コロナ渦で休館し閉館の危機に陥ったと聞いていたが、クラウドファンディングが成功し見事な復活を遂げている。

この博物館の実機展示は屋外なので、入館する前に各航空機にまずはご挨拶をする。すべて民間機で、広々とした博物館の前庭にたくさんの機体が並んでいる。そして時折上空を爆音と共に成田空港からの発着便が舞うのも興を添える。

屋外展示で航空機が並ぶ @航空科学博物館
屋外展示で航空機が並ぶ @航空科学博物館

国産のプロペラ旅客機 YS-11 に搭乗できるのが、この博物館の醍醐味であったが、残念ながら今は閉鎖しているようだ。ただ、オープンスペースでの展示なので、展示機の機体下まで自由に潜ることができ、その構造を間近で見ることができる。

YS-11の屋外展示 @航空科学博物館
YS-11の屋外展示 @航空科学博物館

こちらの展示の中で珍しい機体としてはカモフ(Kamov) Ka-26 があげられる。旧ソ連のヘリコプターで二重反転ローターを有し、用途は農業から救難、旅客と様々だった。この機体は9人乗りの旅客用とのことで個人使用されていたとのことである。

カモフ(Kamov) Ka-26 @航空科学博物館
カモフ(Kamov) Ka-26 @航空科学博物館

そして、博物館の館内に入る。入場料は700円でこうした博物館にしてはちょっと高め、ここでもJAF割引が使え10%割引。JAFの会員証は博物館にとにかく強い。

航空科学博物館エントランス
航空科学博物館エントランス

久しぶりに訪れてみると内部はずいぶんとクリーンな印象を受ける。以前は模型などの展示でお茶を濁しているところもあったが、展示は統制がとれて、わかりやすいコンセプトでまとまっている。また、現在は体験館の建屋も増設され、フライトシミュレーターを至る所に設置し、体験型博物館を目指しているようだ。

博物館好きには西棟 1階が面白い。展示室中央には操縦シミュレーターと連動するボーイング747-400 大型模型が設置され、その周囲の展示品では現代の旅客機をあらゆる角度から紹介している。キャビンのモックアップもあり、ショーケースには航空機用のスパークプラグまで並べてあるのも珍しい。

西棟 1階展示室 @航空科学博物館
西棟 1階展示室 @航空科学博物館

実物のボーイング747のエンジンと主翼断面が展示されており、ターボファンエンジンの構造がプロジェクションマッピングで説明も付されるようになっていた。このエンジンの重量は実に1基4.2トンもある。

ボーイング747のエンジンと主翼断面 @航空科学博物館
ボーイング747のエンジンと主翼断面 @航空科学博物館

実物大の747 胴体断面の展示も興味深い、こうしてみると太い筒の中が最大限利用されカーゴのコンテナも実は巨大であることがわかる。

ボーイング747 胴体断面の展示 @航空科学博物館
ボーイング747 胴体断面の展示 @航空科学博物館

その他のフロアで興味深いのは東棟2階の空港関係の展示である。成田空港のジオラマが中央に設置され周囲に空港での仕事などの解説が子供向けに紹介されている。手荷物預りのベルトコンベアーに小型カメラを設置し、区分けされている様を見られる動画が面白かった。ちなみに紹介されている成田空港のベルトコンベアーの全長は26kmもあるらしい。

成田空港のジオラマ @航空科学博物館
成田空港のジオラマ @航空科学博物館

成田空港の展望スペースはいくつも設置されているが、中央棟5階の展望展示室は格別だ。計器類が展示されており、成田空港を臨む展望台は空港内の管制塔にいるかのような気分にさせてくれる。

管制塔にいる気分になる中央棟5階の展望展示室 @航空科学博物館
管制塔にいる気分になる中央棟5階の展望展示室 @航空科学博物館

● 成田空港周辺の航空関連史跡

・成田空港 空と大地の歴史館

航空科学博物館の横には成田空港建設の壮絶な歴史を辿る歴史館がある。パネル解説が中心だが写真や展示に工夫を凝らしており、じっくり空港問題の経緯を受止めることができる資料館で、航空関係に興味がある方には必見の資料館である。

成田空港 空と大地の歴史館外観
成田空港 空と大地の歴史館外観

成田空港建設における問題の原因については、ボタンを掛け違えたまま空港づくりを進めたことであると「開館の説明書き」にふんわり記述されている。
しかし、そもそもの行政側の説明不足と空港誘致強行が争いの原因、混乱の理由とパネルを読み進めると理解できる。
そして、争いはこじれにこじれ双方で死者が発生する血みどろの紛争に発展していく。この過程で生じる管制塔占拠や様々な空港建設妨害の計画は想像以上に緻密であり、熾烈極まりない。

