北極圏に接するユーコン。日本から比較的行きやすい一方で、雄大な大自然を堪能できる極北の地である。本日はいよいよ木々が黄色に染まるデンプスター・ハイウェイ(Dempster Highway)を行く、この荒野を南北に走るラフロードは野生動物の王国だった。
デンプスター・ハイウェイは、距離にして740km、給油は途中1カ所しかない。この過酷な道を泥だらけになりながら走る。
ハイウェイの入口はトゥームストーン準州立公園(Tombstone Territorial Park)と指定公園となっており、美しい渓谷を走ることになる。
この道はまさしく「熊の王国」で途中いく度も、熊に出会うことができた。そして、デンプスター・ハイウェイ途中で唯一のホテルであり「陸の孤島 / 極北のオアシス」と呼ばれるイーグル・プレインズ・ホテル(Eagle Plains Hotel)に泊まる。
● デンプスター・ハイウェイ(Dempster Highway)を行く
● 熊と出会い、バードコールで鳥が飛来する
● 見た目はショボい、だが中身は最高のホテル、イーグル プレインズ ホテル
● デンプスター・ハイウェイ(Dempster Highway)を行く
ユーコンをドライブしてドーソン・シティ(Dawson City)まで来たが、いよいよこれからが天王山、デンプスター・ハイウェイに差し掛かる。距離にして740km。途中で確実に給油できるポイントは1カ所しかなく、人里すらない。そのため、まず中間地点の350kmまでを無事に走りきることが大切である。
レンタカー会社が予定通り、フォードのSUV・エスケープをキープしてくれていたのは朗報であった。海外のレンタカー会社は希望の車種を用意してくれないこともあるからだ。この車であれば、多少の悪路も平気だし、リアシートを倒せば一泊くらいの車中泊は余裕なので、いざという時に心強い。
このエスケープであるが、SUVながら手頃な大きさゆえにハンドルの取り回しが楽だった。一方でけっこう力強い走りをしてくれるので走行は快適でもあった。悪路も急坂もストレスがない。道中では100km間隔で設置されているハイウェイ脇の休憩スペースでまめに点検をしたが、全くトラブルは生じない。かなりの悪路を走り、すべての窓ガラスが視界ゼロになるほど泥だらけになったのにも関わらずである。たいした車である。
デンプスター・ハイウェイを半日ほど走れば、どの車も泥だらけになる。トレーラーなんかも車体上方まで真っ黒である。トラックや
トレーラーは車体が大きい為、デンプスター・ハイウェイ走破後の車の清掃はさぞかしたいへんだろう。
そして、これらの大型のトレーラーが、デンプスター・ハイウェイを我が物顔で走っている。北米で通常走っているトレーラーよりも、さらにサイズが大きい。これもユーコンならではだ。これらがダートのハイウェイを爆走している様は迫力満点である。スリップしないようにダート道を用心深く流している我がエスケープを尻目に、彼らは時速100kmオーバーで追い越していく。車が少ない地帯なので、追い越されるのは日に1回あるかないか。それだけに突然の後方からの襲来はかなり驚く。
● 熊と出会い、バードコールで鳥が飛来する
まれにトレーラーに抜かれること以外は車も見かけず、延々と荒野を走り続ける。そんな道中で、のんびりと野生動物が出没する動物の楽園風景が楽しめる。最初に出会ったのはグリズリーベアの2頭。穴掘りに夢中で、車のエンジン音にも動じない。せっせと歩き回って、とても行動的だ。
特徴的な背中のコブの盛り上がりで、ブラックベアと区別ができる。この見分け方は、空港でもらった熊対応マニュアル「How you can stay safe in bear country」が参考になった。
グリズリーベアが食べているのは、植物の根のようだ。土を掘って草木を切り裂く音がとても力強くて、さすがにちょっと怖い。顔を穴に突っ込んで一心不乱に食べ物を漁(あさ)る様は、長い冬に備えるための儀式といっていい。野生動物ならではの頼もしい姿だ。グリズリーベアが森の中に去っていくまでの15分、車のサンルーフからしげしげと眺めていた。
そして、次に出会ったのがブラックベア。鼻筋がとおった美形熊である。車道を堂々と横断しているのを見かけたので、ゆっくり近づいていった。
このように熊などの動物に普通に出会えるのが、ユーコンの魅力だ。たいがいの北米の国立公園では、動物が現れるとすぐに人だかりができたり、車も集まってくるため、動物たちはなかなか人がいる場所まで出てこない。たとえ見かけたとしても動物のほうがすぐに察知して森に隠れてしまう。しかし、ユーコンでは熊が主役。彼らは隠れもせずに堂々と道の真ん中ですら闊歩している。
熊以外の動物も見かけるが、ムース(ヘラジカ)などは、熊ほどは人間のそばにやってこない。そこで、バードコールを使って鳥を呼び寄せてみることにした。「ユーコンをレンタカーで旅する 1」の記事で紹介した頭のねじを回すと鳥のさえずり音が鳴る代物である。
風のない広い原野で、車を停めキュルキュルと バードコール を鳴らしてみた。そうすると静かな環境のためか、かなりよく音が周囲に響く。大自然の中にいるせいか、あたかも鳥がさえずっているかにも聞える。そして、ほどなくして鳥が飛来してきた。
● 見た目はショボい、だが中身は最高のホテル、イーグル プレインズ ホテル
熊を眺め、ユーコンの原野をのんびり350kmほど走ると、デンプスター・ハイウェイのど真ん中にある本日の宿泊先、イーグル・プレインズ・ホテル(Eagle Plains Hotel & Service Station)に到着した。ホテルの外観を見ると、まるで南極の基地のようであった。
事前に日本から予約メールを入れていたものの、ホテルからの返信はなかったので、若干の不安を抱えたまま訪問したのだが、部屋は空いており、無事に宿泊することができた。
メールの返事が来なかったことや、通過する車にとっては必須のガソリン補給地であることから、殿様商売にあぐらをかいた相当ショボい宿をイメージしていた。実際、ホテルの前は泥だらけのトレーラーや修理中の事故車が並んでおり、ホテルの外見は、使い込まれた南極の基地のようにくたびれた感じである。
ところが、玄関をくぐった先に見えたクラシックな内装と室温の暖かさにグッときた。外観からは想像できないほど内部は清潔で、食事を含めて金額もさほど高くはない。Wi-Fiは天候が悪いと断線するようだが、かろうじてつながっている。そして、ホテルの飼い犬はフロント脇が定位置で、いつも陣取っている。
そして、ユーコンの原野の高台に位置しているためにホテルからの眺めも最高である。
食堂の「Eagle Burger」なる巨大バーガーは美味しく、”two 5oz patties, cheese, turkey, and fried egg” とメニューにある。見た目はガサツながらが、ポテトもパテも皆手作りなので、お味は確かである。
食後はウイスキーと読書を楽しみながら、今宵は居心地のよいこのホテルに沈没することにした。実際、1泊してみてよかった。部屋は広くて奇麗にしてあるし、食事も安くて美味しいと申し分ない。北限のホテルで、ぬくぬくマッタリと上出来な気分と相成った。
ちなみに、こちらのホテルの触れ込みは「An oasis in the wilderness at the Arctic Circle(北極圏の荒野のオアシス)」とある。はたと膝を打った次第である。