更に映画『ベルリン天使の詩』のロケ地を訪れた / 戦勝記念塔の女神像とトーキー映画館バビロン座(Kino Babylon Berlin)の劇場オルガン

更に映画『ベルリン天使の詩』のロケ地を訪れた / 戦勝記念塔の女神像とトーキー映画館バビロン座(Kino Babylon Berlin)の劇場オルガン

引き続き、ベルリンでの面白映画体験。映画『ベルリン天使の詩』冒頭で天使たちが腰掛けていた戦勝記念塔(Siegessäule Berlin)の女神像、思いつきで塔に入ったところ、運良く映画の天使たちと同じ視線でベルリン市街を眺めることができた。
そして、ベルリンの映画館で度々『ベルリン天使の詩』を上映しているバビロン座(Kino Babylon Berlin)、訪れてみると専属のオーケストラやオルガニストを抱えた映画館で、今となってはとても希有な存在。劇場オルガンは現存する数少ない逸品とのことである。

戦勝記念塔 映画『ベルリン天使の詩』の象徴的な女神像
映画『ベルリン天使の詩』をベルリンで観られるトーキー映画館
バビロン座の上映作品『カリガリ博士』『モダン・タイムス』
バビロン座のキノオルゴール(kino-orgel)/劇場オルガン(Theatre organ)

○ 戦勝記念塔 映画『ベルリン天使の詩』の象徴的な女神像

映画『ベルリン天使の詩』のポスターやジャケットにはこの戦勝記念塔の女神の肩に腰掛ける天使の姿が写っている。幾度も目にした天使が座る女神像のそばまで行けることを今回初めて知った。遠目に見れば高く細長い塔である、まさか塔の先端まで登れるとは思いも寄らなかった。

戦勝記念塔外観 @Siegessäule Berlin
戦勝記念塔外観 @Siegessäule Berlin

塔を遠くから眺めると台座が彩り豊かな回廊になっており、人影が見えることがある。あそこまでは行けるのだなと考えながら塔の入口をくぐった。入場料は現金のみの支払いで4ユーロ、今時のベルリンで現金払いとは珍しい。

中に入ろうと思ったきっかけは、何度もティーアガルデンをサイクリングしていたので、ついでとばかり気軽に中に入ってみただけだった。この気軽な感覚があとで自分の脚に悲惨な状況を引き起こしてしまった。

ティーアガルデンから見る戦勝記念塔 @Siegessäule Berlin
ティーアガルデンから見る戦勝記念塔 @Siegessäule Berlin

入場すると1階部分はちょっとした博物館になっており、ドイツ各地の戦勝記念碑的な建造物のパネルや模型が並んでいる。ちなみにベルリンのこの戦勝記念塔は19世紀のドイツ帝国建国につながる戦いにおけるプロイセンの勝利を記念して1872年に建てられた。

このドイツの戦勝記念碑関係は堅牢で立派なものが多く見応えがある。ライプツィヒにある「諸国民戦争記念碑(Völkerschlachtdenkmal)」などはとても立派なものだったから、こちらの戦勝記念塔にももっと早く訪れるべきだったのだ。

ドイツ各地の記念碑地図 @Siegessäule Berlin
ドイツ各地の記念碑地図 @Siegessäule Berlin
ドイツ各地にある記念碑の模型 @Siegessäule Berlin
ドイツ各地にある記念碑の模型 @Siegessäule Berlin

そして、展示室を抜けると階段があり、そちらを登ると台座にたどり着く。この台座にはプロイセンの大勝利を描いたレリーフがあり、これが塔をぐるりとまわって飾られている。回廊状の台座を歩きながら、このレリーフを眺められるので、1階の博物館にあるキャプションパネルの説明書きを思い出しながら眺めた。

戦勝記念塔台座部分の勝利のレリーフ @Siegessäule Berlin
戦勝記念塔台座部分の勝利のレリーフ @Siegessäule Berlin

そして、更に塔の頂上を目指して階段を登る。このらせん階段はなんと285段もあり、なかなかハード。高さは70m近くあるのだから当たり前である。気軽な気持ちで入館したものの、この階段のおかげで翌日はふくらはぎがパンパンになってしまい、その痛さたるや・・・。