エントランスから館内俯瞰 @成田空港 空と大地の歴史館
エントランスから館内俯瞰 @成田空港 空と大地の歴史館

展示ブースの後半では国側の焦りもひしひしと伝わってくる。そして、解決へ向かう最終局面では、派閥の切り崩しや当事者の高齢化による和解の一面がありそうだ。そして、暴力的な紛争の結果ながら、最後は強制収容を国が断念した経緯は非常に重く感じた。

反対闘争で使用されたヘルメット @成田空港 空と大地の歴史館
反対闘争で使用されたヘルメット @成田空港 空と大地の歴史館

別の成田の郷土資料館で戦後の成田の開墾の様子の写真を見た。住まいは縄文式住居のような佇まいで酷いものである。敗戦後すぐの食糧難で政府は復員兵などに対して、未墾地の入植を推奨した。成田も同様で、政府の奨励によって入職した農民たちがたいへんな苦労を強いられながら原野から開墾していったことを知った。

空港建設前の田園風景 @成田空港 空と大地の歴史館
空港建設前の田園風景 @成田空港 空と大地の歴史館

この開墾に係わる農民達の借金の返済がようやく終わる時期に、いきなり空港建設の決定が下される。その後も行政側は問題への早期対処や都度の適切な問題解決しない。農民側にとっては自ら開墾した土地を侵略されたようなものであった。

公共の福祉と個人の権利について、膨大な歴史資料と人間模様からいろいろと考えさせられる。当事者達にとっては折衷案的で不本意な展示内容も多かろうが、存在意義がとても高い資料館と感じた。

歴史観の目の前を過ぎる旅客機 @成田空港 空と大地の歴史館
歴史館の目の前を過ぎる旅客機 @成田空港 空と大地の歴史館

・三里塚御料牧場記念館のお召し機用特別調度品

天皇が欧州、米国訪問の際に使用した特別機の調度品がなぜか、こちらの資料館にある。どうも先の航空科学博物館所蔵のものらしいが、どのような経緯か、こちらで常設展示されているのだ。日本航空がDC-8に合わせて特別に発注したもので、利用の際に都度、この応接セットような座席を取付けたらしい。シートは西陣織で、テーブルは拡張可能、間仕切りの裏には天皇皇后用の大きなベッドが各々設置されている。
記念館のスタッフの方曰く、このベッドは非常に重いらしい。そして、説明をしてくださったこの方は複数の首相などを専用機でアテンドしていた経験をお持ちの方で、聞かせてくれた数々の逸話がたいへん楽しかった。

三里塚御料牧場記念館パンフレット
お召し機用特別調度品(左上)三里塚御料牧場記念館パンフレットより

・三里塚さくらの丘の「空の安全」と刻まれたメモリアル

三里塚さくらの丘は、飛行機の離着陸を目の前で見ることができる公園で、轟音と共に各国のエアラインの飛行機を見られる成田ならではの名所である。ここには成田空港始まって以来の大事故のメモリアルが人知れず存在する。2009年にフェデックス80便(FX80)が着陸に失敗し、乗員2名が亡くなった。この事故は機体が横転し、全焼するほどの大事故であり、テレビでも事故時の動画が放映され記憶に残っている。
さくらの木の下にひっそりと「空の安全」と刻まれたメモリアル。成田空港周辺にはいくつもの物語がある。

「空の安全」と刻まれたメモリアル@三里塚さくらの丘
「空の安全」と刻まれたメモリアル@三里塚さくらの丘

日本 / 東京都、埼玉県、千葉県

<詳細情報>
科学技術展示館
〒116-0003 東京都荒川区南千住8丁目17
所沢航空発祥記念館
〒359-0042 埼玉県所沢市並木1丁目13 所沢航空記念公園内
航空科学博物館
〒289-1608 千葉県山武郡芝山町岩山111−3
成田空港 空と大地の歴史館
〒289-1608 千葉県山武郡芝山町岩山113−2
三里塚御料牧場記念館
〒286-0116 千葉県成田市三里塚御料1−34
・三里塚さくらの丘 フェデックス80便着陸失敗事故のメモリアル
〒286-0111 千葉県成田市三里塚1−722