前回からの続き。オランダ南部にデンボス(Den Bosch) / スヘルトゲンボス(‘s-Hertogenbosch)という中世の面影を多分に残す要塞都市がある。美しい街なので自国民のオランダ人には人気の街なのだが、日本ではあまり取り上げられることがない。中世の街並みが美しく、レンガ造りの家々の周囲や下に無数の運河が張り巡らされ、独特の景色のある街で、教会(聖ヤン大聖堂 / 聖ジャンス聖堂 Sint-Janskathedraal)の奇っ怪な石像たちが見物と、見所が多い街なのに残念である。この街は更に画家のヒエロニムス・ボスの生誕の地としても有名である。2016年、そこで彼の没後500年で大回顧展が開かれた。
● 聖ヤン大聖堂 / 聖ジャンス聖堂を訪れる
● 聖ヤン大聖堂内の見事な祭壇とボスの手によると言われる絵
● 聖ヤン大聖堂の屋上に昇り、無数の怪物たちに出会う
● 聖ヤン大聖堂の珍しい天使像
● 聖ヤン大聖堂 / 聖ジャンス聖堂を訪れる
ボスの展覧会を見終えて、考古学博物館で薦められたカテドラル(聖ヤン大聖堂 / 聖ジャンス聖堂 Sint-Janskathedraal)を再び訪ねると、なんと有料だが大聖堂の屋根上に登れるツアーがある。
その受付で「今日の分はソールドアウト」とオランダ美人さんがおっしゃる。ボスの回顧展のチケットを見せ、無理を承知で「コレじゃダメ?」と尋ねてみると「いつまでこの街にいるの?」と問われるので「今日はデン・ハーグに行くので、今日しかないのです。」と正直にお伝えする。
すると横にいた工事関係者風のお爺さんが「いいじゃないか、入れてやりなよ」と(多分そう言っているだと思うが、オランダ語なのでよくわからない)。それで見事、教会の屋上に上れることに相成った。
最初、大聖堂を見た時に、見事なガーゴイルにフライングバットレス、これは上から見たいなぁ、と思っていたので非常に嬉しい。そして、後で知ったのだが、この大聖堂はオランダの教会の中でも最大規模で1220年着工で現在の完成形になるまで300年以上かかったらしい。
● 聖ヤン大聖堂内の見事な祭壇とボスの手によると言われる絵
入場まで時間があったので先に聖堂内を見学することにした。目についたのが、こちら。Retable / Reredos と言って、祭壇や装飾壁をさすらしいが、これがまた精緻な彫刻なのである。キリストの受難を描いたもので造形が見事。またパネルの左側はエルサレムでキリストが捕まるところ、右側は復活と昇天が描かれている。事前知識なく訪れたデンボスだが、息をのむものばかりで、この先のカテドラル見学がますまる楽しみになる。
更に見事なのはパイプオルガンの外観、世界一美しいとの評価もあるようで、こちらは1620年頃の作。後からつけられたのかもしれないが頂点に時計があり、その下にはカラクリ仕掛けも見える。
ヒエロムニス・ボスはデンボスのキリスト教友愛団体に所属しており、この聖堂にも深く関わっていたとの記録がある。しかし、彼の手による祭壇画などの作品は残っていないと言う。 ただ、ボスの手によると言われる絵が聖堂内部に展示されている、これは真筆なのであろうか。
● 聖ヤン大聖堂の屋上に昇り、無数の怪物たちに出会う
時間になったので大聖堂の屋根ツアーの集合場所へ。聖堂にあがるには外壁に設置された階段を使って登っていく。途中途中外壁にある彫像を間近に見ることができるので、足にはキツいが飽きない。
聖堂の屋根にたどり着くと壮観な景色が待っていた。
そして、さすがボスの街で、奇怪な彫像が整列して聖堂の屋根を取り囲んでいる。 中世の教会にはフライングバットレス(飛梁)という外壁に梁を巡らせて建物を補強しより高い建造物を建てる工夫がなされている。そのフライングバットレスのアーチ状のフォルムが他のどの教会でも美しく、建物をアーチが取り囲むので教会の外観がエレガントな佇まいになる。
そして、聖ヤン大聖堂のフライングバットレスには神話上の生き物、音楽家、陶芸家など職人そして怪物たちの彫像が並んでいるのだ。ここまでフライングバットレスに装飾を施したものは今まで見たことがない。
フライングバットレスの彫像たちは表情やしぐさまで細かく作りこまれている。
● 聖ヤン大聖堂の珍しい天使像
もうひとつユニークなのは、デニム姿で携帯電話を使う天使の像が多くの彫像の中に紛れている。2010年の修復の際に25体の像が新造された際に加えられたとのことだ。そして、この天使とは電話で話ができるらしい(笑)。像と言い、電話ができるギミックと言い、史跡かつ宗教施設で、こういうちょっとした遊びが許されるところが素敵だ。
ちなみに先だってパリのノートルダム寺院で悲劇的な火災があったが、こちらの聖ヤン大聖堂は万全の策を練っている。聖堂内には無数のスプリンクラーの設置されており、燃えやすい尖塔には太い水道管が敷設されている。聖堂天井内でも 消防隊がホースを接続することができるようにしてあるらしい。更には出火時に備えて、天井は耐火スクリーンで区画整理されており、消防隊は迷路のような屋根裏を歩けるように年に1度訓練もしていると言う。