スコットランド ヘブリディーズ諸島の旅 2 / アイオナ島、アーガイル ホテルでナチュラルな美味に出会う

スコットランド ヘブリディーズ諸島の旅 2 / アイオナ島、アーガイル ホテルでナチュラルな美味に出会う

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スコットランドの魅力を、旅、酒、食といった様々な切り口から紹介するシリーズの第2弾。タップウォーター(水道水)が素晴らしかったスカイ島の宿を発ち、マル島(Isle of Mull )を経由して目的地のアイオナ島(Isle of Iona)へ向かう。ヘブリディーズ諸島のドライブ旅行にはフェリーの乗り継ぎが必須。フェリーの発着時間に間に合うように早朝に宿を出発した。アイオナ島は一般車の乗り入れが不可な小さな島。この島を観光することはもちろん、ナチュラルなお食事をいただけるアーガイルホテル(Argyll Hotel)に宿泊することも、お目当ての一つだった。

キンロッホ・ロッジの優しい心遣い
フェリーを乗り継ぎ、牛と戯れながらのドライブ
平和な島には無人のお土産ブースも
歴史に思いを馳せつつゆったり過ごせる場所、アーガイルホテル

● キンロッホ・ロッジの優しい心遣い

アイオナ島も前回のスカイ島と同じく、スコットランドのヘブリディーズ諸島の一部である。諸島と言うくらいなので島から島への移動は短距離フェリーが必要だ。スカイ島からアイオナ島に行くには3回も乗り継がなければならない。対岸が見えるような短距離のフェリーながら発着の時間がまちまちなので、うまく乗船時間を調整しないとなかなか目的地にたどり着かない。

アイオナ島への道すじ
アイオナ島への道すじ

以前アラスカを旅した時も同様にフェリーの乗り継ぎは時間が気になる。アラスカではフェリーの乗り継ぎがうまくいかない場合は何もない船着き場で野宿をするはめになりかねず、フェリーの時刻を気にしてハラハラした。しかし、スコットランドには小さな宿があちこちに点在するので、そんな心配は無用。但し、フェリーの乗り換えにあくせくし、美しい景色を見損ねるのは本意ではないので、早朝に宿を出ることにした。

そして、そのおかげでとても感動する出来事に遭遇した。それは宿泊したキンロッホ・ロッジの心遣いだ。出発する前日、早朝発つ旨をホテルに伝えておいたところ、朝食は用意できないと言っていたのに食堂に簡単な食事を用意してくださっていた。旅先でこのような親切に出会うと、心温まるだけでなく、旅そのものが思い出を含めて宝物になる。

キンロッホ・ロッジの心遣い @Kinloch Lodge
キンロッホ・ロッジの心遣い @Kinloch Lodge

● フェリーを乗り継ぎ、牛と戯れながらのドライブ

朝焼けの中の出発 @Kinloch Lodge
朝焼けの中の出発 @Kinloch Lodge

フェリーターミナル間の道は風光明媚な素晴らしいドライブだった。注意が必要なのは一車線の道があり、これが大きい車だとちょいと不便である。対向車とすれ違う際には、片方が待避スペースに停まり、こういった場合は双方が譲り合うという運転スタイルになる。

譲り合いスペース @Isle of Mull
譲り合いスペース @Isle of Mull

左にある退避帯で、対向車とすれ違う際にどちらかがこちらに車を入れる。基本、譲り合いが徹底しており、先に気がついたほうが入って待っているしくみ。「来ていいよ」の合図はパッシング。「そっちを待っているよ」の合図はウィンカー、のようだ。
英国の方々の譲り合い精神は、それはそれはしっかりしており不安はまったく感じない。むしろ、互いに譲り合ってしまい、どちらが先に行くのか判断に困ったりした。そして、すれ違い様にドライバー同士がほほ笑み合い、あいさつを交わす。気持の良いかぎりである。

