スターウォーズ音楽 怒濤のディスクレヴュー / スター・ウォーズの音楽特集 名演奏による饗宴

スターウォーズ音楽 怒濤のディスクレヴュー / スター・ウォーズの音楽特集 名演奏による饗宴

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前回からの続き。前回はゲルハルトによる「スター・ウォーズ」演奏をご紹介したが、もちろんジョン・ウィリアムズによるオリジナルのサウンドトラック群も素晴らしい。各エピソード順に全編を通して聴くと、ウィリアムズは鬼気迫るように膨大なスコアを書き重ねていったことが感じとれる。
公開された エピソード9『スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』では、これまで以上に過去のエピソードの音楽が多く引用されていた。そこで、今回はスター・ウォーズ音楽のディスクレヴューを網羅的にまとめてみた。

OST(オリジナルサウンドトラック)に加え、クラシック音楽奏者による様々なスター・ウォーズ演奏、OST以外の名盤、おまけにはゲルハルト指揮によるクラシック音楽の名盤もいくつかご紹介する。
これらスター・ウォーズの演奏を繰り広げるのは、ロンドン交響楽団、ロスアンジェルス・フィル、ウィーン・フィル、ベルリン・フィル等々と蒼々たる楽団、その演奏を聞き逃しては、あまりにも惜しい。また、BGMにしてもよい、ウクレレやジャズ バージョンのスターウォーズ選曲集などもご紹介する。
そして、コルンゴルトを源流とするハリウッド音楽にジョン・ウィリアムズが回帰した際、クラシック音楽の世界で成功を納めロンドン交響楽団で指揮者となっていたのが同じくハリウッド出身のアンドレ・プレヴィン。彼の橋渡しによって、ロンドン交響楽団によるスター・ウォーズ音楽がスクリーン上に鳴り響いた。そのプレヴィンについても少し触れてみることにする。

ジョン・ウィリアムズによるオリジナル・サウンドトラック
スター・ウォーズ音楽で大活躍のロンドン交響楽団
プレヴィンによるコルンゴルト:「海賊ブラッド」「シー・ホーク」組曲はお勧め
スター・ウォーズ新三部作サウンドトラックの聴き所
クラシック音楽奏者による様々なスター・ウォーズ演奏
・ロサンゼルス フィル によるスター・ウォーズ演奏
・名ヴァイオリニストによるスター・ウォーズ演奏
・ベルリン フィル によるスター・ウォーズ演奏
・ウィーン フィル によるスター・ウォーズ演奏
オリジナルサウンドトラック以外のスター・ウォーズの名盤
・メータ指揮 ロスアンジェルス・フィルハーモニー
・カンゼル指揮 シンシナティ・ポップス・オーケストラ
・ベイトマン指揮 ザ・シティ・オブ・プラハ・フィルハーモニック・オーケストラ
変わり種、ウクレレ・フォース
スピンオフ作品の名盤『ハン・ソロ』
ゲルハルト指揮によるクラシック音楽の名盤
スター・ウォーズの砂漠を夢見て飲むお酒

● ジョン・ウィリアムズによるオリジナル・サウンドトラック

スター・ウォーズは、旧三部作(オリジナル・トリロジー)新三部作(プリクエル・トリロジー)続三部作(シークエル・トリロジー)と今のところ3つの構成に分類されているが、やはり ジョン・ウィリアムズの音楽の本領を楽しむには旧三部作、新三部作の2つからであろう。新三部作はメロディアスな楽曲も減り、ライトモティーフを使う場面も少なくなってしまったからである。

旧三部作、新三部作の各映画6つのサウンドトラックの中には、完全版と称される映画で使用した楽曲すべてをCD2枚に収録したバージョンが4セットある。エピソード1、4、5、6がそれであり、これらを含めて全エピソードをすべて聴くとなると、なんと11時間近くを要する。上演に15時間かかるワーグナーの「ニーベルングの指環」に迫る長さである。

スターウォーズ ハリウッド ディスクレヴュー ジョン ウィリアムズ OST オリジナルサウンドトラック アンドレ プレヴィン  新三部作(エピソード1)上段右上、下段は旧三部作が2枚組の完全版
新三部作(エピソード1)上段右上、下段は旧三部作が2枚組の完全版

