芳醇な都市ウィーンの文化を堪能する 2 / 「感動の仲介者」チケット手配に携わる日本人女性に会う

芳醇な都市ウィーンの文化を堪能する 2 / 「感動の仲介者」チケット手配に携わる日本人女性に会う

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世界に冠たる音楽都市 ウィーンにおけるウィーン フィルの演奏会チケットはとにかく入手しづらい。その人気チケットを一般の人も手に入れられるよう奮闘している現地在住の日本人女性たちがいる。
久々にウィーンを訪問したきっかけは、以前から熱望していた演奏会のチケットが手に入ったことだった。ウィーン歌劇場の特別公演と、ウィーン フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会である。後者は、同楽団の本拠地 ムジークフェライン(ウィーン楽友協会)の大ホール(黄金ホール)にて行われる。
2つとも非常に入手が困難なチケットであり、なんとか手に入る算段がついた時には天にも昇る気持ちであった。長年の想いと夢がかなうことになったからである。

定期会員の権利はほぼ世襲、おこぼれに預かる一般聴衆
チケットサイトの不安
チケットサイトで閉口していた際に出会った会社
初心者にはバレエ観賞がお勧め、そしてウィーン以外の見どころも

● 定期会員の権利はほぼ世襲、おこぼれに預かる一般聴衆

ウィーンの音楽関係のチケット入手は、他国のそれよりも大変である。世界に冠たる音楽都市であり、好事家たちが世界中から音楽を聴きに集まってくる。そのため、人気の公演はオペラでもコンサートでも、すぐにソールドアウト。ウィーン・フィル定期公演にいたっては、特殊な事情からチケット流通が他のコンサートとは全く別の流れになっており、とりわけチケットが入手しづらい事情がある。

著名な奏者名が並ぶムジークフェライン(楽友協会)の外看板 @Musikverein Wien
著名な奏者名が並ぶムジークフェライン(楽友協会)の外看板 @Musikverein Wien

特殊な事情とは、定期会員の存在にある。チケットはまず彼らに当てられる。公開販売チケットはなく、一般にはチケットが出回らないのだ。しかも定期会員の権利はほぼ世襲されていて、会員になるにも10年から13年は待つという。

そこで、一般聴衆は定期会員のチケットのおこぼれに預かることになる。定期会員の中でコンサートを欠席する人が出ると、そのチケットが一般に売り出されるのだ。

夜のムジークフェライン(楽友協会)、その向こうはカールス教会 @Musikverein Wien
夜のムジークフェライン(楽友協会)、その向こうはカールス教会 @Musikverein Wien

定期会員には、お年寄りが多いので、毎回決まった席がキャンセルになることが多いらしい。また、定期公演は回数も少なくないし、同じ顔ぶれの指揮者が続いたりもするので、とりわけ年配の定期会員は度々キャンセルするのであろう。そのため、チケットは相応に流通しているようだ。ただ困るのは、いつ、どの席にキャンセルが出るかわからない点である。席によってチケット価格も異なる上に、チケット代金ですらキャンセルが出るまでわからないという案配である。

さらに、入手の困難さに拍車をかけているのが会場の座席数。定期公演が行われるムジークフェライン(楽友協会)ホールの座席数は立ち見を除けば1700席余り、昨今のホールで2000席を切るところはなかなかない。ウィーン・フィルという人気の楽団の本拠地にしてはあまりにも座席数が少ないのだ。

ムジークフェラインの舞台も広いとは言えない @Musikverein Wien
ムジークフェラインの舞台も広いとは言えない @Musikverein Wien

そのため、毎年元旦に開催されるニューイヤーコンサートは、とてつもない金額で取引されているらしい。全世界に放送される上に、大々的に客席も映るのだから、聴きに行くこと自体がある種のステイタスになっている。しかもこのコンサートにかぎって日本人比率が異様に高い。入手競争がどんどん激しくなり、価格が高騰しがちなのは、お金に糸目をつけない日本人のせいかもしれない。

ただし、チケットが超高額なのはテレビ中継がなされる元日だけの話。その前日・大みそかのジルベスターコンサートは同演目でありながら比較的安価なようで、さらにその前日はもっとお手頃価格だと言う。無理をすれば学生でも購入できるくらいの価格と聞いた。いつかはこちらの日程を狙って本場のウインナ・ワルツを満喫してみたい。

● チケットサイトの不安

こんな具合のウィーン・フィルのチケット状況だが、オペラでも人気の公演は同様にチケットがとりにくい。日本の旅行代理店がホテル代込みで販売しているチケットは法外な金額なので、私のような者はおのずと海外のチケット販売サイトを利用することになる。

ムジークフェライン(楽友協会)の入り口。くぐる度に胸が高鳴る @Musikverein Wien
ムジークフェライン(楽友協会)の入り口。くぐる度に胸が高鳴る @Musikverein Wien

