(前回からの続き)2つの動物園が競いながら発展していったことは、前回詳しく触れた。今回は、ベルリン動物園(Zoologischer Garten Berlin)とティアパーク・ベルリン(Tierpark Berlin)、それぞれの特色と訪問記についてまとめてみた。
ベルリン動物園は旧西ベルリンの中心部近くにあった。そのため、動物園駅(ツォー駅、Zoologischer Garten)は中央駅・ターミナル駅としての役割を果たし、旧西ベルリンの玄関口でもあった。今でもクーダム(Kurfürstendamm)などの繁華街に近く、賑わいをみせる場所にある。
一方、旧東ベルリンに造られたティアパーク・ベルリンは、もともとフリードリヒスフェルデ宮殿の庭園だった場所に造られたため、やや郊外に位置する。観光客には足が向きにくい場所なので、周囲にも園内にも地元の人々が多い印象を受けた。周囲は、観光地とは少し違った、日常のベルリンを感じられる落ち着いた地域という印象をもった。
○ ベルリン動物園(Zoologischer Garten Berlin)
○ ティアパーク・ベルリン(Tierpark Berlin)
○ ベルリン動物園(Zoologischer Garten Berlin)
ベルリン動物園は1844年開園と歴史が古く、ドイツ最古の動物園である。以前からお気に入りの動物園で、今回は2回目の訪問である。しっかり見学したかったので、時間をたっぷりとって終日見物した。
幸い週末でもあったので、園内はかなりの賑わいであった。やはり土日の動物園は良い雰囲気である。子供がたくさんおり、親子連れやカップルも多い。そして、観光客だけでなく、移民と思われる家族も多く見かけた。人々を眺めていると、ベルリンという街を構成する人々の様子もよくわかる。こうして国や都市の様子まで感じ取れるので、どこの国に行っても、動物園では動物だけでなく人を見るのも楽しい。

ベルリン動物園は、動物像がたくさんあるのも特徴の一つと言える。ドイツでは園内で子供たちを比較的自由に遊ばせているからか、子供たちは動物像を見つけると、自ら駆け寄っていく。こうした動物像は、子供たちと動物との距離を縮めるのに一役買っているのだ。




また、この動物園のすごいところは、動物の立ち位置(高さ)を人間の目線に近づけていることにある。そのため、子供たちは時に動物を見上げることになり、大人もリアルに動物の大きさを感じることができる。これは現在の動物園における世界的な潮流でもあり、ベルリンでは早くからこうした「行動展示」を目指していたのである。

動物との距離も、できるかぎり近くなるよう工夫されており、臨場感を満喫できる。また、金網越しではなく、人間と動物の目線が近い位置にあることで、よりリアルに動物の大きさや動作を感じることができる。

今回の訪問では、ベルリン動物園が当時絶賛売り出し中だったカバの赤ちゃんもしっかり見ることができた。

訪れたのは雪も降るような寒い真冬であったが、動物たちは元気で、良い表情をしていた。きっと大切に飼育されているからだろうが、それにしても動物側のサービス精神が旺盛にも思えてしまう。



歴史ある動物園なので、史跡の説明パネルもいたるところに設置されている。枠の中から実際の建物などを眺めながら、縁にあるキャプションを読むしくみになっている。
その一つには、次のように書かれていた。
1872年、ドイツ皇帝ヴィルヘルム1世がオーストリア=ハンガリー皇帝フランツ・ヨーゼフ1世およびロシア皇帝アレクサンドル2世と共にベルリン動物園を馬車で巡った際、これら3人の君主は新築されたアンテロープ舎の姿に感嘆の声を上げました。
このムーア様式の獣舎は1943年11月に完全に破壊されましたが、1950年代に歴史的記録に基づいて再建されました。その後、動物たちにより広いスペースを確保するため、1980年代には屋外エリアが統合されました。

アンテロープ館は、ベルリン動物園に現存する最古の建物で、1872年に建てられた。内部では、動物園の歴史を紹介するパネル展示「動物園の物語」が行われている。

類人猿の飼育施設では、実際の餌を使った説明展示があり、これが秀逸でわかりやすい。こうした見せ方やプレゼンテーションのうまさからも、歴史ある世界有数の動物園ならではの工夫を感じる。


『東西ベルリン動物園大戦争』(ヤン・モーンハウプト著)には、ベルリンには動物愛好家どころか「動物フリーク」が多いと記されている。そうした人々も楽しめるよう、園内の随所に工夫が凝らされているのが、ベルリン動物園の特色である。
○ ティアパーク・ベルリン(Tierpark Berlin)
旧東ベルリンの動物園、ティアパークには、ベルリン動物園を訪問してから1日おいて出向いた。動物園は屋外を長く歩き続けることになるので、訪問の間に一日休みを入れたかったからである。それに、こちらは動物園の中でもかなり広いとも聞いていたからである。

しかし、聞いてはいたものの、「ここまで広いとは!」と思うほどの広さであった。動物にとっては天国だが、見物しようと思う人間にとっては苦行でしかない。ちなみに、ティアパーク・ベルリン(Tierpark Berlin)の広さは約160ヘクタールである。ベルリン動物園(Zoologischer Garten Berlin)は約33ヘクタールなので、実に5倍近い広さである。

