酸ヶ湯の記事に続いて、もう一つ思い出深い東北の自炊湯治の宿がある。それが 岩手 花巻温泉郷 鉛温泉 藤三旅館。酸ヶ湯で味をしめてから、古めの湯治宿を探しており、ここは写真で見て惚れこんでしまった。そこで、1度くらい東京を離れた東北の山の中で年越しをしたく、雪の中の古い木造の湯治宿に連泊することにした。
「ボロ宿」、「ボロいい宿」が人気の昨今、その観点からもこの湯治部の建物は特筆に値するところがある。
尚、湯治部の建物半分と内湯の「河鹿の湯」はこの訪問の後、取り壊してしまったらしい。今は一部が豪華な旅館施設になったようで、なんとも残念ながら、自炊する方も年々減少傾向でこれも時代の流れなのだろう。関心のある方は是非、名残のある今のうちに訪問なさって欲しい。
● 花巻温泉郷 鉛温泉 藤三旅館 湯治部へ
● 鉛温泉 藤三旅館 湯治部の建物
● 藤三旅館 湯治部のお部屋
● 藤三旅館のお風呂
● 藤三旅館 湯治部での食事サポート-売店、調理場、食事
・藤三旅館の売店は品数豊富で湯治に最適
・藤三旅館 湯治部の調理場はとても広い
・湯治部の宿提供のお食事もなかなか
・宿のお食事もよいが、自炊もよい
● 岩手 花巻温泉郷 鉛温泉 藤三旅館 湯治部へ
藤三旅館の創業は天保12年(1841年)、昭和17年には株式会社へ組織変更したとのこと。昭和が香るというよりも昭和そのものな宿。建物は昭和16年に旅館部(現、宿泊部)も湯治部(現、自炊部)もすべて建てられた。大浴場は館内に3浴場あって「源泉100%掛流し」、湯治宿のお値段はお安く、2食付いて一泊6,000円程度。完全自炊をすれば3,000円もしないという、今では破格のお値段。
その藤三旅館へは新花巻駅から無料のバスがでている。このバスは途中何度も豪華な温泉ホテルに停車するが、それらには脇目もふらず(笑)、いよいよ最後に残るのがここ鉛温泉。新花巻駅からは時間にして1時間ほど。最後は大型バスを降りマイクロバスに乗り換える。
最初に出迎えてくれるのがこちらの看板。この矢印が運命の分かれ道で、左はけっこう豪華なお食事とお部屋が待っていそうな雰囲気。しかし、今回向かうのは右方向の湯治部。
ちなみに宿泊部の建屋は総けやきづくりで木造3階建てて、古いながら立派な建物。旅館パンフには「千と千尋の神隠し」に登場する湯屋のようドヤ顔だった(笑)。
● 鉛温泉 藤三旅館 湯治部の建物
一方、湯治部のほうの入口は全く別にあり、味わい深いがちょっとしょぼい(笑)。到着すると、まずは帳場に通される。「帳場」と漢字にされるとカタカナ書きの「フロント」とはひと味違った趣。大きなやかんが乗ったストーブの前で宿泊手続きをとる。浴衣、コンロ等のレンタル、灯油、お湯の配給はすべてここで行ってくれる。皆さん、とても丁寧で初日から宿泊客の顔と名前を覚えていらっしゃって、たいしたホスピタリティである。
湯治部の建物全景、古い建物で当然寒い、つららと屋根の雪が見事。この屋根に積もった雪が時折どっかり落ちて、轟音が館内になり響くことをあとで知った。予想していたものの湯治部の宿内は酷寒、廊下は外気と変わらないんじゃないかという感じである。
ちなみに旅館部のほうは、なんと赤絨毯!廊下もしっかり暖房が入っている。湯治部のお客はこの先にあるお風呂に入る時のみ通行を許され、ロビーやトイレの使用は禁じられている(笑)。
● 藤三旅館 湯治部のお部屋
お部屋の広さは6畳で、テレビはあるがトイレや洗面は共同。石油ファンヒーターは有料でレンタルした。湯治客はお風呂に浸かって、雑魚寝しての繰り返しの日々なので、この広さと設備で充分。宿泊前に食料、酒、本などを詰め込んだ段ボールを宿宛てに送ったが、そちらも旅館の方が部屋に置いておいてくださった。
障子の向こうは冷蔵庫の中にいるような寒さ。ガラス窓から中庭の雪景色が見え、外とはこの薄ガラス一枚なのでほぼ広縁の温度は外気と変わらない。やはり石油ファンヒーターは必須。
