エルプフィルハーモニー・ハンブルク(Elbphilharmonie Hamburg)は、ハンブルク港に向かって屹立する巨大な建物の中央にコンサートホールを抱えている。しかも、遮音のためにホールそのものを建物から切り離し、スプリングで中空に浮かせるという驚くべき構造である。現在の公式情報によれば、グランドホールは362群のスプリングで外部から音響的に分離されている。
港を行き交う船の音など、周囲の騒音を遮断するだけではない。ホール内の音が外部へ漏れることも防ぎ、ホテルの宿泊客や周辺の住民が音楽に悩まされないようにしている。発想そのものが凄い。
自分は、このホールで何度かコンサートを聴いた。今回は、その建築、デザイン、そして実際に聴いた音響について紹介したい。
○ エルプフィルハーモニーを覆うガラスファサード
○ エルプフィルハーモニーの内装とデザイン
○ エルフィのグランドホール、その驚きの音響設計
○ エルプフィルハーモニーへのアプローチも建築体験
○ ハンブルクを訪れたらエルフィへ

○ エルプフィルハーモニーを覆うガラスファサード
当初は、戦後に建てられた赤レンガの倉庫「カイシュパイヒャーA」をコンサートホールの基礎として活用する構想であった。そこから計画は大きく発展し、歴史的なレンガ倉庫の上にガラスの建物を積み上げるという、現在の姿へと変わっていった。
エルプフィルの特徴であるガラスファサードは、約1,100枚のガラスパネルで構成されている。曲面を描くものや、表面に特殊な印刷が施されたものもあり、単なるガラスの壁ではない。光を受けると、空やエルベ川、港の景色を映し出しながら独特の表情を見せる。
外から眺めても美しいが、建物の内側からガラス越しに港を眺めても実に美しい。このガラスファサードそのものが、エルプフィルの建築を象徴する存在になっている。


この美しいガラスファサードは、エルプフィルハーモニーのPRでも印象的に使われている。
なかでも、ガラス清掃と楽器演奏を組み合わせた動画は実にユニークで、エルプフィルらしい建築と音楽の融合を楽しめる作品である。完成版だけでなく、そのリハーサルの様子も公開されている。
○ エルプフィルハーモニーの内装とデザイン

このエルプフィルハーモニーの内部を見ていると、建築費が当初予算の10倍と莫大な費用がかかったこともうなずける。豪華さを前面に出した建物というより、細部まで機能とデザインを突き詰めた、機能美に満ちた造りなのである。
ホール内に数多く吊り下げられている球形のガラス照明も印象的だ。これはチェコのガラス工房による手作りの逸品である。無機質なコンクリートや白い壁面の中に、透明なガラスの照明が配置されており、シンプルでありながら華やかさを感じさせる。
ちなみに、コンサートホールの音響設計は日本の事務所がおこなっている。


そして、このホールを本拠地とするNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団(旧 北ドイツ放送交響楽団 )のコンサートにも足を運んだ。チケットはコンサートチケットの売買サイトで購入したが、最低ランクの桟敷席にもかかわらず、ずいぶんと値が張った。
本拠地とするオーケストラ(NDRエルプフィル)のシーズン初日ということもあったのだろうが、そもそも観光地として人気を博している。現在では、建築そのものを見に訪れる観光客も多く、コンサートホールとしてだけでなく、ハンブルクを代表する観光名所としても定着している。そのためか、チケットはすぐ売り切れてしまうようだ。
○ エルフィのグランドホール、その驚きの音響設計
初めて聴いた新ホールの音響は、響きすぎず、それでいて痩せてもいない。評判通りの素晴らしい仕上がりで、とても自然な響きがした。
グランドホールの壁面と天井には「ホワイト・スキン(白い皮膚)」と呼ばれる音響パネルが使われている。このパネルは建物の屋根を模して削りだしてある。これが1万枚以上ホール周囲に貼られており、適度な響きを保証している。
その為、ピアノの独奏でも十分明瞭な良い響きがする。


グランドホールは約2,100席と昨今の大ホールと同規模だが、その客席配置は一般的な大ホールとはかなり異なる。舞台を中央に置き、その周囲を段状の客席が取り囲み、垂直な円筒状でどの席からも舞台が見やすい。
そして、最も遠い席でも指揮者から30メートル以内に収まるという。どの席からも舞台との距離が近く感じられるように設計されているのが特徴で、いわゆる「棚下席」がないことも、このホールの大きな魅力である。

○ エルプフィルハーモニーへのアプローチも建築体験
コンサートホールへのアプローチも、この建物ならではの体験である。地上の入口からは、全長約82メートルの長いエスカレーター「チューブ」に乗って建物の内部を進んでいく。これだけでも、普通のコンサートホールとはかなり違う。
しかし、巨大な建物なので、その先がたいへんである。ホールの入口からさらに階段を上り続け、桟敷席まで行くとなると、まるでちょっとした登山である。
お年寄りにはこの階段がきつく、ホール内の階段も急な段差なので、終演後はゆっくり階段を降りるご年配方によって大渋滞となる。
ただし、もともと大勢の観客が移動することを想定した広い導線が確保されているので、ある程度は織り込み済みなのだろう。

ちなみに、観光客が多い為か、客のマナーはあまりよろしくなかった。楽章間の拍手は度々発生し、演奏中の携帯の着信音が二度ほど鳴った。
オープニングの日は普段と客層が異なるのと、そもそも観光地化しているホールなので客はクラシック音楽に堪能な方ばかりではないようだ。
○ ハンブルクを訪れたらエルフィへ
ただ、そのようなことを差し引いても、素晴らしいホールと雰囲気であることは間違いない。ガラスの外観だけでなく、歴史的なレンガ倉庫の上に巨大なコンサートホールを載せるという大胆な構造、そして内部の音響設計まで、建築そのものに見るべきものが多い。
もちろん、実際にコンサートを聴けば、さらにこの建物の面白さが分かる。音楽を聴くための空間でありながら、建築そのものが一つの観光目的になっているのである。
ハンブルクを訪れるなら、一度は足を運びたい場所である。コンサートを聴くのもよいし、まずはプラザから港と街を眺めるだけでも、エルプフィルハーモニーという建物の魅力を十分に感じられるだろう。