マル島のドライブ @Isle of Mull
マル島のドライブ @Isle of Mull

しかし、スコットランド特有のロン毛の牛、ハイランドカウ(Highland cow)に車を囲まれた際には閉口した。彼等の動きは非常に緩慢な上に、車の周囲を数頭に囲まれてしまった。そろりそろりと間を抜けていくも、全く彼らは動じず。じっとこちらを見つめてるだけだ。

道をふさぐハイランドカウ達 @Isle of Mull
道をふさぐハイランドカウ達 @Isle of Mull

顔はロン毛に覆われ、鳴きもしないし、極めて温厚そう。ただ、身体は大きく丈夫そうで立派な角がある。全身毛に覆われており、古生物のようでもあり迫力がある。

動く気配のないハイランドカウ @Isle of Mull
動く気配のないハイランドカウ @Isle of Mull

後続車が現れ、クラクションをけたたましく鳴らして、牛たちを追い払おうとするも、そこはノンビリ緩慢なハイランド牛である、ノロノロしかたなく動き始めるが、これまたスローモーションのようだ。まごまごしていると後続の車はけたたましいエンジン音を立てて、牛の合間を器用にぬって自分の車すら抜き去って行ってしまった。こちらはノンビリ旅行者なので牛と見つめ合いながら牛歩に合わせて車をすすめた。こういった旅も楽しい。

● 平和な島には無人のお土産ブースも

フェリー 本土からマル島へ、2回目のフェリー。こちらのフェリーは天井のない渡し船的なものだった
フェリー 本土からマル島へ、2回目のフェリー。こちらのフェリーは天井のない渡し船的なものだった

最後(3回目)のフェリーには観光客の自動車は乗り入れはできない。そこで、フェリー乗り場付近にある無料駐車場に車を置き、宿泊用の荷物だけを持参してアイオナ島( Isle Of Iona)にわたる。

アイオナ島の郵便局と乗ってきたフェリー @Isle of Iona
アイオナ島の郵便局と乗ってきたフェリー @Isle of Iona

スコットランドの人と人の親密さは島に入るともっと顕著だ。アイオナ島ではいたるところに無人のお土産ブースがある。ちょっとした工芸品に値段が書いてあり「この缶にお金を入れてください」とだけ記され、家の軒先に置かれているのである。さらにホテル内では部屋の鍵も不要(お願いすればもちろん施錠可)。極めて平和な島なのである。

アイオナ島で見つけた無人のお土産ブース @Isle of Iona
アイオナ島で見つけた無人のお土産ブース @Isle of Iona

アイオナ島に到着後は島内を散策し、海に面した小さなホテル、アーガイルホテルでゆったり過ごした。アーガイルホテルはアイオナ島の中ほどに農園を持っている。散歩の途中で、それを見かけた。このこぢんまりとした農園で採れるハーブや野菜をふんだんに使った料理がアーガイルホテルでは楽しめるのだ。

アーガイルホテルの菜園 @Isle of Iona
アーガイルホテルの菜園 @Isle of Iona

アイオナ島に行くなら是非このホテルを、と知人に勧められ泊まったわけだが素敵なのはホテルの立地だけではない。オーガニックな素材を使った食事も素晴らしく、お部屋も味があるとのこと。実際、ホテルの方々もとても親切丁寧、心身共にじつにユッタリできた。

アイオナ島の集落はマル島側に集まっており、フェリー乗り場からすぐのところにホテルはある。見晴らしもよく、気分は最高。車をマル島に置いて渡る必要がある為、手荷物程度しかホテルに持ち込めないが、裏返せばそれだけ車も人も少ない孤島のホテル、夜はとっても静かで満天の星空を楽しんだ。

アーガイルホテル部屋からの眺め @Argyll Hotel Iona
アーガイルホテル部屋からの眺め @Argyll Hotel Iona

● 歴史に思いを馳せつつゆったり過ごせる場所、アーガイルホテル

アーガイルホテル外観 @Argyll Hotel Iona
アーガイルホテル外観 @Argyll Hotel Iona

料理が評判なアーガイルホテルであるだけに、夕食時になると近くの宿泊施設からも客が集まり、食堂兼レストランは落ち着いた雰囲気ながらも客でいっぱいのにぎやかな空間になる。