廊下に出てみるとガラス窓の上方にはつららと隙間がある。建て付けが悪く窓が完全に閉まらない、寒い訳である。そして、昔の名残でお部屋の常備品リストが壁に貼ったままになっていた。今はこれらの備品は集中管理で部屋には置いていない。
● 藤三旅館のお風呂
藤三旅館には温泉がいくつもある。まずは宿の看板である「白猿の湯」。ここは3階ぶち抜きの天高い温泉、階段を下がったところにあり、実際の位置は地下になる。沸き湯で注ぐ音がしないので静かで神秘的で雰囲気たっぷり。立ち湯と言って湯船が深く、入浴時は立って浸かる。ちなみにここは混浴で、日に3回の女性専用タイムがある。
そして、露天風呂の「桂の湯」時期が時期なので雪見の露天風呂になった。日に何度もお湯に浸かるので、露天で冷たい風にあたりながら繰り返し温泉に浸かるのは気分がよい。夜は向かい側がライトアップされ、青白い光に浮かぶ雪景色もなかなか。
1番何度も浸かったのが「河鹿の湯」男女別の内湯で、自炊部内の建屋にあるので頻繁に浸かった。掛け流しで大きな浴槽にザブリと入ることができる。露天風呂ではないながらも男湯は角部屋で、2方面が大きなガラスなので、露天風呂にいるようなしつらえだった。ここは残念ながら取り壊しが決まっていると聞いたので、今はなくなってしまったかもしれない。
そのほかにも小規模なお風呂があり、幾種類もの温泉や雰囲気を楽しめる湯治にはもってこいな宿。
● 藤三旅館 湯治部での食事サポート-売店、調理場、食事
・藤三旅館の売店は品数豊富で湯治に最適
建物内にある湯治宿特有の売店は、看板からして昭和な感じで、地域の売店をも兼ねているのか、かなり広い店舗。
そして、品数は豊富で、日々自炊にしても困らない品揃え。ねぎ等の野菜、豆腐、こんにゃくなどの食材に加えて、缶詰からお土産まで幅広く置いてある。そして、看板娘と宿の方に紹介された店主は見事なおばあちゃんである。
・藤三旅館 湯治部の調理場はとても広い
売店や持参した食材を料理するのがこちらの調理場。宿の方によると朝、夕を自炊する方はだいぶ減った様子。鍋も食器も有り余るくらいあって、まったく困らない。これでも自炊客の減少で大量に食器を処分したばかりというのだから驚き。
・湯治部の宿提供のお食事もなかなか
食事付プランで湯治部に宿泊すると、朝夕の食事を各部屋に配膳してくれる。朝食は朝7時に配膳されるので、食事を終えると廊下にお膳をさげておく。夕食は17時に配膳され、同じく食後にお膳を下げておけばよい。
この食事のサイクルにあわせることになると、朝は5時に起床して朝焼けの中、露天風呂に浸かり7時に朝食をいただき、ノンビリ部屋で過ごすことになる。日中は、何度か湯に浸かり17時に夕食を食べて早めの就寝、完全にお天道様に合わせた田舎の生活サイクルになるのであった。
気になるお食事内容は、食材が旅館部とあまり変わらないのか献立は立派、ただ品数を減らしているような気がする。湯治部のお食事は1度に配膳を済ます為為か、お盆1枚にギチギチにお皿が乗ってくる。また使われている食器も平凡と感じた。それでも宿泊料がビジネスホテル並で、朝晩食事がついている価格は驚異的だ。
また、湯治部でも1,500円ほど追加すれば旅館部と同じ食事にアップグレードできる。湯治目的だと、やや分量が多いので1度しか試さなかったが、お願いしたのが大晦日だったので相応の工夫がしてあり、お椀はお蕎麦だった。
・宿のお食事もよいが、自炊もよい
お部屋からは雪景色も眺められ、狭い部屋なのでファンヒーターとコタツがあれば、外は酷寒でもぬくぬくとできる。そこで、宿からレンタルしたカセットコンロで熱燗でもつけながら、のんびりと読書しながら日本の冬を楽しむのもオツである。お昼ごはんは付いていないので、たんまり持参した食料や地元の食材豊富な売店でやりくりするのも楽しい。
日本 / 岩手県 花巻市
<詳細情報>
岩手 花巻温泉郷 鉛温泉 藤三旅館
〒025-0252 岩手県花巻市鉛中平75−1