シャルトルの青色で有名なステンドグラスの中には、中世の様々な職業が描かれたものがある。その中にはワイン製造にかかわるものもあり、当時連載していた「お酒と旅」をテーマにしたエッセイの話題にちょうどよかったので、単眼鏡持参でステンドグラスも1枚1枚見入った。厳かな礼拝堂の中で職人たちの働く図柄を見るのは不思議な体験で楽しく、どこか夢見心地であった。
そして、この素敵なステンドグラスを守った一人の兵士の物語がある。
● シャルトルを守った兵士とその報酬
● モニュメンツ・マンの活躍する映画と書籍 『ミケランジェロ・プロジェクト』
● シャルトルを守った兵士とその報酬
ヒトラーによるパリの破壊指令(映画「パリは燃えているか」の題材)ほど着目されないが、このシャルトルの大聖堂も敗退するドイツ軍に爆破されかけた。その爆弾を解除したのが連合軍の美術品を守る特殊部隊モニュメンツ・メン。彼らの活躍は『ミケランジェロ・プロジェクト』というタイトルで映画化もされている。この爆弾処理班の1人の台詞がふるっている「爆弾処理班にいて、いいことが1つある。どんな上級将校も肩越しに自分を見たりしない」。爆弾処理班の危険な仕事を自嘲気味に語った言葉である。
シャルトルの大聖堂に仕掛けられた爆弾を前に、爆弾処理班の彼は「美術が人の命よりも価値があるのだろうか」と逡巡しながらの作業。そして、爆弾解除に成功した彼には相応の報酬があったと独白する。
「処理し終えた時、俺はシャルトルの大聖堂の中に座った。救うのに俺が手を貸した大聖堂に、一時間ほど、独りで」
神様が与えた最高のご褒美。大仕事を終え、独りで青に染まるこの広大な礼拝堂をたたずむ心地とは、どんなものだったのであろうか。
● モニュメンツ・マンの活躍する映画と書籍 『ミケランジェロ・プロジェクト』
このモニュメンツ・マンたちは軍服こそ着ているが美術史研究家集団なので、戦争のプロではない。にもかかわらず、激戦下で自分たちを含めた「兵士の命」と「美術品を守る使命」の天秤勘定に何度も遭遇する。当然ながら戦を優先したがる指揮官達と交渉を重ね、可能な限り美術品や建築などを保護してまわるのだ、弾丸や砲弾が飛び交う最中に。そんな訳だから、この書籍には話題がたくさんで飽きさせない。
映画『ミケランジェロ・プロジェクト』でマット・デイモンが演じる役柄の人は後のメトロポリタン美術館の館長。映画ではかなりコミカルに描かれているが、本物の戦争で揉まれただけあって、かなり手強い人で怖い人だったようだ。メトロポリタン美術館の館長時代もタフな運営で強引に世界中から美術品を集めた人物、終戦後は略奪する側となった(笑)。映画もよかったけれど、内容も大いに異なる原作は更にお勧めである。
そして、世界一美しいシャルトルのステンドグラスを見る眼差しをもっと深めてくれる。