そして、これらを通して聴くとジョン・ウィリアムズがコルンゴルトのみならずマーラー、ワーグナー、エルガーなどからも影響を受けているのがよくわかる。中でも今回聞きなおして、あらためて感じたのは英国の作曲家ウォルトンの影響が濃厚であることだ。ウォルトンはウィリアムズと同じく映画音楽もたくさん書いた。彼ならではのダイナミックな金管楽器の使い方、勇壮果敢な作風は、ウィリアムズとかなり似ている。

● スター・ウォーズ音楽で大活躍のロンドン交響楽団

スター・ウォーズのオリジナルのサウンドトラックは旧三部作(エピソード4~6)から、すべてロンドン交響楽団(London Symphony Orchestra)が演奏している。数年前、ロンドンにて、このロンドン交響楽団の生演奏に接する機会があった。当時、指揮者コリン・デイヴィス(Sir Colin Davis)の体調が思わしくなかったため、急きょマンフレート・ホーネック(Manfred Honeck)が指揮の代役として登壇した。突然の指揮者交代劇であり、イアン・ボストリッジとドロテア・レシュマンを迎えてのマーラー「少年の魔法の角笛」と難しい曲ではあったが、個性的な指揮をするホーネックを相手に見事に追従するロンドン交響楽団の技量に舌を巻いた覚えがある。

スターウォーズ ハリウッド ディスクレヴュー ジョン ウィリアムズ OST オリジナルサウンドトラック アンドレ プレヴィン イアン・ボストリッジらとロンドン交響楽団
イアン・ボストリッジらとロンドン交響楽団

スター・ウォーズの音楽がロンドン交響楽団にて初作から演奏されたことは意義深い。この時代、このようなハリウッドの映画音楽をプロのクラシックの楽団が受け持つことはたいへん珍しかった。

当時のロンドン交響楽団では、ハリウッドと縁の深いアンドレ・プレヴィン(André Previn)が首席指揮者をしていた。彼の仲介で実現したのがスター・ウォーズとロンドン交響楽団の組み合わせである。本当のところは米国のオーケストラは演奏料金が高く、コスト削減から英国のオーケストラを使うことになったというのが理由らしいが、それこそ怪我(けが)の功名である。

2作目の「エピソード5/帝国の逆襲」からは著名なアビーロードスタジオでの録音もおこなわれるようになり、優秀なオーケストラの登用と録音技術の高さが後世に残る映画音楽となった理由でもある、と私は思う。

● プレヴィンによるコルンゴルト:「海賊ブラッド」「シー・ホーク」組曲はお勧め

そのプレヴィンであるが、ジョン・ウィリアムズも敬愛している作曲家コルンゴルトの名曲をロンドン交響楽団で録音してくれている。タワーレコ-ドも気の効いた再販をしてくれた。ただ、タワレコ紹介文に「実は映画音楽自体はほとんど指揮をしたことがないプレヴィンにとって」とあるが、これは間違い。

プレヴィンの回顧録『素顔のオーケストラ』によれば、平均週に2回、MGMのオーケストラの前にプレヴィンは立ったとある。なので映画音楽ばかり、10年近く振りまくっていた訳で、リハーサルの技術もここで身につけたし、後年指揮者になった後もこの経験はとても役にたったとのこと。

そしてのこの書籍『素顔のオーケストラ』にあるスタジオオーケストラの記述も興味深い。当時のスタジオオーケストラは米国内有数の管弦楽団出身のベテラン60名ほどで構成されており、初見の能力ときたらまさに伝統的。現在のロンドンのオーケストラでもこの点では及ばない、とある。

そして、プレヴィン自身もたずさわっていたオーケストレーターのお仕事には愛情たっぷりの記述が続く。山ほどもある五線譜を、一晩のうちに、あっというようなオーケストラの響きでいっぱいにできる人達で、オーケストレーターには面白い逸話がたくさんあると言う。

