オペラの国イタリアの俊英指揮者によるお勧めクラシック音楽本 / 『バッティストーニのぼくたちのクラシック音楽』 を読む

オペラの国イタリアの俊英指揮者によるお勧めクラシック音楽本 / 『バッティストーニのぼくたちのクラシック音楽』 を読む

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2018年の東急ジルベスターのカウントダウンで「アイーダ 凱旋行進曲 」ラストの15秒伸ばし事件を「えぇもちろん計算通りです」と平然と答えた若手指揮者に惚れこんだ。その名はアンドレア・バッティストーニ(Andrea Battistoni)、イタリアのヴェローナ出身の若手指揮者である。
そこで手に取った彼の書籍『バッティストーニのぼくたちのクラシック音楽』。丁寧、親切、素直な上に文章上手でめっぽう面白い。誰が読んでもクラシック音楽に親しみを感じ、書き手は当代随一の俊英指揮者という良書。

音楽への関心を失わせるリコーダー実習
バッティストーニ がお薦めするクラシック音楽
・今すぐダウンロードすべき5曲 by バッティストーニ
・ひときわ輝きを放つ大作曲家 by バッティストーニ
・オペラ入門にお勧めの5作品 by バッティストーニ
・指揮台のレジェンド3名 by バッティストーニ
素晴らしい『バッティストーニのぼくたちのクラシック音楽』の最終章
バッティストーニのコンサート アモーレなチャイコフスキーと火の玉トスカ
・東京フィル 第920回サントリー定期
・バイエルン歌劇場でのプッチーニ「トスカ」

● 音楽への関心を失わせるリコーダー実習

私たちも経験がある音楽の授業でのリコーダー(学校の笛)実習についてバッティストーニはこう評する。「 ホラー。音楽への小さな最初の一歩を妨げるように作られています。しかるべき音が出ないのは笛のせいです!」
更に文中では「中学校で習ったリコーダーのことは、ここでは忘れてください。あれは、この本が取り上げようとしている音楽とは別物です」とも(笑)

リコーダーの件を含めてバッティストーニの音楽へのスタンスは以下にも詳しい。首席客演指揮者アンドレア・バッティストーニ、大人気テレビ番組『TED』出演!

しかし、ここにいる大部分の方、一般のイタリア人にとっての初めてのクラシック音楽との出会いは、おそらく小学校の低学年でしょう。今この場をお借りしてイタリアの教育方式を批判したくはありません。何しろ私は、リコーダーの授業に異議を唱えて大半のイタリア人教師から総スカンを食らったことがありますから…(客席から拍手)

音楽教師、特にイタリア人教師を誹謗する気はこれっぽっちもありません。イタリアの学校は経済的に困窮しているし、イタリアの先生たちは数多くの大変な困難に立ち向かっているのですから、時には唯一 入手可能なものがリコーダーであるというのは分かっているんです。ただこんな、イースターの卵から見つけたおもちゃような、プラスチックの欠片を使って演奏をするというのは、何と言いますか、ちょっと逆効果なんじゃないかと私は思うんです。

● バッティストーニ がお薦めするクラシック音楽

小気味よく率直な見解を述べるのも音楽への強い愛情故。その愛情から30歳あまりの彼が各曲にここまで深い造詣をもっているのか、と本を読むと驚嘆する。小澤征爾も若い頃はとにかく勉強勉強の日々と書いていたが、彼も同じで楽譜を傍らに置く様の描写などは面白い。そして、その勉強量を差し置いてもわかりすく書かれた本文の背景にある知識量に圧倒される。
以下は、彼のクラシック音楽のエッセンスを抜き出してみたもの。

・今すぐダウンロードすべき5曲 by バッティストーニ

ベートーヴェンの運命、ラベルのボレロ、モーツァルトのリンツ、ドボルジャークの新世界、ムソルグスキーの展覧会の絵

・ひときわ輝きを放つ大作曲家 by バッティストーニ

バッハと管弦楽組曲3番、ベートーヴェンと第九、ベルリオーズと幻想交響曲、ワーグナーとバイロイト、ストラヴィンスキーと伝統 &未来のリズム

オペラの国イタリアの俊英指揮者 バッティストーニのぼくたちのクラシック音楽
 フィラルモニコ劇場-バッティストーニの故郷ヴェローナには屋内劇場もある @Verona
フィラルモニコ劇場-バッティストーニの故郷ヴェローナには屋内劇場もある @Verona

・オペラ入門にお勧めの5作品 by バッティストーニ

ヴェルディのリゴレット、ロッシーニのセビリアの理髪師、プッチーニのラ・ボエーム、モーツァルトのドン・ジョバンニ、ビゼーのカルメン

・指揮台のレジェンド3名 by バッティストーニ

アルトゥーロ・トスカニーニ、ヘルベルト・フォン・カラヤン、レオポルド・ストコフスキー

● 素晴らしい『バッティストーニのぼくたちのクラシック音楽』の最終章

音楽本はあまたあるけれど、これらの音楽や作曲家の解説を指揮者自らがしたためたもので、若き俊英による新鮮な感性で読むことができる本書はかなり贅沢。

オペラの国イタリアの俊英指揮者 バッティストーニのぼくたちのクラシック音楽
 古代ローマ時代の円形闘技場@Verona
古代ローマ時代の円形闘技場@Verona

彼の出身はイタリアのヴェローナ。街は世界遺産で、中心には古代ローマの円形劇場があり、毎夏に野外オペラ(アレーナ・ディ・ヴェローナ音楽祭)がおこなわれる。本の最後は、バッティストーニ少年が、かつて通っていたアレーナの舞台に、ついに立つお話。1人の少年が巣立つ最終章が素晴らしい。

