ニューヨークで魅了されたバーレスクと日本のストリップ劇場小史(大衆芸能の魅力 3) /  伝説の女傑 浅草ロック座の母 齋藤 智恵子著 を読む

ニューヨークで魅了されたバーレスクと日本のストリップ劇場小史(大衆芸能の魅力 3) / 伝説の女傑 浅草ロック座の母 齋藤 智恵子著 を読む

文化/歴史・地理
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前回からの続き。渥美清やビートたけしらが活躍したフランス座、彼らはストリップ劇場の幕間のコントで名をなしてきた。その日本のストリップ劇場の手法の源流にはバーレスク(Burlesque)があると思われる。
バーレスクとはお色気ショーながらフルヌードはなし、バーレスクダンサー達の妙技に加え、幕間のコントやMCのトークを楽しむ演芸、パフォーマンスである。
一時期、このバーレスクは廃れていたが、近年は世界中でリバイバル熱が高まっている。その再起した「ニュー・バーレスク」を、ニューヨークの Duane park で見てきた。

一方、日本でも戦後、バーレスク劇場があった。しかし、ストリップ劇場が官能性重視の過激な演出へ変化するにつれて、エンタメ性豊かなバーレスクやそのスタイルは衰退していき、最終的にはストリップ劇場から幕間のコントすらもなくなってしまった。そんな日本のストリップ劇場の小史として興味深い本『伝説の女傑 浅草ロック座の母』を読んだ。

ニューヨークで著名なバーレスク(Burlesque)、Duane park へ
ハリウッドとチェコの2つの映画『バーレスク』
伝説の女傑 浅草ロック座の母 齋藤 智恵子著 を読む

● ニューヨークで著名なバーレスク(Burlesque)、Duane park へ

そもそもバーレスクは、たわいものないパロディを歌とダンスで演ずるミュージカルとしてヨーロッパでは古い歴史を持つ演芸だった。それが第二次大戦前にアメリカに渡り、ストリップショーと融合し、一世を風靡するようになった。その後、アメリカでは各種規制もあってバーレスクは下火になっていく。しかし、近年「ニュー・バーレスク」として再生を果たしている。

そこで、ニューヨークを旅した際に、この街で最も有名かつ本格的な バーレスクシアター Duane park を訪ねることにした。

まずは、事前にお店のサイトを見てみたところレストラン&ショーなので、予約は2人からのようである。そこでお店に直接電話をして聞いてみた、「1人なのだけど観劇は可能か?」と。親切なお姉さんが電話に出られて「バータイムから来たらどう?」とありがたいご提案を受ける。ショーは9時からだから8時にオープンするバーに来ていると具合がよいよ、と教えてくださった。

そこで、夜になるとバータイムにいそいそと出かけていってみた。最近はどこに行くにも Googleマップを使えば、すぐに目的地に到達できるのだが、ブロック一周しても見つからない。ちょっと場末感が漂うブロックで、夜になると開いている店も少ない、場所を間違えたかな、と思い、番地をひとつひとつあたりながらブロックをもう一周廻ってみると、お目当ての308番地が見つかった。扉をくぐってみると重厚な鉄扉がありして隠れ家感がたっぷりである。

場末感が漂うブロック @Duane park
Duane park の入口扉 @Duane park

入店すると、誘導案内のお兄さんがとても親切で「1人でショーを見たいのだけど」と電話の内容と同じことを伝えると「バーで待ってろ、ショーが始まったら、なんとかしてあげるから」と言ってくださる。そして、ビールをチビチビ飲みながら小1時間ほど待つと、いきなりJAZZバンドの演奏。誘導のお兄さんがわざわざバーまで呼びに来てくれ、末席ながら舞台のよく見えるレストラン席をひとつ用意しておいてくれた。

バーラウンジで開始を待つ @Duane park

アメリカ旅では「言っておいて忘れる」、「実はなんとかならなかった」なんてことはザラ。しかも、レストラン席の方々は相当のお代を払っているお客様方、バーで飲んでいるのは私1人くらいで、こうしてバータイムから参加するのは珍しい感じであった。にも関わらず、席まで用意してくださり、声までかけて誘導してくれ、帰りがけにも、とても丁寧に声をかけてくれる。バーの女性も対応細やかで、この Duane park のホスピタリティには感銘してしまった。