その1つが、著名作曲家のゴーストライターとして依頼された10小節を、プレヴィンは「ローマの松」のどんちゃん騒ぎを全部ひっくりめたような5分ものにオーケストレーションをした。作曲家本人がこの曲を演奏中、人目を気にせず「これ、俺の曲かね?」と。大らかな時代の如何にもハリウッドと言うお話である。

これらMGMでの経験の後に兵役に行ったプレヴィンは、兵役から戻るなり指揮者になるチャンスをつかみ、ハリウッドとは決別していく。コルンゴルトがハリウッドの音楽の源流をつくり、プレヴィン等がその仕組みの中でせっせとお仕事をした時代はその後終わり、スタジオオーケストラの歴史はここで一旦、幕を閉じることになる。

そんなキャリアのプレヴィンがコルンゴルト作品を振ったコルンゴルト作品集(Previn conducts Korngold)は名品ディスクだ。プレヴィンによるライナーノートにはハリウッド音楽はコルンゴルトが起点であることが書かれている。そして、コルンゴルトの他のクラシック作品と映画音楽とは書法が変わらず、シー・ホークにすらウィーンの香りを感じとっている。それ故にプレヴィンの演奏はケレン味のない正攻法で、聴き応えある一枚である。

● スター・ウォーズ新三部作サウンドトラックの聴き所

話を戻してスター・ウォーズの新三部作(エピソード1~3)でも、旧三部作のジョン・ウィリアムズとロンドン交響楽団のコンビは継承され、すべてロンドン交響楽団がアビーロードスタジオで収録している。さらには新三部作から名録音エンジニアのショーン・マーフィー(Shawn Murphy)も加わり、豪華なサウンドを聴かせてくれるディスク群が輩出されるようになった。

たっぷり低音が入って、眼前にフルオーケストラが現れたかのような立体的な音像、クリアながら重厚感あふれるブラスの音圧、さらには合唱が多用される新三部作では、この名エンジニアによる録音が絶大なる効果を発揮している。よいオーディオシステムで聴けば聴くほど、その神髄に触れることができ、魂を揺さぶられることと思う。

旧三部作の演奏はゲルハルト盤に譲るとして、新三部作についてはオリジナルサウンドトラックから聴き所をお伝えする。

スターウォーズ ハリウッド ディスクレヴュー ジョン ウィリアムズ OST オリジナルサウンドトラック アンドレ プレヴィン 新三部作(エピソード1~3)のサウンドトラックCD、上段は日本盤、下段は海外盤
新三部作(エピソード1~3)のサウンドトラックCD、上段は日本盤、下段は海外盤

「エピソード1」は完全版の2枚組などジャケットも各種あって楽しい。そして、「エピソード1/ファントム・メナス」はトラック2「運命の闘い」が聴き所だ。いきなりクライマックスの曲だが、この曲を聴くとダースモールの顔と旧作に比べはるかに上手になった殺陣(笑)のシーンが頭に浮かぶ。サンスクリット語で歌われる合唱、重低音がたっぷりと納まり、楽器の配置が手に取るように明瞭な録音も素敵である。

前回でも書いたが「エピソード2/クローンの攻撃」はラブシーンがベタで赤面ものながら、音楽は全く別物で至極真っ当だ。全編多様な旋律が交錯しシリアスでドラマティックな曲が多い。暗殺者との追走劇で流れる、トラック3「暗殺者ザム」ではスリリングなパーカッションが連打され、その音は生々しくてリアルだ。圧巻なのはトラック13の「ドゥークー伯爵との対峙 – フィナーレ」だ。「アクロス・ザ・スターズ」につながり次々とこれまでの各テーマが流れ、のっぴきならぬラブロマンスを締めくくる。

「エピソード3/シスの復讐」は合唱が増え、よりオペラ的になっている。トラック9の「アナキン対オビ=ワン」は全エピソード最大の見せ場、活火山での師弟の戦いで流れる。曲中には回想的に過去の様々なテーマが織り込まれており、新三部作の締めくくりにふさわしい。できうるかぎりの大音量で再生し、名手マーフィーの録音技術による見通しよく広がる音の響きの大空間と、ウィリアムズの傑作スコアによる大絵巻を堪能したい。

