北極圏に接するユーコンは、ちょっと準備をすれば手軽に大自然を味わえる土地だ。アフリカやパタゴニアに行かなくても、多くの野生動物に出会い、雄大な景色を堪能できる。冒険的な要素もありながら、英語圏かつ自ら運転するレンタカーで行けるのが魅力だ。このユーコンの見所と、極寒地の旅のコツをご紹介したい。
北極圏に向かったのは、今から10年前の初秋の頃、米国のアラスカとカナダ・ユーコン準州に行き、陸路で行ける地球最北端の街までドライブをした。いつもならオートバイの旅にするのだが、今回の行き先は、前後数百キロ孤立無援の地であり、長い過酷なダート道が続く。更には、熊がウロウロしている上に、朝方は氷点下まで冷え込むと聞き、これでは、タンデムには不向きと考え、今回はあえて四輪駆動の自動車の旅となった。
● 「手軽な冒険旅」が味わえる
● Go!Go! Yukon 準備編 極寒地に行く旅の準備あれこれ
● ユーコン/アラスカでの自動車でのトラブル対策
● ユーコンの旅では動物対策、特に熊対策は必須
● ホワイトホース現地で調達をした備品
● 不安のレンタカー手続きもクリアし、いよいよ出発
● 「手軽な冒険旅」が味わえる
今回の旅の大まかなルートは、まずはカナダのホワイトホース(Whitehorse)から入り、北上し北極圏を目指す、その後国境を越えてアメリカのアラスカ州に入り、再びホワイトホースに戻る旅程である。そこで、最初の目的地はカナダ北極圏の町 イヌヴィック(Inuvik)、入口となる国際空港のあるホワイトホースから真っ直ぐ北上し、ドーソン・シティ(Dawson City)を通過して、北極圏を目指す。
ルートとしては、現地のアドベンチャー・ハイウェイとして有名なクロンダイク・ハイウェイ(Klondike Hwy)、デンプスター・ハイウェイ(Dempster Hwy)を活用する。
ユーコンの旅の面白さを一言で表現すれば、「手軽な冒険旅」である。道中では多くの動物たちが暮らす雄大な大自然を堪能できる。北極圏かつ野生動物との遭遇といった冒険要素があるが、整備された道路をレンタカーでたどることができるというのが魅力だ。
一方で、ユーコンの詳細を記した日本語のガイドブックは皆無と言っていい。そこで今回体当たりで掴んだ(というと大げさだが)、ユーコンの風光明媚な見所と、北極圏をレンタカーで巡る際のポイントをまとめてみた。
● Go!Go! Yukon 準備編 極寒地に行く旅の準備あれこれ
さて毎回楽しみでもあり悩ましいのが旅行の準備。この時はユーコン、アラスカ方面旅で、かつ北極圏を目指すとあって、ドライブながら遭難や不慮の事故に備える必要がある。
ユーコンやアラスカへの旅は、ガイドブック探しにも難儀した。『地球の歩き方』を含め、日本で得られる北限方面の情報は極めて乏しいのが実情である。特にユーコンの情報誌は皆無に近い。そこで、3年ほどかけて、アラスカやユーコン関係書籍を渡米時やアメリカAmazonを使いコツコツと楽しみつつかき集めた。
『The Milepost』という1949年創刊の秀逸なアラスカ地方専門の旅行誌がある。イエローページほどの厚さでありながら、毎年刊行され内容もアラスカ、ユーコン、ブリティッシュ・コロンビア州を網羅している、充実のガイド誌だ。しかも地図や写真も多いので、眺めているだけでも楽しい! これら書籍に助けられ、事前リサーチでも相当楽しませてもらった。これも旅の醍醐味だ。
● ユーコン/アラスカでの自動車でのトラブル対策
・パンクの修理キットと牽引ロープ
まずは自動車でのトラブルに備えて揃えたのが、パンクの修理キットと牽引ロープ。例えば自動車が脱輪やエンジントラブルで動けなくなった場合、救援してもらうのに、どれくらい時間がかかるのかわからない。実際僻地に行くと携帯電話の電波は届かないし、対向車ともほとんどすれ違わないのである。
