都道府県魅力度ランキングで下位の群馬県。知事もご立腹だそうだ。しかしながら、この魅力度ランキングは全くアテにならない。
実際に群馬県を訪問してみると、群馬県は魅力に富んでおり、その文化的成熟度に舌を巻いた。それがよく現れているのが高崎にある2つのコンサートホールである。
1つはチェコ出身の建築家アントニン・レーモンドによる群馬音楽センター、モダニズム建築の美しく機能的なコンサートホールである。そして、もう1つは完成して間もない高崎芸術劇場。ここでは由緒ある群馬交響楽団の演奏を聴くことができ、その音響も確かめることができた。
● モダニズム建築が美しい機能的な群馬音楽センター
● 群馬音楽センターの設計コンセプト
● 群馬音楽センターの裏手にはシンフォニーホール
● 群馬交響楽団を聴く @高崎芸術劇場
● 日本の多目的ホールの最終形態、高崎芸術劇場
● モダニズム建築が美しい機能的な群馬音楽センター
群馬音楽センターは、群馬交響楽団の昔の本拠地であった。1961年竣工の本格的な音楽ホールで、これぞモダニズム建築といった立派な建物。建物の構造は、地下1階、地上2階で外見より広く約2000席。設計はチェコ、ボヘミア出身のアントニン・レーモンドである。
向かいにある高崎市役所の高層ビルの展望フロアからは独特の形状をした群馬音楽センターを俯瞰して見ることができる。
また、ホール内にはレーモンドギャラリーがあり、訪れれば彼の足跡や群馬音楽センターの設計概要を知ることができる。
レーモンドは帝国ホテルの建築の為に来日し、戦前18年間、戦後に26年間も日本で過ごした。彼の手がけた建築は400以上にものぼる。
群馬音楽センターを正面から見ると大きな絵(フレスコ壁画「リズム」)がファザード上方に掲げられ、ライプツィヒのゲヴァントハウスのようである。この絵は建築家レーモンドが原画を描いており、そもそも彼は画家を目指していたらしい。
また、夫人もアーティストであり、建築の際には2人で協力しあっていた。
● 群馬音楽センターの設計コンセプト
群馬音楽センターのレーモンドによる設計コンセプトは3つとある。
1.建設費の1/3は市民による寄附なので、無駄のない長寿命建築とする
2.民主主義に則り舞台と客席の一体化と平等化を図る
3.城址という敷地環境に配慮し、建物の高さを抑える
美しく明るい開放感ある建物であり、加えて確かに質実剛健で機能的なホールである。
そして、城址公園との一体感もあり、2階ホワイエには光も豊富に射し込み、緑が目にうつる。
そして、ホール内は設計コンセプトの通り、客席との一体感が感じられ、天井こそ高くはないが、広々とした空間から音響効果も見込めそうだ。
外に出て、先ほど上空から見たギザギザした側面を間近に見てみた。ホール内の天井高から比べると、建物の高さが低いように見えるが、これは地下1階、地上2階の構成となっているからだろう。地下を掘り全体の高さを抑え、舞台上部もせり上がっていない構造は、先のレーモンドによる景観に配慮した設計コンセプトに基づくものである。公園内にあまり高い建物はそぐわないので、このホールは高崎城址や公園の雰囲気に実に馴染んでいる。
● 群馬音楽センターの裏手にはシンフォニーホール
公園内の案内図を見ると群馬音楽センターの裏手には、シンフォニーホールと言う練習用途のホールもある。
界隈は、楽器を模した公衆電話ボックスと言い、とても音楽の息吹を感じる公園地帯となっており、素敵である。
シンフォニーホールの前まで来て、入口から軽く中を覗いてみたところ、受付の方が気軽に内部を見学させてくださった。このホールは群馬音楽センターの流れからレーモンド設計事務所による設計で、お隣の群馬音楽センターとのデザイン的な調和も考えられている。
シンフォニーホールは練習用途と言っても、5つもの音楽用のホールを内包し、大ホールでは室内楽のコンサートなら充分に可能な規模であった。ホール内は残響も適度にあり、良き音響効果を備えたコンサートホールである。