白眉はトラック15「新たなる希望~エンド・クレジット」。ラストにおける2つの太陽のシーンで流れるフォース(オビ=ワン)のテーマだ。微弱なストリングスの谷間から深遠なホルンが鳴り響く様が素晴らしい。そして、それに続くダイナミックな楽曲の数々。シリーズを通じてのテーマが次々登場するスペクタクルゆえに、新三部作3枚のうち1枚だけを選ぶとするならば、このトラックの入ったエピソード3になるだろう。映像入りでシリーズ全作のテーマを使用した「組曲」のDVDがおまけでついているのも嬉しい。

なお、これらはすべて日本盤ではなく海外盤の感想である。できれば、現地のエンジニアによって、現地にてマスタリングがされたCDを聴いていただきたい。時折、日本盤と海外盤では音の密度が異なることがあり、スター・ウォーズも例外ではない。

● クラシック音楽奏者による様々なスター・ウォーズ演奏

・ロサンゼルス フィル によるスター・ウォーズ演奏

これまでの歴史的経緯からも、スター・ウォーズの楽曲とクラシック音楽の関わり合いの深さを感じるが、オリジナルサウンドトラックを演奏してきたロンドン交響楽団にとどまらず、スター・ウォーズ音楽はクラシック音楽の楽団との関係もなじみが深い。

初めてエピソード4がお目見えした1977年。この映画音楽に感動した指揮者ズービン・メータがスター・ウォーズの楽曲の組曲化をジョン・ウィリアムズに依頼した。こうして完成したスター・ウォーズ組曲はメータ指揮のロサンゼルス・フィルで演奏され、当時そのレコードは大ヒットとなった。実際、今聴いてみても圧倒的な名演であり、このディスクにコルンゴルトのウィーンの香りを感じる人までいる。

最近、人気急上昇の指揮者ドゥダメルの同じくロサンゼルス・フィルによる演奏は、映像として発売されている。過剰なほど盛り上げるドゥダメルの持ち味が今回はいまひとつ活かされていないような気もするが、オーケストラは一級品の腕前であり、管楽器も盛大かつ奇麗に鳴っている。ただ、舞台の背景に投影される映像がなぜかライトモチーフと全く合致しておらず、興ざめな感は否めない。やはり軍配はメータ盤にあがろうかと感じる。

ドゥダメルによるスター・ウォーズ演奏としては再録されたこちらのほうが繊細で配慮がゆき届いた演奏になっていてお勧めだ。そして、ロサンゼルス・フィルの名手たちの音と響きを楽しめる。

・名ヴァイオリニストによるスター・ウォーズ演奏

最近珍しいものが発売された。ピカ一の技術と個性的な演奏で有名なヴァイオリニスト ムターによる演奏がそれである。レイのテーマ、レイアのテーマが美しいヴァイオリンソロで奏でられ、ルークとレイアにおいて、過分なほどロマンティックな味付けがほどこされており、現在のお気に入りの1枚となっている。

・ベルリン フィル によるスター・ウォーズ演奏

さらには、ウィーン・フィルもベルリン・フィルもスター・ウォーズを演奏している。どちらも野外コンサートだが、ベルリン・フィルはベルリン郊外のワルトビューネでの演奏が映像に残されている。20世紀フォックスのファンファーレに始まり、コルンゴルトの「ロビンフット」など、ハリウッドのフルオーケストラの楽曲を次々と演奏し、後半はジョン・ウィリアムズの作品を3曲。さすがにジャズもこなす指揮者ラトルとベルリン・フィルである。映画「E.T.」の弦楽器と管楽器の掛け合いは素晴らしい響きを生み出していたし、クライマックスのスター・ウォーズのメイン・タイトルの演奏ではスーパーオーケストラの本領を発揮しており、名手たちによるブラスの協演を聴くことができる。映像を見るとわかるが、たびたびスコアをチェックしながら指揮をし、映画音楽にも真剣に取り組む指揮者ラトルに好感がもてる。