特に警戒しているのがパンク。北極圏への道は整備されているとは言え、ほとんどがダートなので、今回は二輪での旅を断念した。ただ、4輪でもパンクのリスクは同様であり、レンタカーの場合はスペアタイヤが充分でないことも考えられる。そこで、2つのパンク修理キット(うち1つは電動コンプレッサー付き)を用意した。しかし、金属のシリンジが入ったものは空港であえなく没収の憂き目にあってしまった。手荷物でなければ問題ないかと思いきや、シリンジは預け荷物であっても持ち込み禁止のようだ。パンク修理キットを2種類準備しており、結果的に早くも助かったことになる。
・非常食やコンロなど野宿準備
次になにかの拍子に車が動かなくなった際のリスクに備える必要を考えた。そこで、テント以外のアウトドア用品を一式持参して、少なくとも一晩はしのげる用意をした。車があるのでテントはさすがに持参しなくてよいと判断したが、飲料水、寝袋やコンロ、簡単な調理道具、食料などをしっかり車に積み込むことにする。
ちなみに、非常食と称しているが、ほぼ僻地を走る行程なので、レストランなどは期待できない。ランチは、自分で用意することになる。用意したコンロや非常食は緊急時でなくとも大いに活躍することになった。
非常食は、最近は優れモノの登山食品があるので、軽めかつ日本味のものはいくつかもっていった。この中で、カップヌードルリフィルは容器がないだけでなく、麺自体も圧縮されており、かなりコンパクトで軽量なので旅には便利である。
・調理用具
コッフェル等も久しぶりに物色し、定番のアルミ製のものにした。チタン製やステンレス製のものもあるが、チタンは軽いが熱伝導が悪く調理にはどうだろうと思ったので断念。ステンレスはいささか重いので旅グッズとしてはNG。旅先なので、お湯を沸かすくらいだろうと思ってはいたが、アルミ製の重宝しそうなクッカーを持参した。また、スプーン、フォーク、ナイフの3役をこなすスポーク(Spork)も人数分あると便利である。
・LEDランタン&懐中電灯
非常食と同様に、いざという時の為にランタンも用意した。LEDは充分明るく1日以上電池がもつようなので、懐中電灯とランタンを兼ねたものを持参した。
● ユーコンの旅では動物対策、特に熊対策は必須
ユーコンの原野で一番、警戒しなくてはならないのが、危険きわまりない熊である。カナダでもアメリカでも国立公園にはつきものの彼ら。各地で見かけてはいるものの、ユーコンの熊は野生度合いが高く、生息数も多い。かなりの注意が必要だ。
飛行機を降り立つと、たいていの空港には各種ガイドがたくさん置いてあるのだが、ユーコンの空港でひときわ目を惹いたのは、熊対応マニュアル。「How you can stay safe in bear country」なんてタイトルで、パラパラめくると熊の凶暴さを示すゾッとするような写真も掲載されている。
写真の右の緑のパンフレットは愛嬌ある熊のイラスト版だが、写真版のほうは熊の種類の見分け方から爪痕など足がすくむような写真も満載である。
事前になんとなく熊情報は気にしていたので、いざという時に音を鳴らすホイッスルと熊鈴を日本から持参した。熊スプレーは、ボンベ類なので飛行機に持ち込めないため、現地調達を決め込むことにした。
熊よけの鈴は各種あり、鐘型と鈴型がある。鐘型のほうが音色もよく、耳聞こえがよさそうだが、簡単に消音ができる鈴型を選択。車から外にでるときは常に鈴を着用した。Manner Modeというベルトを鈴に差し込むと音が消えるしくみになっている。この鈴をつけると熊以外の動物(鳥や鹿)も逃げてしまうので、消音機能は必須である。
せっかくの大自然、熊以外の動物も気にかけたい。その時、忘れてはならないアイテムが「Audubon Bird Call」。頭のねじを回すとキュキュと鳥のさえずり音が鳴り、鳥が集まってくる。チープで手作り感満載の、愛らしいフォルムがグッとくるガジェットだ。これをカメラのストラップにつけて、光の案配や雲の景色が替わるのを待つ際に、鳴らして鳥を呼び寄せ、暇をつぶしている。
また、鳥を含めた動物を眺める為に軽い単眼鏡も持参した。実際、これで草むらに隠れるムースや鹿を見つけることができたし、遠目に熊を観察することも可能になった。ズーム機能が付いていると。低倍率でアタリをつけて高倍率で詳細を見ることができる。後の旅行では観劇でも活躍している。
