日本初の回顧展として評判のメスキータ展と秘められた東京駅の建造物語

メスキータ Samuel Jessurun de Mesquita@東京ステーションギャラリー
東京駅に位置する東京ステーションギャラリーにおいて、第一次大戦前後を中心に活躍したオランダのアーティスト、メスキータの版画を見てきた。そして、東京ステーションギャラリーには、予想外にかつての東京駅の遺跡が豊富に展示され、こちらもたいそう見応えがあった。

・メスキータ(Samuel Jessurun de Mesquita)展について

サミュエル・イェスルン・デ・メスキータ(1868-1944)。オランダの画家、版画家、デザイナー。美術学校の教師としてM. C. エッシャーを指導し、彼からも慕われていた。表現主義の時代、つまりムンク(1863年ー1944年)やキルヒナー(1880年ー1938年)とかぶっている時代に活躍。今回の展覧会の売り文句は「エッシャーが命懸けで守った男」。メスキータはユダヤ人であり終戦間近に強制収容所で亡くなっている。この時アトリエに残された作品をエッシャーや息子たちが命懸けで保管したらしい。

東京ステーションギャラリーエントランス@丸の内北口改札前

・メスキータ の見どころは描かれる線

メスキータの作品を眺めていて、木版画やエッチングによる線の表現力に魅了された。
例えば「裸婦-1914」では、白の線の太さで光量を表現し立体感を出す。絵画手法ではモデリングというらしいが、人間の身体が筒のように立体感をもって描かれる。版画の線1本1本で構成されるその描写と立体感ある様にこちらも目を細める。
一方、「アダムとエヴァ-1911」では、これとは対照的に細い一筋の線で描かれている。それにも関わらず、なんとも肉感的な表現となっており、こちらはこちらで見とれてしまう。

・版画の対象をとりまく装飾や構図の取り方も面白い

「アヤメ-1920」では、リズミカルな装飾の線をたくさん加え、描かれるのは植物なのに躍動感が出て「生き生きさ」が増す。
また、彼は対象の背後などを描かない、つまり背景がない作品が多い。その為、枠組み(額縁のように絵を取り囲む)を自由に設定する。四角の枠とはかぎらないので、その枠組みよっても版画に動きや息吹が生まれるのが面白い。

ギャラリー出口付近の撮影ブース@東京ステーションギャラリー

・あの手この手の表現の技法手法が滅法面白い、そして動物の版画たち

展覧会を俯瞰して見ると、2階のレンガ壁を背景にした動物版画ルームが楽しい。アルティス動物園(アムステルダム動物園)の動物たちの版画が目白押し。それらモノクロの動物たちが赤レンガをバックに映えるのだ。
ここでも版画のラインが見事で目を奪われる。描かれる線が象の皺だったり、鹿の毛だったり、動物に描かれるラインの意味が変化自在で、まるで描かれたラインが生きているかのようだ。また「ウォーターバック-1921」では、塗りつぶされた深黒を背景に、数百程度の細かな線で動物が構成されておりデザイン的にも見応えある。「バイソン-1917」はホンモノのバイソンの趣とは異なり、とてもユーモラスなのが印象的だった。

・そして、この動物版画シリーズの白眉が「シマウマ-1918」

「シマウマっていうのは生きている木版だ。そのシマウマをもう一度木版にすることは自制しなくちゃいけない」とエッシャーはメスキータ本人から聞いていたらしい。後日、メスキータ自身が描いたシマウマの木版を見たエッシャーはとても驚いた(笑)。
でもでも、である。版画を見ると、そのシマウマの縞模様のラインがとても優しいのである、これがまた。草を食むシマウマが柔らかく見えて、けっしてモノクロの切り絵のようなシンプルな白黒ラインではない。

そこで、以前読んだ書籍「悪魔の布-縞模様の歴史 ミシェル パストゥロー著」に関するツィートを思い出した。

・東京ステーションギャラリーは、展覧会のキャプションが良い

ところで、シマウマの解説もそうだが、こちらの展覧会のキャプションが素晴らしい。通常知り得ぬ技術的な解説や事実表示が中心で、作画の妙な解釈や読み解きを極力排除する姿勢が嬉しい。展覧会の宣伝手法においてこそ「エッシャーが命懸けで守った男」なんてフレーズをつけているが、実際ユダヤ人として不幸な結末を迎えたことにひっかけるような読み解きや文章を展示会場では一切見かけなかった。

扉にも一工夫@東京ステーションギャラリー

・東京ステーションギャラリー の見どころはもう一つあって、建造物としての東京駅も凄い

東京ステーションギャラリーは東京駅舎にあるので、中は東京駅そのもの。八角形の周り階段やむき出しのH形鋼に赤レンガ、シャンデリアなどなど遺跡的な見どころがたくさん。

八角形の周り階段@東京ステーションギャラリー
シャンデリア@八角形の周り階段上方
赤レンガ壁にむき出しのH形鋼@八角形の周り階段横

更に東京駅建造史の展示物がギャラリー出口付近にあって、模型など含め力が入っている。そして、この建造史を眺めて初めて知ったことも多い。
当初の東京駅はお抱え外国人の設計家バルツァーが日本建築を研究し、なんと和風建築を提案したらしい。しかしながら、時の風潮からこれを却下し、施設の配置案のみを採用することになる。それをイギリス留学帰りの辰野金吾が引き継ぎ、現在の赤レンガの形になった。また、1945年の東京大空襲で屋根を中心に大被害を被った結果、戦後まもなく元の3階建てを2階建てに改め、突貫工事で修復した。それで4,5年しのぐつもりだったが、結局その後60年間そのままの姿で使い続けることになる。

屋根を支えるトラスの一部が展示されているが、短い木材を金具で接合した(新興木構造)とある。戦中、戦後は木材の入手が困難だったのでこのような構造をとったらしい。

新興木構造によるトラスの一部 @東京ステーションギャラリー

東京駅周辺変遷のジオラマ、東京駅の変遷の建物模型なども豊富にあり。かつて使用された部材などの展示もある。ドームの回廊を支える三角形のブラケットには満月から新月へ徐々に満ち欠けがデザインされているらしい。解体工事の際にこれのオリジナルが発見され今は復元にいたったと言う。東京駅はこうしたギミックたっぷりの建築だったりもする。

月のブラケット@東京ステーションギャラリー

アクセスは丸の内北口改札であり、便利この上ない。好みの展覧会の際に東京駅の歴史見物を兼ねてお勧めの美術館である。

縞模様の歴史 ミシェル パストゥロー著

<詳細情報>
東京ステーションギャラリー
東京都千代田区丸の内1-9-1

東京都千代田区 東京ステーションギャラリー

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