昨今、フランスを除けば日本語表示対応のサイトも多い。原語表示でも決済段階のみ翻訳サイトを駆使することで、ドイツ語であろうとフランス語であろうと安心して利用できる。なぜ決済段階で注意が必要かと言えば、チケットの受け取り方法の確認があるからだ。
会場での受け取りか、自宅にてプリントして持参するか、日本までチケットの現物を発送してもらうかなどを選択できる場合が多く、ここだけは間違えたくはない。また、さりげなくデフォルトの設定では寄附を募る楽団やホールもあるので、そんなところにも注意したい(笑)。以上が決済の時に注意すべきことであろうか。

ただ、チケット手配サイトは便利ではあるが、早々に代金をカード決済しておきながら、その後のレスポンスが悪かったり、ひどいケースでは手元にチケットがないのに売り出しをしていたりするサイトもある。また、キャンセルに手間取ったりするので、なるべくなら一社信用できそうな会社に依頼したいところだ。

● チケットサイトに閉口していた際に出会ったウィーンの会社

今回、チケットサイトで悩んでいた際に出会ったのが、オテロチケットオフィス/フランツ・イェルザ有限会社(https://www.otello.at/ja) という会社である。

当然手数料はかかるが、リーズナブルである上に、ダフ屋ではなく正規の代理購入方式でチケットを確保している会社なので、非常に安心できた。また、公演間際でなければ、よほどの特別な公演以外は、ほぼ確実にウィーンでの公演チケットが入手できるそうだ。その上、購入料金の上限を決めているので、大きな心配もない。上限金額もウィーン・フィルの来日公演に比べればずいぶんと安価だ。

やりとりをする中でチケットの販売方法や会社に興味が湧いたので、ウィーンを訪問した際、同社の日本人部署の担当Sulzer(スルツァー)友紀子さんにお会いし、いろいろとお話を聞いた。

夜のウィーン国立歌劇場 @Wiener Staatsoper
夜のウィーン国立歌劇場 @Wiener Staatsoper

一児の母でもあるスルツァーさんは、日本のメーカーで働いていたオーストリア出身のご主人と知り合い、そのまま国際結婚。1986年、言葉もままならないままウィーンに渡られたとのこと。異国での子育てはさぞかし大変だったご様子である。ただ「高校までは教科書代だけなので、欧米での子育ては学費がかからないのよ」と朗らかに話す様子が印象的であった。

子育てが一段落したところで、2003年に日本人向けのチケット手配のビジネスをウィーン在住の日本人女性と共に始められたスルツァーさん。旅行業の経験はあったけれど、現地でのネットワークが全くないのだから、すべてが新規開拓であり、運営も手探り状態だった。にもかからず、この13年間、チケット紛失などのトラブルが一度もないというのだから驚きだ。

聞けば、運営方法も人柄を表しており、とても堅実だ。特にチケットの受け渡しについては安心・安全な方法で確実に顧客の手元に届くよう、細心の注意を払っているという。郵送や現地窓口のほか、顧客が宿泊するホテルに直接チケットを届けたうえでそのホテルのスタッフから手渡しする方法などを採用している。チケットというのは金券であり、それこそたった一枚の紙切れが数万円の価値を持つ場合もあるという認識からだ。

例外はドイツで催される「バイロイト音楽祭」とチェコのプラハにおけるチケット。現地に親しい知人がいるので、その方に協力してもらっているとのこと。実際、プラチナチケットを求める顧客から頼られ、ウィーン以外のチケット手配も増えているのだろう。ただ、顧客の中には、こちらの2人を他人に紹介するとチケット入手の競争率が高まるので、宣伝をしたがらないケースも多いようだ(笑)。

● 初心者にはバレエ観賞がお勧め、そしてウィーン以外の見どころも

さまざまなご苦労の上に成り立っているビジネスであるが、リピーター客が多く顧客に涙ながらにお礼を言われたり、感謝されたりすることが多々あり、その時は最高に幸せだと言う。今回、私も半ばあきらめかけていた公演のチケットが入手できたときは涙が出るほどうれしかった。

「せっかくのウィーンでのコンサート。ゆっくり、肌で聴いてほしい」と彼女は言う。また、クラシック初心者の方にはバレエがお勧めだそうだ。美しい音楽とバレエダンスは、セリフがないからこそ親しみやすく、音楽を肌で感じることができる。スルツァーさんたちの顧客の中には、初めてのバレエに鳥肌がたち、以降ファンになってしまった方もいるらしい。

ウィーン国立歌劇場でのバレエ公演 @Wiener Staatsoper
ウィーン国立歌劇場でのバレエ公演 @Wiener Staatsoper

また、「日本人旅行者は次々と移動して、スケジュールを詰め込みすぎなのが残念。せっかく来たのだからゆったりと(ウィーンだけでなく)オーストリアを堪能してほしい」とスルツァーさん。ヴァッハウ渓谷やメルク修道院など、ウィーン以外の見どころもたくさん教えていただいた。欧州は6、7、8月が一番よい時期。夜の10時まで日が暮れないので、景色を存分に謳歌できるとのことだ。