・ウィーン フィル によるスター・ウォーズ演奏

一方、ウィーン・フィルは2010年夏のシェーンブルン宮殿における野外コンサートで演奏した。指揮はウェルザー・メスト。「レイア姫のテーマ」のヴァイオリンが艶っぽくてキャリー・フィッシャーのイメージがみじんもないところは良いのだが(笑)、演奏が全体的に端正すぎて、いささか食い足りない。コルンゴルトの影響を受けていると言われているスター・ウォーズの楽曲なので、多少端正なほうがウィーンの香りを漂わせているとも言えるのかもしれない。絶妙なタメと歌わせ上手なゲルハルトがウィーン・フィルを振ってくれたならなぁ、と無理な夢を抱かせるような演奏であった。こちらは映像、CDともに発売されている。

● オリジナルサウンドトラック以外のスター・ウォーズの名盤

・メータ指揮 ロスアンジェルス・フィルハーモニー

先に書いた指揮者メータ自身がジョン・ウィリアムズに組曲化を依頼して実現したこちらのアルバム。本人の意気込み、力の入れようは半端ない。特に情感豊かでフルートのソロが美しい「レイア姫のテーマ」が聴き所である。スター・ウォーズ音楽の評価を確立した盤とも言えるので、こちらははずせない。
前回お伝えしたジョン・ウィリアムズも一目置いたゲルハルトの指揮によるものを除けば、これ以上のディスクはないと言える。

・カンゼル指揮 シンシナティ・ポップス・オーケストラ

手兵のシンシナティ・ポップス・オーケストラを率いてこれまで幾度もスター・ウォーズを演奏してきたエリック・カンゼルによる、最後となるスター・ウォーズの収録。高音質で定評のあるTelarcレーベルによるすべてのエピソードをそろえた集大成盤でもある。「エピソード3/シスの復讐」から「英雄たちの戦い」の演奏が集大成だけあって熱い。合唱もオリジナルサウンドトラックより迫力があり、さすが米国ポップス界の帝王。数年前に亡くなられたのが残念でならない。同録の映画「ロード・オブ・ザ・リング」も雄大で素晴らしい。

・ベイトマン指揮 ザ・シティ・オブ・プラハ・フィルハーモニック・オーケストラ

ザ・シティ・オブ・プラハ・フィルハーモニック・オーケストラによる演奏では名手ぞろいの奏者によるキレのよい「アステロイド・フィールド」と、オリジナル・スコアによるゆったりかつ、仄暗い「アクロス・ザ・スターズ」がお勧めである。録音エンジニアはエリック・トムリンソンで旧三部作のサウンドトラックを担当した方、オーケストラの響きがしっかり収録された素晴らしい録音だ。指揮者ポール・ベイトマンは同楽団で映画「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」シリーズの迫力ある演奏もレコーディングしている。

● 変わり種、ウクレレ・フォース

夏にスター・ウォーズを聴くのであれば、こちら「ウクレレ・フォース」がよい。スター・ウォーズのサントラをウクレレでカバーしたものだ。「アクロス・ザ・スターズ」や「ハンソロとレイア」などはウクレレに奏されると淡い雰囲気が漂う。けだるい夏の夕暮れにはこちらのほうがマッチする。バラエティ番組などでときおり流れる、腑抜けた「インペリアルマーチ」もなかなかだ。

● スピンオフ作品の名盤『ハン・ソロ』

スピンオフ作品ながら『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(Solo: A Star Wars Story)は映画、音楽共にお勧めである。監督は名監督ロン・ハワード(Ron Howard)、内容も純粋な冒険物語へと旧三部作に原点回帰している。そのため、続三部作(シークエル・トリロジー)よりも映画的な仕上がりになった。そして、その音楽やディスクも名盤であり、メロディアスなジョン・パウエルの作曲した音楽が非常によい。

● ゲルハルト指揮によるクラシック音楽の名盤

参考までに、クラシック音楽に関心のある方は、前回ご紹介したゲルハルトが指揮したクラシック音楽の名盤3枚を推薦する。スター・ウォーズの指揮っぷりが気に入った御仁なら気に入ること請け合いである。