一方、動物だけでなく虫も沢山いる。特にアラスカ方面では「蚊の大群」が有名で、車もバイクも前面びっしり虫がひっついて真っ黒な様の写真を見かける。秋口はさすがに蚊の発生も落ち着いていると思うが、念のために虫除けツールを持参した。但し、日本の防虫薬は海外の蚊には効かないとの噂もあるので気休めでもある。あまりに酷いようなら現地で購入したほうがよいと考えた。
● ホワイトホース現地で調達をした備品
周到な準備をしつつ日本から各種備品を持参しつつも、コンロ用のガスなど機内持ち込み不可なものは、現地の巨大なホームセンターで購入することにした。ユーコンの場合、ホワイトホースのような大都市でなければ大型のホームセンターはないので、事前にすべて買い込んでおく必要がある。たいがいホームセンター界隈にはスーパーマーケットもいくつかあり、一度に水や携帯食となにからなにまですべて揃うので、旅の最初に立ち寄ることをおすすめする。
現地のホームセンター カナディアンタイヤ(Canadian Tire) ホワイトホース店で調達した。こちらのお店は、なんと朝8:30開店で、夜9:00までやっている。カナダ有数の大型ホームセンターで、現地到着の飛行機が遅かったにも関わらず、おかげで余裕で買物ができた。
現地で調達しなければならないのは、バーナー用のガス、熊スプレー、そして包丁/ナイフである。どれも種類が豊富で困ることはない。
同店のフライヤーはこちらで見ることができる。お国柄を表してて興味深い。ホッケー用品や狩猟用品なども見かけることがある、カナダの当地ならではである。
そして、近隣のスーパーではポリタンクや非常食になるようなレトルト食品を買い込んだ。
こんな感じで、事前の準備をしっかり整えて、いざ出発。と言ってもアンカレッジ経由の航空路があったのは、今は昔。現在、アラスカ方面は非常に遠い。地図では日本からかなり手前にある目的地、カナダ・ユーコン準州のホワイトホースもバンクーバー経由となり、かなりの距離を戻る感じだ。しかも、僻地に行く便は本数も少なく、トランジットの時間も長い、合計すると20時間近い長い空の旅となることを覚悟しなければならない。
しかし、ユーコン到着間近に機内から壮大なユーコンの原野を臨むと、心躍る。そして、荒涼とした空港に降り立ち、凛とした空気に触れると気持ちが引き締まると同時にわくわく感が高まる。
● 不安のレンタカー手続きもクリアし、いよいよ出発
到着したホワイトホース空港では、直ちにレンタカーをピックアップした。田舎なので、時間はゆったり流れ、手続きもどこかノンビリ、しかしレンタカーのカウンターは飛行機を降りてすぐ、車も目の前の駐車場に置いてあり、すんなりと受取りを済ませた。
これまで海外でレンタカーを借りる際に、当日の車種変更に幾度も出くわした。そういう時に決まって係員はカウンターで悪びれもせず「アップグレードしたから」と言う。しかし、いくら高級車になっても想定していた車がやたら大きなサイズに変更されてしまったり、オートマ車だったはずがマニュアル車に変更されてしまったりしては困る。
今回は、予約したフォードの四輪駆動のSUV車・エスケープが、空港の扉を出てすぐのところに駐車してあった。レンタカー会社のWebサイトには「FORD ESCAPE or similar」と小さく「or similar」の文字があったことが気がかりであったし、今回は悪路を走るのでセダンにでもされたらどうしようか、といささか不安であったが、その危惧も消し飛んだ。
車に乗り込むと、まずは閉店時間ぎりぎりのホームセンターやショッピングモールへ直行。日用品で日本から持参できなかった品々を買い漁る。ちなみにアメリカやカナダは酒類の販売は厳しめなので、酒屋を見つけたらすぐに購入するのが秘訣である。水にパンに、バターやチーズ、缶詰、果物、貴重なお酒も調達できて、後部座席に積み込んで、翌朝の出発に備えることができた。
さて、準備万端。明日は早起きして出発である。