ウィーンには、外国人にはあまりポピュラーではないお酒の文化がある。ウィーンというと、まずはホイリゲやワインケラーが思いつく。ガイドブックにはそれらのお店で白ワインをどうぞ、という具合である。
しかしながら、オーストリアの1人当たりのビール消費量は世界3位!ビールの一大消費国なのだ。一時的に廃れてしまった、この国発祥であるウィーンスタイルのビールも最近復活した。そして、これがなかなか美味しいという噂を耳にした。
● ウィーン発祥のビールを探しに ヴィーデンブラウ(Wieden Brau)
● 塩味パン、ソーセージ、現地の料理は現地のビールに合う
● 醸造設備のあるビール居酒屋 ザルム ブラウ(Salm Brau)
● ピルスナーに1度駆逐されてしまったウィーンスタイルのビール
● ザルム ブラウのスペシャリテ
● ウィーン発祥のビールを探しに ヴィーデンブラウ(Wieden Brau)
ウィーン・フィルのチケットを手配してくれたウィーン在住のスルツァーさん(こちらの記事参照)に「ウィーンで飲みたいビールがある」と言ったところ、「ウィーンに来て(ホイリゲなどで)ワインを飲みたいと言う人は多いけど、ビールを探している人は初めて」とのこと。なんとスルツァーさん自らが知人やホテルの方に問い合わせてくださり、その足でビールの種類が豊富な街の定食屋さんに連れて行ってもらうことになった。
地図を片手に2人でルートを探りつつ、訪れた店は「ヴィーデンブラウ(Wieden Brau)」。ウィーン工科大そばにひっそりとたたずむ“世界一入りにくい居酒屋”のひとつの趣である。
メニューを見ると確かにかなりの種類のビールがある。さらには店のお勧め(提携している地ビール)のものが数種類ほどあり、お店の計らいで少量ずつすべて試飲をさせていただいた。
● 塩味パン、ソーセージ、現地の料理は現地のビールに合う
お目当てのビールはその中のひとつ「メルツェン(Marzen)」。ウィーンのビールらしく、ほのかに甘く、味わいは深い。予想通り私好みのビールであった。店内を見回すと地元のおじさん、おじいさんたちの会合がいくつも開かれている。皆さんビールをテーブルに並べ、話に夢中な様子である。店の方も親切かつフレンドリーでなんとも居心地がよい。おまけに値段も安いときている。ホテルからも近かったので、なにかにつけて利用しようと思った。
ビールのつまみにはプレッツェルもよいのだが、同じく塩が利いたオーストリアパンのザルツシュタンゲルもお勧めだ。塩味とビールの相性は抜群なのである。そして、料理はヴェルナーブルスト(Berner-Wurstel)を注文してみた。ヴェルナーブルストとは、エメンタールチーズが入ったベーコン巻きソーセージのことで、オーストリアの定番料理らしい。とろけたチーズにベーコンの塩味と、ぷちぷち口の中で弾けるソーセージがこれまたビールに合う。
サイドディッシュにはポテトサラダをいただいた。日本のポテトサラダとは異なり、ワインビネガーとオリーブオイルのドレッシングにつけ込んであるのがオーストリア風。酸味があって、あっさり味。少々脂っこいこちらの肉料理にバッチリ合うサイドディッシュなのである。
ドイツとはちょっと異なるオーストリアの赤いビール。ウィーンに行かれた際にはこの赤いビールとともに、おいしい料理を楽しんでいただきたい。
● 醸造設備のあるビール居酒屋 ザルム ブラウ(Salm Brau)
ウィーン建物巡りの合間に、美味しいビールを飲ませてくれる居酒屋に巡り会った。ベルヴェデーレ宮の庭園を横断した先にある ザルム ブラウ(Salm Brau)というビール居酒屋である。
店内に入って驚いたのは、ここは小さなビール工場でもあり、お店のど真ん中に醸造設備がドンと設置されている。言ってみれば自家製生ビールがそのまま飲めるお店であった。こういったビール居酒屋のよいところは、ビールを濾過(ろか)せず酵母が生きたままであること。風味が豊かで実に味わい深い。店内で飲む分のみを製造しているので持ち帰ることはできないのが残念だ。
ここでもウィーンスタイルのビールが飲める。ウィーンに起源をもつ赤みがかった色合いでモルトの風味が豊かなビールだ。先ほどもご紹介したが、このウィーンビールは「メルツェン (Marzen)』と言って、3月(März:メルツ)にちなんだ名称となっている。3月に仕込み、夏に熟成させ、10月のオクトーバーフェストの時季に飲まれるからである。そのため、オクトーバーフェスト・ビールとも言われているらしい。
● ピルスナーに1度駆逐されてしまったウィーンスタイルのビール
1841年に誕生したウィーンスタイルのビール「メルツェン」は「ピルスナー」と同じ下面発酵のビールである。しかしながらメルツェンは、ピルスナータイプのビールにかつて駆逐されてしまった歴史を持つ。しばらくは本場ウィーンでは飲むことができず、製造法が伝わった他国でのみ作られ続けていた。近年になって伝統ビールが復活したのはとても喜ばしい。
ちなみに、現在のウィーンのビールと言えば、ピルスナーの流れをくむ「ゲッサー (Gösser)や「オッタクリンガー(Ottakringer)」などが有名で、これらもドイツビールに比べると、甘味があり、苦みは弱い印象を持つものの、やはりメルツェンの風味とは一線を画する。ビール居酒屋で活きのよいメルツェンを飲めば、ウィーンスタイル本来の風味の虜(とりこ)になること請け合いである。
ところで、ザルム ブラウであるが、同じくビール大国のスロヴァキア出身のブラウマイスターが醸造しているようで、メルツェン以外のビールも是非試してみたい。
● ザルム ブラウのスペシャリテ
ザルム ブラウの食事には、定番のシュニッツェルに加えて、更にスペシャリテがある。スペアリブだ。頼んでみたところ、脂身の少ない見事なバックリブ。一本ずつナイフで切り分けた後に手で食べる。甘いソースとやや甘みのあるウィーンビールはベストマッチであった。
ガイドブックにも載っていないため、観光客も少なく地元の年配のお客様が中心。落ち着いた店内でゆっくり美味しいものにありつけ、とても幸せなひとときであった。
ベルヴェデーレ宮のすぐそばなので、アート鑑賞や観光地巡りの合間に立ち寄ってみるのもいいかもしれない。