前回からの続き。フォックス・グレイシャー村を発ち、今日の目的地はグレイマウスという西海岸最大の港街。途中のハリハリ(Harihari)という小さな村で複葉機の原寸モデルを見かける。飛行機前の解説を読むと暴風で有名なタスマン海を単独横断した猛者がいると言う。これがガイ・メンジーズ(Guy Menzies)というオーストラリア人、その愛機のレプリカが道の脇に展示されていた。過酷な自然と複葉機では予定地着陸もままならず、この村に不時着したらしい。ひょんなことで、なかなか面白い逸話に出会うことができた。
そして、海岸沿いを走りに、翡翠の街のホキティカ(Hokitika)に立ち寄り、グレイマウスという夕焼けの似合う街で美味しい地ビール Monteith’s をいただく。
● ロッジオーナーのお手製朝食
● ハリハリ(Harihari)で複葉機の展示を見かける
● 翡翠の街のホキティカ(Hokitika)を散歩
● グレイマウス(Greymouth)でゆったり
Fox Glacier→Hokitika→Greymouth 219km
● ロッジオーナーのお手製朝食
ロッジ「Misty Peaks」の朝食はオーナーのDaveさんのお手製、しかもお好みのアレンジをしてくださる。英国スタイルっぽく、トマトとマッシュルームに火を通してもらった。そちらを平らげ、氷河を巡るヘリコプターツアーに向かう為に、ロッジを後にする。
たった、一泊というのがもったいないくらい良い環境と居心地の良いロッジであった。
ヘリコプターによる氷河ツアー(別掲載予定)を終え、再びオートバイにまたがり、好天の下、海岸をひた走る。西海岸のツーリングは山中と異なり海風が心地よい。特に午前中の晴れ渡った爽やかな風は格別である。
● ハリハリ(Harihari)で、初の単独タスマン海横断飛行に成功した ガイ・メンジーズ(Guy Menzies)複葉機を見る
通りすがりの小さな街に航空機が展示されているのが目に入った。なんだろうとバイクを停めて展示を見に行く。
説明書きを読むと、オーストラリア人のガイ・メンジーズ(Guy Menzies)という21歳の若者が初の単独タスマン海横断飛行に成功したという。その時に機体のレプリカのようだ。
そのメンジーズだが、南島の北端のブレナム(Blenheim)に着陸する予定だったが、悪天候のために西海岸に着陸することを余儀なくされたらしい。そして、ここハリ・ハリのそばの亜麻が生える沼地に不時着した。
ガイ・メンジーズ(Guy Menzies)はオーストラリア出身の1909年生まれ。10代の頃はシドニーのスピードトラックでオートバイに夢中だったが、事故をきっかけに空を飛ぶことに転向する。
そして、パイロットの免許を取得しタスマン海を横断することを決意したメンジースは、複葉機アブロ・アブラン(Avro Avian)を購入する。これを改造し、燃料タンクを追加、機体の耐久性を高めたが、タスマン海の横断を当局から許可されなかった。そこで、彼は一計を案じる。計画を内緒にしシドニー~パースの飛行を予定していると虚偽の申請をするのだ。そして、1931年1月7日シドニーのマスコット飛行場を離陸し、西ではなく東に向かった。
メンジースはすぐに西風の嵐に襲われた。このタスマン海は「吠える40度」と言われる暴風地帯でもある。風を避け雲の上を飛ぼうとするも、あまりに寒い。仕方なく低空飛行を余儀なくされ、海面にも衝突しそうになる。操縦の助けとしては高度計と旋回傾斜計しかなく、盲目飛行さながらなのだからかなり無茶である。しかし、遂に11時間45分の飛行の末に、なんとかニュージーランド南島の西海岸に到着する。しかし、牧草地と思って着陸をしようとするも、実はそこは湿地帯であり、飛行機は転倒してしまうが、本人は無事。ハリ・ハリの農家の人々には大歓迎されたと言う。
メンジースは英雄となり、その後は操縦技術を買われ、英国空軍に入隊する。しかし、1940年11月1日にシチリア島沖で撃墜されて亡くなる。
飛行機好きとしては、唐突ながらひとつ勉強になった。メンジーズの飛行機の前で朝食のサンドイッチをいただき、再び出発。
● 翡翠の街のホキティカ(Hokitika)を散歩
