オートバイでアメリカの街々を巡ると、観光地を巡るだけでは味わえない体験や市井の人々の暮らしに触れる機会がたくさんある。そして、そのような機会に数多く出会えたのもフリーダムアメリカ社のツーリングツアーの魅力であった。
訪れる街々のスーパーで果物やおやつ、ちょっとした小物を買ったりする機会も多くあった。また、地元の方が集まるような食堂で食事をしたり、モーテルにしては奇抜な宿を敢えて選定もしてくれたりし、毎日が目新しく充実した旅であった。
● 訪れる街々でお買物
● 思い出深い食事たち
● 楽しいモーテルのはしご旅
● 訪れる街々でお買物
このツアーでバイクを降りて、アメリカ各地で買物や食事などをしたことを今でも楽しく思い出す。アテンドしてくださるフリーダムアメリカ社の木村氏が必要に応じて買い出しをされ、それに付き合ったり、面白い店があると立ち寄ってくれたりするのだが、それらは観光客向けではなく日常的な地元民のお店ばかり。この時に米国人のごく普通の姿に出会えることが旅の楽しさにつながった。
米国のロードサイドにある巨大ディスカウントストアなどは自家用車を持っていないと、なかなか入ることができない。それ故に、これまで何度もアメリカには行ったことがあったが、この時初めてロードサイドの店に入ることができた。そして低価格品が巨大な建屋に集積されている様に驚きもした。この時は、たった1ドルで足の大きな自分にはぴったりサイズのビーチサンダルが購入でき、今でも旅の室内履きとして重宝している。
この旅ではターゲット(Target) やセーフウェイ(Safeway)など多くのスーパーに立ち寄り、スーパーマーケットブランドの違いなども木村氏に教えてもらった。
それら途中途中の買物の中で、バイク乗りにとって最大級の楽しいショッピングとなったのは、アリゾナ州のアパッチ・ジャンクション(Apache Junction)にある巨大ハーレーショップ(Superstition Harley-Davidson)を訪れた時であった。
ツーリングの最終盤でアリゾナの文字通り肌がジリジリ焼けるような日差しの中をさんざん走ってきた後、店内でキリリと冷えたボトルウォーターをショップスタッフから受け取ったことは嬉しくて、今でも鮮明に記憶に残っている。
そして、このハーレーショップはひとつのバイクメーカーでありながら、この規模のショップが成り立つのかと思うほど広い。様々な車種やアクセサリー各種を眺めていると、よい案配のバイクグローブがあった。日本人にしては指が長く、なかなか合うグローブが見つけることができない自分にぴったりのサイズである。この時から軍手含めて手袋は海外旅行の際に購入するようになった。
● 思い出深い食事たち
ツーリングで訪れた各地での食事は特に思い出深い。スピリチュアルスポットとして有名なセドナ(Sedona)で休憩した際に、初めて口にしたバッファローバーガーは牛肉に似ていたが赤味肉の旨味が強烈だった。
メキシカン・ハット(Mexican Hat)で食べたSwingin Steakも記憶に残るイベントだった。Swingin Steak とは、ブランコに肉を載せてまんべんなく火を通す仕組みである。ジリジリぶ厚い肉が焼かれていく様はなんともおかしい。ぶ厚いステーキはコロナビールとの相性も良く、一日中砂漠の中を走り回った後の疲れを癒やしてくれた。
ナバホ族の保留地にあるキャメロンの旧交易所(Cameron Trading Post)は2度訪ね、ケチャップの濃厚さに驚いた朝ご飯と野菜のエキスがたっぷりのナバホ流シチューのランチをいただいた。
ここではネイティブアメリカンの民芸品の実演販売も見られ、近くには長さ210 mのアリゾナ州で最も古い吊り橋(Cameron Suspension Bridge)もある。