そういえば、今回の旅で知り合ったウィーン・フィルの楽団員の方も同じことを言っていた。「ウィーンからザルツブルクまでの道程は素晴らしい景色が続く。ドライブをしながらオーストリアを味わってほしい」と。次回はぜひ、オートバイでオーストリアを堪能したい。

<各日の演目詳細>

・ ウィーン国立歌劇場(Wiener Staatsope)

この時の訪問は四半世紀ぶりであり、目玉のグルベローヴァのリサイタルにオペラとバレエと3公演を観賞した。まず客席に着くと25年前の音が耳に蘇ってきた。そうそうこの音この響き。ウィーン国立歌劇場の音響は豊かである。人によっては柔らかい天井からの音に大味な印象を受けるかもしれないが、楽団の芳香豊かな音からするとこれはこれでよい効果とも思う。

四半世紀前の公演 @Wiener Staatsope
四半世紀前の公演 @Wiener Staatsope

また、以前はあまり関心がなく意識していなかったが、よく見ると内部装飾もユーゲントシュティールっぽくもあり、全体的にシンプルにまとめていて素敵である。エントランス付近の戦災を逃れた部分を除くと、外見とは裏腹に内装は決して華美でも壮麗でもなく、どちらかと言えば東欧圏の社会主義建築の内装に近い印象を受けた。

その昔聴いていた天井桟敷席を再訪 @Wiener Staatsope
その昔聴いていた天井桟敷席を再訪 @Wiener Staatsope

・トスカ@ウィーン国立歌劇場

オーケストラはさすが上手だし、ドラマティックな演目だと意外とバリバリ鳴らすのだなぁ、といささか予想外。歌手はとトスカもカバラドッシもよかったが、Ambrogio Maestriさんのスカルピアが絶品であった。もう意地悪くそ爺っぷりが上手で、威圧感ある歌い方も見事にはまっている。
一方、セットが古くさくて、演出がベタすぎるのが、かなりマイナス。例えば、最後トスカが飛び降りて幕、という流れは演出のテンポも悪く、飛び降りるセットが不出来なのか、なにか思い切りに欠ける飛び降り方で興ざめしてしまった。あの激情を表現すのに、膝をまげながら飛び降りる感じでは、いただけない。しかし、一流の伴奏に支えられてのプッチーニの大好きな作品、非常に楽しめた。

Puccini Tosca
Marco Armiliato | Dirigent
Margarethe Wallmann | Regie
Nicola Benois | Ausstattung
Martina Serafin | Floria Tosca
Aleksandrs Antonenko | Mario Cavaradossi
Ambrogio Maestri | Baron Scarpia

・R・シュトラウス: バレエ いにしえの祭り/ヨゼフの伝説 ウィーン国立歌劇場

演目のR・シュトラウスの「いにしえの祭り」、「ヨゼフの伝説」ともに初見である、そもそも録音もあまりない曲。「ヨゼフの伝説」についてはシノーポリの名盤があるが、「いにしえの祭り」については若杉弘によるものくらいのようだった。
クープランのクラブサン舞踏組曲をシュトラウスが編曲しただけなので、あえて取りあげることもなかろうということなのかもしれない。でも、こういった曲も網羅的に若杉さんは取り組んでいらっしゃって、シュトラウス愛に満ちた、凄い人だと今更ながら感じ入る。
さて、本番の演奏であるが「いにしえの祭り」のほうは正直単調な旋律が続き、退屈であった。ウィーン フィルの美音だから聴き続けていられたようなもの。バレエの舞台も演出もちょっと尖っていて、正直まったく意味不明であった。
しかし、「ヨゼフの伝説」は最高である。ウィーン フィルの演奏がとても生きており、つややかで高貴なエロチシズムに満ち満ちた演奏。シノーポリのCDでは若干ダラダラ感がある音楽だなと思っていたところ、バレエ舞台では素晴らしいバレエが目の前で展開されており、やはりウィーン フィルによるR.シュトラウスがとても良いのである。バランスよく有機的なウィーンフィルでシュトラウスを奏でられると、もうあちこちで素晴らしいオーケーストレーションによる芳香が立ち昇る。夢うつつの1時間であった。

Richard Strauss Verklungene Feste / Josephs Legende
@Wiener Staatsope
Mikko Franck | Dirigent
John Neumeier | Choreographie und Inszenierung
Albert Kriemler | Kostüme
Heinrich Tröger von Allwörden | Umsetzung Bühnenbild

・グルベローヴァ国立歌劇場デビュー45周年記念公演
(45 Jahre Edita Gruberova an der Wiener Staatsoper)

華麗なる芸術都市の光と闇 “魔の都”ウィーンに響く、天才歌手グルベローヴァの美声 / 『滅びのチター師』と『うぐいすとバラ』を読む
音楽家と愛好家、こうも音楽にかかわる人々がウィーンに引き寄せられるのはなぜか。映画『第三の男』、ロマ(ジプシー)の人々、コロラトゥーラソプラノとして著名な歌手・…
jtaniguchi.com

オーストリア / ウィーン

<詳細情報>
ウィーン国立歌劇場(Wiener Staatsoper)
Opernring 2, 1010 Wien