「子供の頃、舞台は夢そのもの、この世のものではない憧れの場所だった」とある。しかし、アレーナの舞台に向かう、今の彼の目に映るのは準備に奔走する裏方のリアルな世界。そして、高まる緊張の中で、かつて自分が子供の頃に座っていた常連席に舞台裏から目に入ってくる。
夢がかなった今、そして高揚した気分で登壇する。

さあ音楽だ、ひたすら音楽だ。

が本書の結び。ひたすら美しい名文で綴られる、熱く、上質の音楽本。

● バッティストーニのコンサート アモーレなチャイコフスキーと火の玉トスカ

・東京フィル 第920回サントリー定期

こういう一夜が稀にあるから、コンサート通いはやめられない。東京フィル 第920回サントリー定期 初の生バッティストーニでのアモーレなチャイコフスキーが凄すぎた。ラストの爆速爆演に乱れぬ東フィル、久しぶりに鳥肌。その流れでのアンコール「威風堂々」は英国人がいたら歌い出すのでは、という名調子でプロムスをしのぐ出来映え。

バッティストーニさんの指揮する最初の曲はウォルトンの『王冠』で戴冠式の為の祝典曲。出だしでの柔らかな統率力がハーディング、ラトルのデビュー当初を思い出させる。帰宅後2種の同曲録音を聴くもこれらは拍子抜け、ウォルトンをここまで格調高く指揮する彼に改めて舌を巻く。

続いてのモーツァルトでは、バッティストーニさんは 時折譜面を見ながらの丁寧な演奏で、三楽章のみ指揮棒をかまえピシッと。コンマスとピアノのかけあいもよく、ちょい早めのテンポで古楽風の演奏。小山実稚恵さんは堅実なピアノ、席が悪かったのか、音が曇ってピアノは十分楽しむことができなかった。

アモーレなチャイコフスキー / バッティストーニ 東京フィル チラシ
バッティストーニ 東京フィル 第920回サントリー定期 チラシ

チャイコフスキーはバッティストーニさんの凄まじい形相に出だしからピリリとする。この爆速演奏は、聞き覚えがあるとディスクをツマミ聴きするとロジェストヴェンスキー/モスクワ放送交響楽団盤や同楽団のスベトラーノフ盤がそれに近い。ペテルブルクのオーケストラのほうはムラヴィンスキーもテミルカーノフも、そんな無茶はしていないので、モスクワのお家芸か(笑)。録音と比較するのも酷だが、今日のバッティストーニさんは爆速ながら歌があるのが凄かった。

アンコールのエルガーの「威風堂々」の私の愛聴盤はシノーポリ(笑)。今日も感じたけれど、この曲はイタリア人が指揮したほうがシマるのではなかろうか(笑)。ムーティさんあたりがピシピシとインテンポで振ったら最強だと思う(笑)。

ちなみにウォルトンとチャイコフスキー、威風堂々ではバッティストーニさんは暗譜で指揮。

東京フィルは、管楽器も名手揃いだけど、ヴァイオリンの合奏が美しいオケだと感じた。聴いているとヨーロッパにいる気分にさせてくれる。楽器のせいか、彼らのハーモニーがそうさせるのか、縦の線より響きを大事にしているような気がした。とても失礼だけれどもヘマしてもよいから、今夜のような音をかきならし続けて欲しい。今日の演奏は収録していたようだから、CDが発売されないかと思う。

バッティストーニ 東京フィル 第920回サントリー定期
バッティストーニ 東京フィル 第920回サントリー定期

・バイエルン歌劇場でのプッチーニ「トスカ」

その後、ミュンヘンでもバッティストーニの指揮するオペラを聴くことができた。ただ、チケットを購入して指揮者を確認しなかったものだから、バッティストーニが指揮とは知らず(笑)。バッティが出てきて驚いた次第。バッティは例にとって大ぶりな指揮でオケを鼓舞するのだけど、そこはミュンヘンの古株奏者の方々、易々とはのらない感じであった(笑)。

拍手喝采のバッティストーニ @Bayerische Staatsoper
拍手喝采のバッティストーニ @Bayerische Staatsoper


しかし、バッティストーニは気合い充分で、ほとばしる汗のバッティ、1幕ラストは凄まじい熱量。まるで火の玉のようなトスカ!ステファノ・ラ・コッラはハリある声で拍手喝采。ハルテロスはやや上品すぎるも声量豊かで素晴らしい。

ステファノ・ラ・コッラとハルテロス @Bayerische Staatsoper
ステファノ・ラ・コッラとハルテロス @Bayerische Staatsoper

そして、久々に訪れて、バイエルンの歌劇場がとても音響よいオペラ座であることに気がついた。空間が声と音に満ちて自分好みの音響である。

バイエルンの歌劇場内部 @Bayerische Staatsoper
バイエルンの歌劇場内部 @Bayerische Staatsoper

イタリア / ヴェローナ ドイツ / ミュンヘン 日本 / 東京

<演目詳細>
・第920回サントリー定期シリーズ
4月18日(木)19:00開演 サントリーホール
ウォルトン/戴冠式行進曲『王冠』
モーツァルト/ピアノ協奏曲第26番『戴冠式』
 アンコール ラフマニノフ/前奏曲ト長調
チャイコフスキー/交響曲第4番
 アンコール エルガー/威風堂々 第1番
ピアノ:小山実稚恵
指揮:アンドレア・バッティストーニ
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

・Giacomo Puccini TOSCA
Thursday, 31. October 2019 Nationaltheater
Musikalische Leitung Andrea Battistoni
Inszenierung Luc Bondy
Floria Tosca Anja Harteros
Mario Cavaradossi Stefano La Colla
Baron Scarpia Željko Lučić