その昔、スコットランドはイングランドと対峙するために政治的にはフランスびいきだった。なのでスコットランドの食事はイングランドと違って美味しいのだ、という説があるらしい。

この日はローストしたチキンをいただいた。その皿にも新鮮な野菜が使われ、前菜はマル島の蟹肉を使ったベーグル、サラダには山羊のチーズを合わせていた。小さな宿にしてはワインリストも充実していたので、ボトルで頼んでゆっくりと食事を楽しんだ。また、夕食後は海を眺めながらウイスキーをいただく。この小さな島に蒸留所はないが、お隣のマル島には由緒あるトバモリー(Tobermory)蒸留所がある。

アーガイルホテルの菜園より採れたてのカブに山羊のチーズを合わせたサラダ。野菜もチーズも鮮度抜群である @Argyll Hotel Iona
アーガイルホテルの菜園より採れたてのカブに山羊のチーズを合わせたサラダ。野菜もチーズも鮮度抜群である @Argyll Hotel Iona

ところで、日本でも親しまれているスコッチウイスキー、イングランドにおけるその歴史は、実は陰惨である。スコットランドとイングランドの戦いの後、勝利したイングランドは自分たちが普段飲まないウイスキーに重税を課す。この圧政から逃れるために、高い山がそびえるハイランド地方や西の孤島といった僻地にウイスキー職人が身を隠し、ウイスキー文化を継承・発展させた。

一方、イングランドはスコットランドの文化を根絶やしにしようとバグパイプやキルトを禁止していた時期もある。ウイスキー造りは、スコットランド人にとってある種反骨の旗印でもあったようだ。

そのような経緯を持つスコットランドとイングランドであるが、ウイスキー文化がイングランドに根付いたきっかけには興味深いものがある。

アーガイルホテルの部屋 @Argyll Hotel Iona
アーガイルホテルの部屋 @Argyll Hotel Iona

イングランドでは元々大衆はビール、上流階級はワインやブランデーを好み、ウイスキーには見向きもしなかった。ところがある年、ヨーロッパ全域でブドウ畑が害虫被害に遭い、全滅してしまった。ご多分にもれず、イングランドでも上流階級の方々は飲むお酒がなくなった。そこでようやくウイスキーを飲むようになったのだという。しかもそれが、今ではイングランドを含めた英国の主な輸出品にもなっているのだから、皮肉な話である。

ウイスキーの逸話からスコットランド魂に想いを馳せていると、ここアイオナ島もまた気骨のある歴史と風土に根ざしていることに気づく。スコットランドにおけるキリスト教(ケルト系キリスト教)布教の拠点であったこの島は、最初はバイキングに、次は宗教改革時のプロテスタント教徒にさんざん蹂躙(じゅうりん)された歴史を持つ。

ケルト系キリスト教はドルイド教とキリスト教が巧みかつ平和裡に融合した宗教であったが、相次いでの襲撃による破壊と略奪はすさまじく、史跡を含めて完膚無きまで打ち壊されたと言う。

しかしながら、時を経ていまだにアイオナ島は巡礼の地として穏やかにたたずみ、家々は施錠もしない平和な島として旅人を迎えてくれる。今こうして静かな夜風と安息の島の空気に包まれていると、ここにこうしていることが実に極上体験であると気づかされるのである。

アイオナ島南端にて。人気のない海岸沿いの遊歩道より @Isle of Iona
アイオナ島南端にて。人気のない海岸沿いの遊歩道より @Isle of Iona

イギリス スコットランド / アイオナ島

<詳細情報>
アーガイルホテル(Argyll Hotel Iona)
Argyll Iona PA76 6SJ

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