翡翠工芸で有名なホキティカ(Hokitika)という町に立ち寄ると、ラウンドアバウトの中央に立つ時計塔がまずは出迎えてくれる。この時計塔は1903年に建てられたらしいから、相応に古い町だ。人口も4000人ほどあるようなので、西海岸では大きな街の部類になる。かつてはゴールドラッシュで賑わったらしい。
碁盤の目のように整然と形造られた町で小綺麗である。散歩していると、大きめの劇場なんかもあり、商店街も大きい。しかし、多くは翡翠のお土産物屋である。
街中に、ひときわ目立つビルがあり、調べて見るとカーネギー・ビルディング(Carnegie Building / Hokitika Museum)と言う。鉄鋼王でニューヨークのカーネギーホールを建てたアンドリュー・カーネギーがニュージーランドに図書館を寄贈した。その中のひとつがこちらで、1908年に建てられた、今は博物館として活用されている。
● グレイマウス(Greymouth)でゆったり
西海岸最大の街グレイマウス(Greymouth)に近づくと面白い道路標識があった。ラウンドアバウトに鉄道の線路がかぶさっている。実際に通ってみると標識の通り、鉄道が道路の輪を突き刺すように走っていた。
西海岸は雨量が多いから川も多い、昨日に続き今日も多くの1車線の橋を渡った。ただ、次の橋は更にすごい、一車線の上に鉄道もひとつの橋を共有する。鉄道が走っているところは、旅の最中1度も見かけなかったので、鉄道と出会い頭になることなどないのだろう。
グレイマウスの人口は8000人ほど、しかしとても大きな街に見える。西海岸の中心都市であり、トランツアルパイン鉄道で東海岸のクライストチャーチと直接結ばれている要所だからだろう。それ故に周辺人口が多いから、大きな街に見えるのだと思われる。実際に街中を歩いてみると街は大きいが人影は少ない印象だ。
街に入ると地図を頼りに地ビールのモンティース(Monteith’s)の醸造所へ 行ってみた。西海岸のビールブランドでニュージーランドでは度々目にするブランドだ。工場見学は時間外だったが外から、壁画含めて綺麗な工場建物を眺める。
そして、グレイマウスの街の先にある海に出てみた。こういう時はオートバイがあると便利だ。ふらふらと街の外周部を周遊して、なんとなく地理感を頭に入れられる。海ではボディーボードをしている方が数名。さすがタスマン海、波はけっこう荒い。
その後はスーパーをいくつかまわってみる。果物の中でもリンゴが多くあるのは英国文化の影響だろうか。ニュージーランドは果物も豊富にあり、実際美味しい。
ホテルはテ・アナウで良かったキングスゲート ホテル にした。同じ系列でも キングスゲート ホテル グレイマス(Kingsgate Hotel Greymouth)のほうはビジネスホテルのような感じでしっかりめでお得感があった。
ホテルの目の前は大きな堤防がある。グレイマウスは降雨量が多く、かつては水害がよく発生したらしい。その為、近くに流れるグレー川に沿って長い堤防があり、そこが散歩道にもなっている。
夕食は定食屋のような店で、ダニーデンの Speight’s とオークランド Steinlager を飲みながら夕食をいただく。ラム肉とヒラメのムニエルを頼んだが、見た目はともかく味はよい。野菜も茹ですぎず美味しい。ニュージーランドの料理は盛りつけに難があるが、素材も恵まれているし、調理も悪くないと感じる。
そして、地元の蒸留所 Monteith’sが経営するパブへはしご酒。
もちろん ここでは Monteith’s を2種いただいた。ひとつは店員のお勧めでレモン味のフルーティな一杯を。パブのスタッフのお勧めに従うのも会話が弾んで一興である。
ニュージーランドのビールがここまで旨いとは思わなかった。この国は地ビールの種類が豊富で、英国同様にエールビールの品ぞろえも素晴らしい。国の随所に醸造所があるせいか、小さな都市にも地元の醸造所直営のパブがあり、サーバーから注がれる新鮮なビールがかぐわしい。そして、パブの常連客は長っ尻で奥に固まっている、そのお客たちからも陽気に声をかけられるのもニュージーランドならでは。
ほろ酔い気分で夕闇濃い中、ホテルに帰る。
(次回に続く)