中部地方・愛知県は航空機産業に加えて、自動車産業、とりわけトヨタグループの一大拠点でもある。そのため、トヨタをはじめ、自動車関連の施設が数多く集積している。また、名古屋は港湾都市として栄え、面積としては日本最大の港である。その名古屋港の輸出貨物の半分以上を自動車関連品が占めており、日本一の完成自動車輸出港でもある。そうした背景からか、名古屋港には日本では珍しい本格的な海事博物館がある。
○ トヨタ産業技術記念館(TOYOTA Commemorative Museum of Industry and Technology)
○ トヨタ博物館(Toyota Automobile Museum)
○ トヨタ会館(Toyota Kaikan Exhibition Hall)
・豊田市美術館
○ 名古屋海洋博物館(Nagoya Maritime Museum)
・南極観測船ふじ
<参考記事>
航空産業のメッカ・中部地方の航空博物館
○ トヨタ産業技術記念館(TOYOTA Commemorative Museum of Industry and Technology)
織物の博物館は各国で見てきたが、ここまで本格的な博物施設は初めてである。繊維産業は長い歴史をもち洋の東西を問わず中世から産業の要であった。そのため、どの国にも製糸やファブリックについては丁寧な展示をしている博物施設が多い。

しかしながら、トヨタ産業技術記念館は更にその上を行く規模と内容であった。驚くことに、綿花から糸を紡ぐ過程や織機の使い方を目の前で丁寧に実演をしてくれるのだ。ファブリックが作られる工程の原理や構造を、初めて実感を伴って理解できた。また、自分で糸を紡ぐ体験は、その技量の難しさについても体感することができた。
そして、この糸の製造原理を身をもって知ると、現代最新の織機や生地についての優れた点や技術の真価を把握できるのである。


繊維機械館では、こうしてまずは手作業の実演を見学した後に、広大な展示ブースに設置された新旧の織機の数々を眺めることになる。あらかじめ工程を理解したうえで機械を見るため、なんとなくであるが機械の各部の働きを想像することができる。


しかし、更にこの博物館の凄いのは、各展示には説明スタッフが常駐しており、大型の織機を実際に動かしながら、織物ができる過程や技術の進化を実演を交えて解説してくれる。けたたましい音を立てて製品が次々と完成してくる様は圧巻そのものであった。

繊維機械館の隣は自動車館となっている。こちらも繊維機械館と同様に実演や製造過程がよく理解できる仕組みになっている。まずは、鋳造やプレスによる部品製造工程の実演を解説つきでみせてくれた。
実際に鋳造プロセスやプレス機械から部品が生まれるところを見るのは初めてのことなので、こちらも感動しながら学ばせてもらった。

そして、実演ブース以外の自動車展示の各所にも案内スタッフが配置されている。その彼女たちの話術の巧みさとホスピタリティーの素晴らしさは格別である。

また、展示ブースは元工場であっただけに広大で、工場のラインをそのまま移設したり、実車のカットモデルなども豊富にあり、展示手法もたいへんダイナミックである。


この工場のラインの展示では、初代トヨタ車の手作業中心だった当時の製造ラインもみることができる。そして、昨今の自動化され、人間の手作業のように滑らかに動くロボット製造ラインも思わず舌を巻きながら見入ってしまった。

○ トヨタ博物館(Toyota Automobile Museum)
1989年に開館した世界の名車を保存する日本屈指の自動車博物館である。

本館に入りエスカレーターを登り、一歩中に入ってのけぞってしまった。さすがトヨタである。各国の名車を一堂に集め、類を見ない規模でぴかぴかの車体が動態保存されている。

コンセプトは「100年にわたる自動車の歴史」であり、車種はトヨタに限らず19世紀末から各国の自動車が展示されており、国立の交通博物館のようである。

そして、動態保存であることを示すかのように展示車両の横には走行映像が放映されている。富士自動車のフジキャビンやメッサーシュミット KR200、BMW イセッタなど小型車展示までもが目をひく。




企画展示室ではなんとクルマだけでなく、国内4大メーカーから貸与されたオートバイも展示されていた。企画タイトルは「熱狂を生む技術者たち -’80~’90年代 日本のクルマとオートバイ-」、太っ腹なことに懐かしのカワサキ GPZなど二輪に加えて、他社のマツダ RX-7なども展示されていた。


企画趣旨は、若者を熱狂させた魅力あふれるクルマとオートバイに着目し、当時のメーカー技術者に光をあてたもの。彼らの恩恵にあやかった世代であり、未だにバイクに乗り続けている身としては、思わず時間を忘れて見入ってしまう企画であった。

続いては、クルマ文化館にある「クルマ文化資料室」である。こちらも興味あるテーマが目白押しで通常の車両博物館にはない魅力に富んでいる。

「1/43模型でつくる時間軸」では、国別に自動車誕生から今にいたる自動車模型を展示。

「昔の出版物に見る乗り物文化」では、世界初の自動車雑誌など1894年から2000年頃までの欧米と日本の自動車雑誌の展示。

「カーバッジ」では、多くの自動車メーカーブランドイメージを象徴するカーバッジの展示。

「カーマスコット」では、クルマを飾るアクセサリーは金属やラリックのガラス製など多種多様な展示。

そして、「自動車玩具・ゲーム」にはたくさんのスーパーカー消しゴムまでもが展示されていた。

こういった紙媒体を含めたクルマの付随資料を収集し、一般公開まで行っているのは流石と言える。
○ トヨタ会館(Toyota Kaikan Exhibition Hall)
1977年開設と、今回とりあげた3つの博物施設の中で最も古いトヨタの博物館である。場所はトヨタの企業城下町、その中心部であるトヨタ町に位置する。本社工場や技術本部など立派な建物に囲まれており、トヨタの本拠地に来た感が強い。