コルンゴルドに傾倒しているだけあって、かなりのウィーン風味が感じられるR・シュトラウスの「ばらの騎士組曲」が興味深い。

「トスカ」の第三幕からの抜粋を組曲仕立てにしたもの。演奏はロイヤル・フィルで分厚く歌いまくるプッチーニのオペラサウンドを聴かせてくれる。先のシュトラウスのディスクと同じく、論音エンジニアをケネス・ウィルキンソンが担当しており、オーディオファンもうなずく録音クオリティである。

ナショナル・フィルによるワーグナーの管弦楽曲。濡れるようなストリングス、歌わせ上手なゲルハルトの面目躍如の1枚である。選曲が素晴らしく、白眉は「ワルキューレ」の第3幕 ヴォータンの別れ。親子の断腸の別れを描いたシーンを、ダイナミックにひっぱるひっぱる。そして、まったくエロスも情愛も感じられない、ただただ美しいトリスタン。ケレン味たっぷりで、これはこれで新たなワーグナーの世界を創出している。

● スター・ウォーズの砂漠を夢見て飲むお酒

スター・ウォーズとヨーロッパ音楽の関係からサウンドトラックを含めた様々な演奏までを巡ってきたが、豪華なファンファーレやブラスの咆哮(ほうこう)もなく、気を静めて聴くことができる1枚がある。それがジャズトリオ版のこちら。

映画『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』(The Fabulous Baker Boys)のような場末感ある演奏で、ひなびた味わいのある演奏である。ジャズなので、当然ながらトラック9の「Cantina Band」がよい。こちらは「エピソード4/新たなる希望」に登場する酒場のバンドが演奏している曲であるが、オリジナルサウンドトラックにあるような拙劣感はなく、小粋な演奏になっている。

このスター・ウォーズの酒場、ルーカス発案の調子の外れた音楽が流れる。民族楽器を多用しているので、この酒場にはエキゾチックな香りがプンプンする。テーブルには、白濁色のお酒や原色のお酒が並んでいる。退廃的で禁忌なアブサンあたりをモデルにしているのだろうか。

しかし、砂漠の白いお酒となると辻褄(つじつま)があう。中東のお酒「アラック」である。度数が高いので水で割って飲むのだが、透明なアラックは水を入れるとたちまち白濁する。ちょっとSFチックな感じだ。中近東を発祥の地とするこの酒はトルコではラク、フランスではアニス酒、パスティスなどと呼ばれるようになり、アブサンもこの一派である。

実はイスラムの戒律が緩い地域では、イスラム圏であっても、お酒は手軽に入手できる。スーパーマーケットの奥、カーテンの向こうにお酒売り場があったりもする。ヨルダンあたりになると、路面店のワインショップもあった。以前、ヨルダンのワジラム砂漠にお酒を持ち込んでキャンプをした。アラックをお供に夜風を浴びながらの月夜の晩は、幽玄なひとときを味わえた。

スターウォーズ ハリウッド ディスクレヴュー ジョン ウィリアムズ OST オリジナルサウンドトラック アンドレ プレヴィン  レバノンの「アラック」
レバノンの「アラック」

左の瓶に入った透明なお酒が、水を加えると見事な白いお酒に変身する。しかし、本場のアラックはなかなか入手しにくいので、日本で簡単にアラック気分を楽しむのであれば、「リカール(Ricard)」や「ペルノー(Pernod)」という銘柄が有名なフランスのお酒「パスティス」(こちらの記事参照)を買い求めるのがよい。アラックに香りも似ており、なにより簡単に手に入る。

スターウォーズ ハリウッド ディスクレヴュー ジョン ウィリアムズ OST オリジナルサウンドトラック アンドレ プレヴィン  フランスの田舎で出会ったパスティスの蒸留塔
フランスの田舎で出会ったパスティスの蒸留塔

最終話『スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』は、再びヨルダンのワジラム砂漠で壮大なロケが行なわれていた。そして、あのいくつものライトモチーフと過去の音楽が重なる感動的なラストシーン。砂漠に始まり、砂漠に帰る見事なエンディングであった。

スターウォーズ ハリウッド ディスクレヴュー ジョン ウィリアムズ OST オリジナルサウンドトラック アンドレ プレヴィン 三部作(エピソード3)のラストシーン
新三部作(エピソード3)のラストシーン 写真:starwars.com

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