上品な雰囲気のレストラン席 @Duane park

実際のショーが始まると、その音楽に惹かれた。BLUE NOTE や Village Vanguard で聴くジャズも素晴らしいのだが、当夜のムーディなジャズは、それはそれでプロの技であり素敵であった。
そして、サックスというのは、ずいぶんいやらしい音がする楽器で、前日聴いたBLUE NOTEのそれとは全く異なる淫靡な感じ音色が脳幹を刺激する。その上、音の響きがゴージャスなのだから、匂い立つような色気のある楽器というのがよくわかった。ダンサーの中にはハスキーで声量大の歌声も素晴らしい方がおり、これがサックスとからむとなんとも格好よい。

名歌手の登場 @Duane park

また、場内はお色気ショーにして、動画やフラッシュをたかなければ写真撮影はOKのようで、ずいぶん大らかなショーである。ダンサーの方々は、それは熟練のプロであるから芸達者で見せ方上手。妙技に加えて「焦らす」というバーレスクの醍醐味も十二分に表現されていた。

暗い店内に映える電飾フラフープ @Duane park

そして、やはりストリップ劇場とは一線を画し、官能性だけを前面にだすことはない。小洒落た感があり、ダンスやサーカスっぽいパフォーマンスの技も重視しているのがバーレスクだからだ。また、ユーモアやウィットにも長けており、総じて洒落た演出で女性客やカップルの客も多い。ただし、気まずそうなファミリーもみかけたので、家族連れで来られるのはちょっと考えものかもしれない。

この会場では、演出上手なバーレスクらしく階段を降りてきて舞台に登壇するのだが、行きはゴージャスな装い、帰りは裸で階段を登り袖に戻るのも、なにやらちょっと可笑しい。

登壇時は豪華、華麗な衣装。キメのポーズも痺れる @Duane park

ダンサーの方々は皆さんとにかく芸達者なのだが、ちょっと太めな彼女がひらりひらりと輪で身体を支えながら宙に舞う、このサーカス芸には驚かされた。相当な筋力がないとできないパフォーマンスであると思う。

宙での舞い @Duane park

そして、豪快、ゴージャス、開けっぴろげなショーの観劇後感は、世事なんかふっきれる爽快感が残った。

最後は全員で舞台挨拶 @Duane park
Duane Park の YouTubeチャンネル

● ハリウッドとチェコの2つの映画『バーレスク』

ところで、バーレスクとタイトルが付けられた映画が2本ある。比べると毛色が随分と異なるので注意が必要だ。まず、ひとつはアギレラ主演の映画『バーレスク(Burlesque)』。

ハリウッド映画『バーレスク』

こちらは歌手志望の田舎出の娘がバーレスクの舞台でトップ獲得を目指す成長物語。一方、経営難のバーレスクを再建すべくシェールが奮闘する様が伏線になっており、物語としても面白い。そして、登場する歌が素晴らしい。しかしながら、この映画にはバーレスクを描く上で大きな問題がある。それはお色気要素が全くないこと。いくら官能性や性的要素は控えめなバーレスクと言っても、これでは実態とかけ離れすぎている。

そもそも、バーレスクは性差関係なく楽しみを提供するエンターテインメントで、セクシーさに加えての圧倒的なパフォーマンス、コミカルさが必須。しかし、そこからセクシーさを抜いてしまってはバーレスクは成立しない。また、このセクシーさを含めたバーレスクのスタイルに憧れてバーレスクダンサーになる女性も多く、これでは培ってきた文化にも失礼な話である。実際に映画には批判も多かったらしい。

もうひとつは2019年のチェコのテレビ映画『バーレスク(Až budou krávy lítat)』こちらはamazonプライムで見ることができる。地味な内容だが、映画としても上質で、バーレスクの描き方をひとつとっても、とてもよくできており、万人にお勧めできる名作である。

チェコのテレビ映画『バーレスク』

こちらの主人公は太めの体型故に生徒からもなじられる冴えない学校教師。このパッとしない主人公がバーレスクダンスを通じて自己表現を手に入れ、自信を取り戻していく。主人公には、自分と同じく太り気味の母親がいる。彼女からこの体型では幸せになれないと諭され、育てられてきた。その為、自己否定の気分からなかなか逃れられないし、現実も辛い追い打ちをかける日々が続く。

