2014年暮れから相次いでパリのコンサートホールがオープンした。そのひとつがラジオ・フランス(Radio France)のホール オーディトリアム(Auditorium de Radio France)。
このホールはラジオ・フランスの放送局建物内の限られたスペースに建てられた為か、円筒状の独特の形をしている。
そして、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団(Orchestre philharmonique de Radio France)の本拠地でもあり、定期的にコンサートが開かれている。
○ ラジオ・フランス周辺を散歩する
○ カステル・ベランジェのアール・ヌーヴォー建築
○ コンサート前のパリ16区散策と食事
○ ラジオ・フランスのコンサートホール、オーディトリアム
○ 実際に聴いて感じたオーディトリアムの音響
○ ラジオ・フランス周辺を散歩する
パリ・オーディトリアム周囲には、コンサートの前後にちょっと時間をつぶすのにちょうどよい場所がいくつもあり、この辺りがとても気に入っている。
セーヌ川を渡れば、比較的新しいショッピングモール、ボーグルネル(Beaugrenelle)がある。一方、ラジオ・フランスの裏手に回ると、アール・ヌーヴォー建築の巨匠、エクトール・ギマールが設計したアパルトマン、カステル・ベランジェ(Castel Béranger)があり、コンサート前に、洒落た雰囲気の街並みを散策することができるのだ。

○ カステル・ベランジェのアール・ヌーヴォー建築
このギマールのアパルトマンは、外観のいたるところに「ギマール節」が効いている。こうした装飾性の高い集合住宅が、現在も住居として使われながら、これほどよい状態で残っていることには驚かされる。
外観だけでも細部を眺めていると実に楽しく、まだ訪れたことのない方には、ぜひ一度実物を見てほしい建築である。


ちょうど訪れた際、デザインに見とれて夢中になってカメラのシャッターを切っていると、このアパルトマンの入居者のご婦人が「中も見てみますか」と声をかけてくださった。
この辺りはかなりの高級住宅街なので、少々お高くとまった方が多いのかと思いきや、さにあらず。乳母車を押し、手にはもう一人のお子さんを連れながらも、エントランスやホールを案内してくださった。
しかも、「好きなだけ写真を撮りなさい」と、子連れにもかかわらず、こちらが撮影を終えるまで待っていてくださるのである。

なんとも幸せなひとときである。美しいカーブを描く階段やドアノブなど、細部にいたるまで写真に撮らせてもらった。
ウィーンにあるユーゲントシュティールのマジョリカハウスなどもそうだが、本当はこうした建物の内部にこそ、外観以上に素晴らしい装飾が隠されているのだろう。しかし、そこには普通に人が住んでいるので、内部を見る機会はなかなかない。
そう考えると、今回のような展開は実に幸運なことであった。

○ コンサート前のパリ16区散策と食事
ラジオ・フランスの近辺には、落ち着いた雰囲気ながら気軽に食事するところも多いのも嬉しい。パリのコンサートは開始時間が遅いので、コンサート前に軽く食事をすることにしている。この時は、ラジオ・フランス向かいのカフェレストラン(Les Ondes)に入り、ワインとエスカルゴを注文した。
実は、以前同じ店に入った際に小柄なお婆さんが、いとおしげにひとつずつエスカルゴを食べている姿が印象的だったので、今回注文してみたのである。
そのお婆さん、小さなフォークでちょこちょこ、貝の中をほじくり、最後はスィっと貝殻を口に運んで、少ない汁もすべて飲み干す。「そんなに旨いものなのかな」と思った記憶が蘇り、試したくなったのであった。
このレストランのメニューの最上段にあるのがエスカルゴなので、美味しくない訳がない。エスカルゴはワインにも抜群によく合い、スルリスルリとお腹に入ってしまった。食後にはコーヒーをいただき、コンサートまでゆったりとした時間を過ごす。

○ ラジオ・フランスのコンサートホール、オーディトリアム
さて、いよいよ問題のホールである。放送局内のホールということもあって、いわゆる豪華絢爛なコンサートホールという雰囲気ではない。しかし、デザインは洒落ており、限られた空間をうまく利用している。
廊下も通路もかなり狭いのだが、そもそも1,461席ほどのホールなので、それほど不便には感じない。オルガンも少々窮屈そうに見えるが、コンパクトに、縦へスッと伸びたラインが美しい。

それにしても、ここまで垂直に近い形で客席を配置した円筒形のホールというのも珍しい。座席は、まるで切り立つ崖にへばりつくように配置され、中央に吊られた大きな反射板の高さ付近まで客席が続いている。
空間を有効活用し尽くした感がある(笑)。こうなってくると、さぞかし音響設計は難しかったのではないかと思う。
一方で、この急傾斜の客席配置のおかげで、舞台はどの席からも近く、奏者の姿がよく見える。音だけでなく、演奏している姿を間近に楽しめるという点でも、耳だけでなく目にも嬉しいホールである。


○ 実際に聴いて感じたオーディトリアムの音響
そして肝心の音響である。音の印象はエルプフィルにも似ており、響きすぎることなく、それでいて適度な余韻が残る。自然な響き方である。
奏者が近いせいか、音は少し大きめに聞こえるのだが、繊細な旋律もしっかりと聞き取ることができ、全体のバランスが実によい。私はこのバランスのよさを絶品だと感じた。
別の日には、舞台裏の最上席にも座ってみた。その席では、さらに豊かな響きが感じられた。天井のすぐ近くで、オーケストラの真上に近い席であるにもかかわらず、音はまったくうるさくない。
そんな場所でも、きちんとホールの響きを味わうことができる。これはなかなか感心させられる体験であった。
次回は、このラジオ・フランスコンサートホールで聴いたコンサート等についてしたためたいと思う。(次回に続く)



