・呼吸を合わせて音楽を紡ぐ
先日、世界で活躍されているヴァイオリニストとお話する機会があった。
その方が「室内楽は楽しい、演奏していて一番楽しい、一番好き!」とおっしゃっていたのが印象的であった。サロン的な雰囲気かつ非公開で開催された室内楽演奏の後だったからかもしれない。が、やはり呼吸を合わせて、演奏するのが1番楽しいのだと言う。
オーケストラで演奏する時も、あれこれ言葉でコミュニケーションをとる指揮者より、演奏で掛け合いをしながら音楽を造っていく指揮者とやるほうが楽しい、と。ちなみに、そういった面で神がかっていたのはゲルギエフさんとペトレンコさんだそう。表情と指揮棒で全てを語るのだとか。そして、協奏曲のリハーサルの際、ソリストの自分はオーケストラのほうを向いて、奏者の皆さんと目を合わせながら音楽を造っていくそうです。
・指揮者が直前に指揮台から降りてしまう
そこで思い出したのが、秋にハンブルクで聴いたこちらのコンサート。NDRエルプフィルのシーズンオープニングコンサートでのラベルのボレロ。なんと指揮者のウルバンスキさんが指揮直前に指揮台から降りてしまう。
これは事件だなぁ。
— ごーふぁー 🇵🇱🇨🇿🇩🇪 (@juntaniguchi) September 1, 2018
18エルプフィルオープニングナイト、
実は難曲のボレロが最終曲。
最初の拍手の後に指揮者のウルバンスキさんは
スタスタ指揮台を降りて客席後方に着席、
静々と演奏を始めるNDRオケ。
指揮者なしでの結果は
オープニング夜にふさわしい大声援。
固唾飲む鳥肌ものの演奏であった。 pic.twitter.com/OhTvFVTvuo
当日の様子は動画でも公開されている。
観客の苦笑の中、始まるボレロ。数十人編成の室内楽(笑)。お互いの音を聴きながら、ソロリソロリと始まる。心なしか団員各々が首を振ったり皆さん自ら拍子をとっているようにも見える。
この動画では、
・1:57:00(-25:00)あたりからウルバンスキさんが指揮台を降りて、オケにボレロの演奏を任せ開始。
・2:16:00(-6:00)あたりからのアンコールでは指揮者付でクライマックスを再演(再演がこれがまた凄い演奏 )。
となっている。
・ボレロは難曲
なにせボレロと言えば、ベルリンフィルでもウィーンフィルでも事故があった作品、難所のトロンボーン事故が音源付でネットにあがったりもしている。難しいし各々がソリスト的に目立つのだから緊張感いっぱい。それを指揮者抜きで演奏し始めたのである。
それ故、あのゆったりテンポながら私は落ち着いて聴けない。ハラハラドキドキしながら舞台を見つめる。「皆さん、ご無事にフィニッシュを飾ってください」と心の中で祈りながら、前のめりに聴くボレロ。楽しむより、固唾を飲む。
そして、曲が終わると拍手喝采。オーケストラの皆さんも、皆で音を聞き合いながら室内楽を奏でるように造り上げたボレロは、さぞかし爽快であったろう。
ただ、実のところプログラム前半の演奏はいささか疑問だった。休み明けのためか、オーケストラはどうもピントがボケ気味。このホールではステージ後ろはライティング色が変えられる仕組みになっていて、ダフニスとクロエでは闇から始まり、次第にバックが赤に染まる。なんか派手だなぁ、と思いつつも雰囲気に呑まれ、演奏の傷はあまり気にならなかった。
しかし、プログラムラストのボレロは先の通り名演となった。指揮台を降りたウルバンスキさんの客席での様子を見ていたところ、拍子もとらず我慢しながら聞いていた(笑)、ただしラストは手を指揮するように振っており、ややヤバいと感じたのかもしれない(笑)。楽器の連なりがすべての曲だからバランスや縦の線が合わないと滅茶滅茶になる曲だから気になるのだろう。
アンコールはボレロの最終部分をウルバンスキさん指揮でもう一度。ややご不満だったのか、自分で指揮したくなったのか…(笑)