戦勝記念塔のらせん階段 @Siegessäule Berlin
戦勝記念塔のらせん階段 @Siegessäule Berlin

しかし、さすがに頂上の展望台からの眺めは素晴らしい。ティーアガルデンの真ん中に位置するので目の前を遮るような建造物はまったくない。塔を中心に放射状に伸びる道の先には東西南北のベルリンの街が拡がっている。

戦勝記念塔から放射状に伸びる道 @Siegessäule Berlin
戦勝記念塔から放射状に伸びる道 @Siegessäule Berlin

ポツダム広場方面の通い続けたベルリン フィルハーモニーのコンサートホールや州立図書館 ポツダム館が金色に輝いて見える、周囲の景色の中でも、とりわけ映えているのが、ちょっと嬉しい。

金色に輝くフィルハーモニーと図書館 @Siegessäule Berlin
金色に輝くフィルハーモニーと図書館 @Siegessäule Berlin
再び映画『ベルリン天使の詩』のロケ地を訪れた / 図書館訪問の楽しみ、ベルリン州立図書館の入り方
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そして、展望台から見上げると女神像である。実物はかなり大きく迫力がある。最後に女神に挨拶をして、らせん階段を降りた。途中では息を切らせた方と2度ほどすれ違り、あとちょっとだよ、と励まして差し上げた。

金色の勝利の女神ヴィクトリア像@Siegessäule Berlin
金色の勝利の女神ヴィクトリア像@Siegessäule Berlin

○ 映画『ベルリン天使の詩』をベルリンで観られるトーキー映画館 バビロン座(Kino Babylon)

バビロン座(Kino Babylon)外観 @Kino Babylon Berlin
バビロン座(Kino Babylon)外観 @Kino Babylon Berlin

ベルリンにバビロン座(Kino Babylon)という映画館がある。今時、無声映画を定期的に上映している映画館は珍しいし、ここはバビロン・オーケストラ・ベルリンというお抱え楽団まである。

バビロン・オーケストラ・ベルリン @Kino Babylon Berlin
バビロン・オーケストラ・ベルリン @Kino Babylon Berlin

この映画館では定期的に『ベルリン天使の詩』をかけている。このベルリンを舞台にした愛おしい映画を、タイミングによってはベルリンで観るチャンスに恵まれるかもしれない。

映画『ベルリン天使の詩』上映告知 @Kino Babylon Berlin
映画『ベルリン天使の詩』上映告知 @Kino Babylon Berlin

しかし、お目当ての映画がかかっていなくても、劇場付のオーケストラがある映画館など他にはないので、映画好き音楽好きには訪れる価値は大いにある。そして、1920年代に建てられた映画館でトーキー映画を観る機会など滅多にないのだから、極上の体験となること間違いない。

バビロン座の客席 @Kino Babylon Berlin
バビロン座の客席 @Kino Babylon Berlin

1920年代の欧州は文化が華開き「狂乱の時代」と言われた。その時代に一世を風靡した無声映画館を現代に復活させた希有な映画館がバビロン座である。

バビロン座は1929年に開館し、当初からオーケストラピットと音楽伴奏用のオルガンを備えていた。ローザ・ルクセンブルク広場に面しており、1920年代にこの広場にはドイツ共産党のビルがあり、界隈は長年ドイツ左翼の本拠地となっている。戦時中はバビロン座も共産党との関係が深く、反体制の色彩も強かったようだ。

バビロン座の2階席 @Kino Babylon Berlin
バビロン座の2階席 @Kino Babylon Berlin

戦後は東ドイツとのつながりが強い映画館として復活したが、1948年の改修工事でオーケストラピットは閉鎖され、オルガンは解体されてしまった。そして、東西統一後は老朽化が著しくなり閉鎖されてしまった。

2001年になって過去のスタイルに戻すような改装がなされ、劇場内は豪華さを取り戻した。この時に一度つぶされていたオーケストラピットが復活し、ホワイエは1920年のスタイルに戻された。

バビロン座のどこか懐かしい雰囲気のロビー @Kino Babylon Berlin
バビロン座のどこか懐かしい雰囲気のロビー @Kino Babylon Berlin

○ バビロン座の上映作品 『カリガリ博士』『モダン・タイムス』

今回観た映画は2本、1本目は『カリガリ博士』、ドイツ表現主義映画の中でも古典中の古典の作品である。現時点で最善のフィルムを4Kしたものらしく、その昔VHSで見たものと大違いであった。