入場は無料であるが、展示はたいへん充実している。充実していると感じたのは、産業技術記念館よりもトヨタの製造へのこだわりが身近に感じられたからである。

塗装の仕方、ボンネットの凹みを探すゲームなど、同じ製造工程説明でも品質管理という視点から、自動車づくりをより身近に感じられる展示となっている。


そして、こちらの施設で魅力的に感じたのは、他のトヨタ施設ではみられないようなオリジナリティあふれるミュージアムグッズであった。他で入手できないものばかりで土産には最適である。


・豊田市美術館
MoMAや金沢の数々の名建築を設計した谷口吉生の手による機能と美しさを備えた美術館。トヨタ会館など豊田市に行くことがあれば、ぜひ立ち寄ってほしい美術館である。

館長による美術館設立趣旨
自動車産業の街として知られる豊田市にとってこの美術館は重要な意味を持っています。産業と文化はかけ離れたものではありません。経済活動だけが人間を生かしているのではなく、文化的な刺激は人びとにとって心を生かすためには欠かせないものです。その文化的な刺激の一つとして美術館が扱う美術というのはただ何か対象の再現をしているのではなく、作家が生きる環境の中から、また生きる時代の反映として自らが感じ、考えたことを色彩や形あるいは何かしらの素材を使って表してきたものです。
私は、「絵を見てもおなかはいっぱいにならないけれど、胸はいっぱいになることがある」という言葉が好きです。美術品を鑑賞する体験が来館されるみなさんにとって、心のどこかに糧として残り続けることを期待してやみません。
こちらの美術館を訪問すると、外観も内部もため息がでるほど建築美に満ちた美術館であった。



常設展はシーレ、クリムト、ベーコン、リヒターの大物作品が並び、それで入館料はたったの300円!



さらには子ども向けプログラムも充実しているようで、日本では久しぶりに子どもたちが床に座ってレクチャーを受ける姿を見かけた。たいへん良き美術館である。

市立としては信じられないほどの現代美術のコレクションであり、圧倒的であった。
○ 名古屋海洋博物館
1984年に開館した日本有数の海事博物館。現在は「日本一の国際貿易港から、港・船・海の世界を知る」をテーマに名古屋港の歴史の展示に加え、充実した帆船模型や海のシルクロードの交易品などにより、海と人々との関わりの歴史も紹介している。

名古屋港は水深が1メートルの遠浅の海であり、長らく大型船は接岸できずハシケ(小型船)を用いて、大型船から貨物を預かり陸揚げする手法をとっていた。このハシケでは船頭とその家族が寝泊まりしながら生活をしていたという。

名古屋港の築造工事は1896年から始まった。やはり大型船が着岸できぬのは不便この上ないからである。そのため、水深をとるために海底の土砂を大量に掘り出した。この時、一度に約2立方メートルの土砂をつかみ上げる「グラブバケット」が用いられた。

1907年(明治40年)に名古屋港が開港し、昭和初期の頃は大型船が接岸できる桟橋が整備され、鉄道も敷設され始めた。

そこから名古屋港は戦争をはさんで拡張に次ぐ拡張を重ね、今では日本一の港湾面積を誇る。

そして、中部地方には日本を代表する自動車産業が集積しているために輸出品種の半分以上を自動車関連品が締めている。また、完成自動車輸出は台数、金額ともに日本一でもある。完成自動車の積出基地は港内に4カ所もあり、なかでも新宝ふ頭には4万台も収容できるヤードがある。

完成自動車を運ぶ自動車専用船は、全長200m 高さ50mもある大きな船舶で、船内は13階建てで6000台近いクルマを積み込める。トヨタ会館にはこの自動車運搬船の模型が展示されていた。

このように他の海洋博物館では見られぬほど、港について詳細な説明があり、模型や実物資料も豊富で、たいへん興味深く名古屋港の歴史を俯瞰することができる。

このような名古屋港の歴史に加えて、模型による船舶史や貿易史などの展示もある。なぜか船舶の歴史や貿易史について日本ではこうした展示は少なく、名古屋海洋博物館は日本の海事博物館としては珍しく本格的な海事博物館(Maritime Museum)と言える。
貿易史では世界の海路や交易品の展示に加えて、海賊の歴史や壊血病の説明、香料の香りなどの展示などまであった。



さらに操船や港湾運搬のシミュレーターまで設置されている。

屋上は展望台となっており、名古屋港を一望できる。大人から子どもまで幅広く楽しめる施設になっている。

・南極観測船「ふじ」
名古屋海洋博物館のお隣には博物館船として南極観測船「ふじ」が停泊している。

「ふじ」は「宗谷」の後を継いで1965年から18年間、南極観測を支援してきた砕氷船である。「ふじ」がこれまで航行してきた、のべの航海距離は36万8000海里(約68万キロメートル)、毎年11月下旬に日本を出港し、約5か月に及ぶ航海を経て4月下旬に帰港する任務を18年間にわたり繰り返した。

船内展示も充実しており、砕氷のしくみなど動画解説もある。


また、各船室は中が見えるようになっており、お台場にある「宗谷」と比べると、船室も広くなり、「宗谷」から居住性が大きく改善されたことがよくわかる。


また、ベッドに落書きのように書かれている書き置きもそのまま展示してあり、なかなか面白い趣向である。

館内博物館では、初代の宗谷、ふじ、しらせ、現役しらせの歴代の南極観測船模型も見事であった。

そして、屋外にはタロとジロの銅像や雪上車などがあり、雪上車は中に入ることができる。