そんな状況の中で、バーレスクダンスを取り巻く女性同士のつながりを持ち、自己がどんどん開花していく。その開花のプロセスで、スタイリッシュな衣装を探し出そうとする様子を通じて、バーレスクの本質を見事に描いていた。最初は体型故に着飾ることすら拒む彼女がダンスの師匠に勧められ、場数を踏むことでコスチュームのセンスが次々と素晴らしいものになっていくのだ。

当然お色気やパフォーマンスも次々と磨かれてゆき、周囲を巻き込んでの大団円を迎える。最後の数分で映画を締めくくるのだが、これがまた映画的な物語の回収方法でとても達者であり、鑑賞後に幸せな気分に浸れる。
この作品の監督も女性であり、演じる女優達が良い味を出していたのも印象的であった。バーレスクの観客というのは男女無関係であることを知るのにも最適の一作だと思う。

● 『伝説の女傑 浅草ロック座の母』齋藤 智恵子 著を読む

実際、昔の浅草界隈やお笑い業界は紙一重のアブない世界だったようだ。そのアブない世界であったことを、更に裏付ける本を読んだ。それがこちらの浅草のゴッドマザーと呼ばれた女性の自伝。

伝説の女傑 浅草ロック座の母 齋藤 智恵子 著

渥美 清もビートたけしもフランス座の専属芸人だった。ストリップ劇場の幕間のお笑いを担う彼ら芸人と踊り子たちとは切っても切れない縁。実際売れない時期、鳴かず飛ばずの時代はいずれの芸人たちも踊り子たちに面倒をみてもらっている。そんな時代のストリップ劇場を踊り子の視点、経営者の視点で綴っているのがこちらの本。元はフランス座(東洋興業)と同系列であった浅草の老舗ストリップ劇場「ロック座」のお話である。

著者である齋藤さんは最初は旅芸人、続いて踊り子、すなわちストリッパーになる。踊り子として資金を貯めると、今度は経営者として地方のストリップ劇場を次々買収し、最後に、頂点の浅草ロック座を譲り受ける。彼女はかように興行一筋に生きてきたお方である。

踊り子人生の出発点で、踊り子たちとバンドマンを引き連れ、全国各地の映画館などを数日借受け、巡業していく様は圧巻のひと言。その過程で知識や知己を得た彼女はホテルや食堂、踊り子派遣業まで手がける。そして、警察の世話になることも一度二度ではない。

公演の成功の為に猥褻罪ぎりぎりのことをアイデア勝負で果敢に挑むのだから、まあ捕まるのも仕方ない。ただ、警察も情で動くことも多々あったらしく、関西では営業禁止にされず罰金で済ませてくれ、規制が緩かったという記述まである。また、ヤクザと渡り合うことも数度、肩には大きな刀傷まであるらしい。物騒だがご当人は淡々とその時の状況をしたためているのが、これまた凄い。

一方、彼女の踊り子たちへの眼差しは温かい。昔は子連れの踊り子も多かったので、楽屋は寝泊まりする子供もいて、姉妹や家族のようだったとある。そして、自ら抱える踊り子たちに対してラスベガスでの研修制度まで用意した。舞台設備への投資額も億の単位で欠かさない。ビジネス面では、とにかく豪気かつ真っ当な経営方針である。

そんな中で、齋藤さんのお金の使い方が面白い、爪に火をともすように貯める時もあり、とてもお金を大事にしている一方で、大尽でおおらか。若山富三郎に5000万円、勝新太郎に20億円を貸付け(結果ほとんどは返済されていない)、今も彼女のお年玉目当てに正月はたくさん芸人たちが集ってくる。それを見かねた家族の制止も気にもとめず、とにかく夢に使うお金は無尽蔵で使いまくるらしい。北野武に映画『座頭市』を撮らせたのは彼女だったことをこの本で初めて知った。

齋藤さんも渥美さんもたけしさんも、高度経済成長やバブル景気を背景にした豪快な人生で、昭和は遠くなりにけりでもあるのだけど、とても爽快な気分にさせてくれた本である。
また、先に取り上げた2つのバーレスクの映画にも齋藤さんの情景が二重写しになる。ハリウッド版の映画『バーレスク』でシェール演じるバーレスクのオーナーの経営手腕や、チェコ版の映画『バーレスク』の元ダンサーの師匠の人情味溢れる人を束ねる力は『伝説の女傑 浅草ロック座の母』の斉藤さんそのものの姿であった。

アメリカ / ニューヨーク 日本 / 東京都

<詳細情報>
・ニューヨークのバーレスク Duane Park
308 Bowery, New York, NY 10012