田舎町 Pageでは中華料理のバイキングを食べた。味も悪くはなく、チャーハンはインド米でパラパラで美味しい。米の食感を久しぶりに楽しんだ。この時は食後にモニュメントバレー(Monument Valley)へ向かったのだが、フリー走行中、自分だけ道を間違えてしまい、どうも車通りが少ないと思ったら脇道を走っていた。木村氏が慌てて追いかけてきてくださり、事なきを得たが、ランチに食べた中華の味とともに道を間違えたことは今でもよく覚えている。
アメリカの道は交差路がさほど多くなく、ツーリングで走る道はたいていはしっかりした舗装道路なので、気をつけていれば脇道に入ることはほとんどない。この時、脇道の雰囲気を知り、以降は気をつけるとともに、幹道やバイパス道に並行する脇道を敢えて走る楽しさもこの時に学んだ。
モニュメントバレーのバーガーキング(Burger King Highway 160)では、店員はネイティブアメリカンの方々で、なんと店内にはナバホ族が太平洋戦争に参加した暗号部隊(Navajo Code Talkers)の展示があった。この部隊はニコラス・ケイジ主演の映画『ウインドトーカーズ(Windtalkers )』で有名である。こんな展示ブースがハンバーガーチェーン店にあるなんて、とても自分の力では探し出せないので、ガイドさんがいる旅もよいものである。
● 楽しいモーテルのはしご旅、ツギハギだらけの素敵な宿とサイドカーで旅するご夫婦
アメリカのツーリングでは、映画によくでてくるロードサイドのモーテルに度々泊まれるのも楽しみの一つである。快適性はホテルに劣るだろうが、ロードムービーさながらのめくるめく景観の中を走り回った後、砂漠にポツンと建つ宿で夜風を感じながら横になるのは格別だ。
日本と同じで、場末のホテルっぽいモーテルは、どことなく味があって、自宅にいるかのように落ち着く。クーラーの効き具合がちょいと弱かったり、トイレの水がちょろちょろ流れ続けていたり、この辺りはご愛嬌の範囲。どのモーテルも清掃はしっかりされており、ベットやテーブルも広いのでそれだけで快適である。街中にあるモーテルとはひと味もふた味も異なるのだ。
このフリーダムアメリカ社主催のツアーでは宿泊施設も、いわゆる団体旅行向けの味気ないホテルではなく、各地で味わいがあって、クセのあるモーテルを敢えて選択してくれていた。そして、アメリカに直に触れる感じがした2つの記憶に残るモーテルがあった。
1つはユタ州のメキシカン・ハットで泊まった、ネイティブアメリカンの素敵なご婦人が経営するモーテル”Canyonlands Motel”。オーナーと木村氏は長いつきあいだそうだ。このモーテルの建物は、ほとんど手つくりで、ツギハギだらけなのだ。クーラーも冷風器の原理を利用した自作品、通風孔の窓を藁でふさぎそこにホースから水が始終たれるようになっている。その手前にある巨大な換気扇をブンブンまわして外の熱気を冷やして取り込む寸法である。これがけっこう涼しいのだから面白い。
少々くたびれた建物で外は埃っぽい土地なのに、室内は掃除が行き届いており、シーツなんかもパリッと清潔感がある。オーナーの配慮が感じられる素敵な旅の宿だ。周囲は町とは言えないとても小さな集落で、陸の孤島ながら最大限のホスピタリティを提供してくれた。おまけに宿の前の景色が最高だ。綺麗な夕日に染まった岩肌や朝焼けに染まるモニュメントバレーが本当に美しい。
もう一つ素敵な体験をしたモーテルがある。ディズニー映画『カーズ(Cars)』に登場し”ルート66(Route 66)”沿いにあるウイグアム・モーテル(Wigwam Motel)である。建物の前にはルート66にふさわしいアメリカの旧車が並んでおり、雰囲気は充分。駐車場も広くて、モーテルながらコテージ風の贅沢なつくりで、とても落ち着く。