また、地下にある中ホールも天井高もある立派なホールであり、小劇場と言った案配で、音楽ホールながら、ちょっとした芝居の公演なんかもできそうである。
更に地下にはピアノを置いた小ホールが3つあり、稽古事などにも使用されているとのこと。
3つのホールはすべて地下1階にあるので、除湿器がフル稼動している。やはり地下であると、湿気対策がたいへんなようである。しかしながら、これだけの整った音楽練習用ホールが完備されている都市はそうはない。ここでも高崎の文化成熟度を感じた。
● 群馬交響楽団を聴く @高崎芸術劇場
群馬音楽センターを見学した夜は駅の反対側にある新築の高崎芸術劇場に向かい、群馬交響楽団を高崎芸術劇場で初めて聴いた。演目はシューマンのピアノ協奏曲でソリストは児玉桃さん、派手さはないが、とにかく腕の立つピアニストで、この難曲を高い緊張感で表現豊かに弾ききり、鍵盤からも目を離せない名演であった。
そして、メインはスダーン指揮によるシューベルトの人生の絵巻物のような「グレート交響曲」。叙情的なメロディがこれでもかと出現し、テンポはやや速めながら壮大なたゆとう旋律が続く。長大ながら飽きることがない。シューマンの時とは、うって変わって楽しげに指揮するスダーンさんのお手柄で、こちらもかなりの名演奏であった。
● 日本の多目的ホールの最終形態、高崎芸術劇場
群馬交響楽団の名演奏を堪能する上で、こちらの高崎芸術劇場のホールは大きく寄与していることは間違いない。
ホールの音響を一聴して感じたのは高崎芸術劇場の音響は良い意味で日本の多目的ホールの最終形態かもしれないということだ。音楽鑑賞に必要な響きは充分に得られているが、残響は若干ながら少なく、天井から音が降らず、音源が少々遠く感じる。しかし、天井を兼ねた可動式の音響反射板が功を奏しているのか楽器単体の響きはすこぶる良かった。
音響反射板は舞台上の天井が下がることで対応しているらしい。クラシック音楽の演奏会ではかなりこの天井が下がり切っていて、反射板の効果が得られるというということだ。実際、芝居などでは舞台上天井を高くし、舞台の奥行きはもっと深いらしい。
日本の多目的ホールの最終形態かもしれないというのは、こういう用途多様なホールにしては、音響はうまくまとまっており、過去、京都会館(現ロームシアター京都)の残響の少ないホールの音で育った自分には贅沢に感じた。
ピアノなどの単独の演奏では自然な響きが得られ、弱音でも細かな音が聞こえて具合がよい、ただオーケストラが大音量で演奏すると響きが濁るのだけが残念であった。
総じて、ホール全体は鳴るわけではないが、嫌いではない響きで、高崎に住んでいる人は良いオーケストラと良質な劇場があり幸せと感じた。
また、駅まで雨に濡れずに往復できる連絡路(ペデストリアンデッキ)が確保されているのもなかなかである。当日夜は雨模様だったので、これに助かった次第である。
2021/9/18(土)
16:00 開演 ( 15:00 開場 )
会場:高崎芸術劇場 大劇場 (群馬県)
第571回定期演奏会
[指揮]ユベール・スダーン [独奏・独唱]児玉桃(p)
出演
指揮/ユベール・スダーン
Conductor/Hubert Soudant
ピアノ/児玉桃
Piano/Momo Kodama*
曲目
ウェーバー/歌劇《オベロン》作品306 序曲
Carl Maria von Weber / Oberon, J. 306: Overture
シューマン/ピアノ協奏曲 イ短調 作品54 *
Robert Schumann/ Piano Concerto in A Minor, Op. 54*
シューベルト/交響曲 第8番 ハ長調 D. 944「グレート」
Franz Schubert/ Symphony No. 8 in C Major, D. 944, “The Great”