映画『カリガリ博士』上映告知 @Kino Babylon Berlin
映画『カリガリ博士』上映告知 @Kino Babylon Berlin

驚いたことに現在ではいささか単調に思えるモノクロの作品に、オーケストラの伴奏がつくと面白さは倍増した。大画面で観る歪んでややキッチュなセットも面白くて、あっと言う間に上映時間の70分が過ぎた。

パリの映画博物館がシャイヨー宮にあった頃、なんとカリガリ博士の実物大セットが展示されていた。メトロポリスのマリアやエイゼンシュタインの階段の大きなパネルとかも圧巻でスタッフも日本人には小津や溝口を称賛して話かけてきたり、今のシネマテークフランセーズとは雲泥の差で映画愛に満ちていた。

そんな思い出が蘇り、ドイツ古典映画の金字塔をベルリンの懐古調の映画館で、しかも生演奏つきで観られたのはあまりに嬉しかった。この時の体験があまりに良かったので翌日のチケットも買ってしまった。

翌日の上映は生演奏つきでチャップリンの無声映画『モダン・タイムス』。

映画『モダン・タイムス』上映告知 @Kino Babylon Berlin
映画『モダン・タイムス』上映告知 @Kino Babylon Berlin

座付きのオーケストラの演奏が素晴らしくて、何度も観た映像ながら音楽と映画に夢中になった。やはり他の観客と笑いながら大画面で見る映画は楽しい。そして、生演奏がブンチャカ鳴り響く中で喜劇を劇場内の大勢と堪能するのは良いものである。コメディ映画は万国共通語なので、劇場が幸せでいっぱいになっていた。

この『モダン・タイムス』の上映は、どうも鳴り物入りだったらしく。前日から劇場前に大きな垂れ幕がかかっていた。

映画『モダン・タイムス』垂れ幕 @Kino Babylon Berlin
映画『モダン・タイムス』垂れ幕 @Kino Babylon Berlin

この他にも無声映画の傑作を常時上映しており、ムルナウの『吸血鬼ノスフェラトゥ』、フリッツ・ラングの『メトロポリス』など観たい映画が目白押しの映画館である。

○ バビロン座のキノオルゴール(kino-orgel)/劇場オルガン(Theatre organ)

ところで、バビロン座には舞台向かって左袖に大きなオルガンが設置されている。これがキノオルゴール(kino-orgel)と言われている劇場用のオルガン(Theatre organ)である。

ステージ左に配置された劇場用オルガン @Kino Babylon Berlin
ステージ左に配置された劇場用オルガン @Kino Babylon Berlin

無声映画の伴奏用に開発されたパイプオルガンで昔は大小様々なオルガンがあったようだが、現在ではドイツに唯一現存しているのがここの劇場オルガンらしい。しかも、1999年に修復したおかげで、今も稼働している唯一の映画用オルガンでもある。

キノオルゴール(kino-orgel)/ 劇場用のオルガン(Theatre organ) @Kino Babylon Berlin
キノオルゴール(kino-orgel)/ 劇場用のオルガン(Theatre organ) @Kino Babylon Berlin

このパイプオルガンはフランクフルト・アム・マインのフィリップス社によって製造された。開館当時はドイツ国内でも最大級の劇場オルガンだったらしい。

ステージとスクリーンの間の壁にオルガンのパイプが埋め込まれており、更には劇場の裏にはマシンルームがあり、モーター駆動のティンパニ、シンバル、電話音や汽笛などが設置されている。これらの楽器も効果音としてオルガンで操作できる。オルガンにたくさんのスイッチ類がついているのはそういう訳であった。つまり劇場オルガンはミキサーのような役割も担っており、映画を演出する効果音までオルガンでコントロールしているのだ。

マシンルームの各種効果音楽器 @Kino Babylon Berlin (映画館ホームページより)
マシンルームの各種効果音楽器 @Kino Babylon Berlin (映画館ホームページより)

そして、このオルガンの演奏を映画上映前に聴くことができる。オルガン奏者が待ち時間の間に演奏をしてくれるのだ。そのため、映画上映前に席について聞き漏らさないようにしたほうがよい。教会とは、また違ったパイプオルガンの音色を楽しむことができる。

ドイツ / ベルリン

<詳細情報>
・戦勝記念塔 Siegessäule Berlin
Großer Stern 1, 10557 Berlin

・バビロン座 Kino Babylon
Rosa-Luxemburg-Straße 30, 10178 Berlin