そして、モーテルの中庭ではバーベキューもできる。この時は、NYでシェフ経験もおありのフリーダムアメリカ社の木村氏が本格的な手つきでお料理をつくってくださった。
美味しい食事とビールで気分良く寝床についた翌朝、天気がよく気持ちが良いのでモーテルの敷地内を散歩し、野ウサギなんかを追いかけていた。それにも飽きて、コテージ前でバイクをチェックしていると、突然見知らぬご婦人に声をかけられた。
「このオートバイはどうしたの?」など尋ねられ応対していると、フト旦那さんと思しき人が無口に横に立っていることに気がついた。「アメリカをオートバイで旅している」と伝えると、ご婦人が横の旦那に命令口調で「ウチのバイクを持ってきなさい」と。すると旦那さんは無言で深くうなずく。
ほどなくしてサイドカー(側車)付きの大きなハーレーがドドドッと眼前に現れた。
どうも道路にサイドカーを止め珍しいフォルムの”Wigwam Motel”の建物を見物していたらしい。そうしていると、奥のほうでハーレーをいじっている自分に気がつき、こちらまで出向いて声をかけてくれたようだ。アメリカではドライブインでも、路肩にバイクを停めていても、よく声をかけられライダー同士はすぐに会話が成り立つ。そして、お互いのバイク自慢が始まる。遠目で互いのバイクを物色している日本のライダーとはちょっと異なる展開になるのが面白い。
そして、こちらのご婦人がこのハーレーまたがらせてくれた上に、ポーズまで指示されて写真を撮ることになった。更にはサイドカー(側車)の構造をくまなく見せてくれる。驚いたことにサイドカーというのは、背もたれ後ろにかなりの収納スペースがある。これだけあれば、夫婦でもロングツーリングも難なくこなせるはずだ。
ご婦人が腰を痛めてタンデムができなくなってサイドカーにしたとのことだったが、やむを得ない理由だったとはいえ、サイドカーにはカップホルダーもついておりコーヒーを片手に大きな背もたれに座りながら、とても快適そうである。
さて、この旦那さんは終始無口なのだが、バイクへの愛着は明らかであった。ツーリング中にしてピカピカに磨き上げられた車体はきっと毎晩の整備を怠っていないからだろう。そして完璧な荷物のパッキングを見れば旅慣れていることも一目瞭然、無口ながら自信満々なのだった。オートバイもすごかったけど、ご夫婦の間柄が凄かった。
こんな素敵なモーテル体験ができて、このツアーは感無量であった。北米にはモーテルは数多ある、その中から奇抜で気の効いた宿を選択をするのは難しい。また、選んでもらっていながら、毎夜変化に富んだ宿に泊まり、自分で行き当たりばったりで宿を探した時と同じくらい感動があった。
このモーテル選択やモーテル宿泊体験は後々の個人旅行でも大いに参考になった。モーテルの受付は親切な方が多く、丁寧に周囲の情報を教えてくれる。館内でなんでも揃ってしまうホテルとモーテルは異なるので、必然的に買物や食事などのことは、都度モーテルの受付に尋ねるようになる。
すると耳寄りな地域情報を教えてくれる。そして、街の地図をくれるだけではなく、道をはさんだあの店の○○が美味しいのよ、と具体的なメニューのアドバイスまで得られることがあるのだ。
また、部屋の前にオートバイを停めて荷物の積み降ろしができる便利さ、目の前の車両をいつでも確認できる安堵感はモーテルならではの特長である。
そう言えば、こちらの本を紹介してもらったのもフリーダムアメリカ社の木村氏だったと記憶している。
アメリカの素敵な宿がリストアップされた本で、何度も版を重ねている。この後の米国ツーリングでちょっと良き宿を探したいという時に重宝した。このような本も紹介いただき、宿探しのテクニックを学んだのもこの旅だった。おかげで北米のロードサイドのモーテルに気軽に泊まったり、小洒落た宿にバイクで乗りつけたりするきっかけとなった。