この広さゆえに、園内には年間パスを利用してランニングする人や、散歩をしながら読書する高齢者もいる。深い森の中に動物舎や飼育施設が点在する感じで、都会の中にこれほど広大な空間を確保しているところには、社会主義時代の名残も感じる。

ベルリンが東西に分かれていた時代、ティアパークの園長ダーテは、開園式の際、政府の意向に逆らって西ベルリンの動物園長カタリーナ・ハインロートを式典に招いている。「彼女が参加しないのなら、自分も出席しない」と政府に迫ってまで招待したというのだから驚きである。
真っ向からライバル視するのは、お互いにとって得策ではなかったのであろう。ダーテは、西側にも気を遣ったのだと思われる。しかし、それ以上に、これまでのいきさつから、ダーテはハインロートに一目置いていたのであろう。やはり、戦中・戦後の動物園運営の苦労を分かち合ってきた仲という思いも、十二分にあったのではないかと想像してしまう。
ダーテはティアパーク開園のずっと前から新しいビジョンを温めており、着任早々、それを実現しようと動き始めた。彼の動物園哲学は、「動物園は専門家のためではなく、入園者のために建設する」というものである。そこで、大型動物の群れを飼育できる広々とした飼育場を備えた、大規模な動物園をつくろうというのが彼のビジョンであった。
そのため、ティアパークの候補地となっていたフォン・トレスコウ=フリードリヒスフェルデ家の広大な敷地には、とりわけ興味を示した。実際、園内の一角には一族の墓地が残っている。本の解説には上野動物園内にも、同様に江戸時代の武家一族の墓があるとのことだ。

このようなダーテの発想に基づいてつくられたティアパークは、1955年に東ベルリンで開園すると大成功を収めた。ティアパーク開園の余波を受け、西ベルリンのベルリン動物園は入場者を8万5,000人も減らしてしまう。
さらには、東ドイツ肝いりのティアパークによる広告宣伝も、これに拍車をかけた。ベルリン動物園の目の前にあるツォー駅には、幅12メートルもの大きなティアパークの宣伝垂れ幕が掲げられたのだ。
1956年に就任したベルリン動物園園長クレースは、この垂れ幕を苦々しい思いで見ながらも、手を出すことができなかった。なぜなら、ベルリンの駅はすべて東ドイツのドイツ国営鉄道の管轄下にあり、抗議することすらできなかったからである。
こんな宣伝が効いたのか、西ベルリン市民も大勢ティアパークを訪れ、その数は東ベルリンの人々が困惑するほどであった。1958年のティアパークの入園者は170万人で、なんとベルリン動物園よりも20万人も多かったのだ。
1965年には、大型ネコ科動物、鳥類、両生・爬虫類のための新しい飼育舎、フレート・ブレーム・ハウスが完成した。この建物は当時世界最大の飼育舎で、それまで改造した貨車で飼育していた猛獣たちを移すために造られた。また、高さは18メートルもあり、内部では鳥が自由に飛び回れるようになっている。現在では歴史的建造物にも指定されている。


ちなみに、フレート・ブレーム・ハウスが完成する半年前には、西ベルリンでも新しい鳥舎が完成しており、こちらでも鳥が自由に飛び回れるようになっていた。奇しくも東ベルリンの新しい飼育舎は、こちらへの意趣返しのような形になってしまった。
こうした大きな施設があるにはあるのだが、基本的にティアパークは、動物がどこにいるのかわからないほど広い。サファリパークの中を徒歩で歩いているような気分になる。
しかも、園内に点在する檻や柵の中も広すぎて、動物が観客から見える位置になかなか出てこないのである。静かで動きのない柵の中をしばらく眺め、動物がひょっこり現れるのを待つこともしばしばであった。

ティアパークは、この広さと点在する動物舎を考えると、散歩がてら何回かに分けて通うべき動物園なのかもしれないと感じた。ダーテが思い描いたように、広々とした園内では、動物たちだけでなく人間もゆったりと時間を過ごすことができるからである。

そして、動物が見られなくても、歴史ある建物があり、最近ではあまり見かけなくなった歴史的な円形ゲージなど、檻にすら風合いや郷愁を感じる。そのため、散歩をしていてもけっして飽きることはない。


そして、広々とした柵の中で自然体で過ごす動物たちを眺めるのも一興で、ここならではの利点もたくさんある。猛禽類がいる檻の中に入れるのは、この動物園が初めてであった。オドオドしながら檻の中を巡るのも、なかなか得難い体験であった。小熊が動き回る姿を待つのも、わくわくさせられる体験である。また、動物たちもベルリン動物園より幾分リラックスしているように見受けられる。




深い森の中を歩きに歩いて動物に出会う。これを繰り返していると、あたかも探検をしているかのような気分になる。このような思い出が醸成されるのは、この動物園くらいではないだろうか。これこそが、他とは違うティアパークの特色なのだと思う。
地元の人々から愛されているティアパークも、今や観光客からは忘れられた存在なのかもしれない。ただ、古き良きベルリンを感じられる絶好のスポットであり、ベルリンで1日余裕があるならば、訪れる価値があると思う。
そして、動物にとっては、社会主義圏と自由主義圏のどちらが幸せだったのだろうか――そんなことに思いを馳せるのもよかろう。
(次回に続く)



