2014年暮れから相次いでパリのコンサートホールがオープンした。そのひとつがラジオ・フランス(Radio France)のホール オーディトリアム(Auditorium de Radio France)。このホールはラジオ・フランスの放送局建物内の限られたスペースに建てられた為か、円筒状の独特の形をしている。ただ、音響設計をエルプフィルハーモニー・ハンブルクと同じ日本の設計事務所がおこなっており、響きは素晴らしいホールであった。
そして、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団の本拠地でもあり、定期的にコンサートが開かれている。
・ラジオ・フランスの周辺、ギマールのカステル・ベランジェ
そして、このホールの周囲にはちょっと時間をつぶすにはもってこいの所がたくさんあって、気に入っている。セーヌ川を渡ったところには、新しめのショッピングモール ボーグルネル(Beaugrenelle)があるし、このラジオ・フランスの裏手には、アール・ヌーヴォーの建築家ギマールがデザインしたアパルトマン-カステル・ベランジェ(Castel Béranger)なんかもあって、洒落た雰囲気の街並みを散策することができる。
このギマールのアパルトマン、外見のいたるところにギマール節が効いており、このようなプライベートなマンションが装飾を備えたまま、よい状態で残っていることに驚く。未見の方には眺めて楽しく、とてもお勧めの建築物である。
ちょうど訪れた際に、デザインに見とれて夢中になってカメラのシャッターをきっていると、このアパルトマンの入居者のご婦人が中を見せてくれると声をかけてくださった。この近辺、かなりの高級住宅街でお高くとまった方が多いのかと思いきや、さにあらず。乳母車押しつつ手にはもう一人の子供を連れながらも、エントランスやホールを案内してくださった。そして、好きだなだけ写真を撮りなさい、と子連れにも関わらず待っていてくださる。
なんとも幸せなひとときで、美しいカーブを描く階段やドアノブ等、細部にいたるまで写真に撮らせてもらった。ウィーンにあるユーゲントシュティールデザインのマジョリカハウスなども同様で、本当は屋内のこういった装飾も、更に素晴らしいのだろうけど、人が普通に住んでいるので、なかなか見ることはできない。今回のこういった展開は実に幸運なことだ。
・カフェレストラン(Les Ondes)でエスカルゴなぞ
ラジオ・フランスの近辺には、落ち着いた雰囲気ながら気軽に食事するところも多いのも嬉しい。パリのコンサートは開始時間が遅いので、コンサート前に軽く食事をすることにしている。この時は、ラジオ・フランス向かいのカフェレストラン(Les Ondes)に入り、ワインとエスカルゴを注文した。
実は、以前同じ店に入った際に小柄なお婆さんが、いとおしげにひとつずつエスカルゴを食べている姿が印象的だったので、今回注文してみたのである。そのお婆さん、小さなフォークでちょこちょこ、貝の中をほじくり、最後はスィっと貝殻を口に運んで、少ない汁もすべて飲み干す。「そんなに旨いものなのかな」と思った記憶が蘇り、試したくなったのであった。このレストランのメニューの最上段にあるのがエスカルゴなので、美味しくない訳がない。ワインにも抜群にあうし、スルリスルリとお腹に入ってしまった。そして、食後にコーヒーをいただき、コンサートまでゆったりした時間を過ごす。
・ラジオ・フランスのコンサートホール オーディトリアムは如何なるホール?
さて、問題のホールであるが、放送局内のホールなので高級感はそれほどではないが、洒落たデザインである。そして、狭く円筒状の敷地をうまく対処したデザインである。廊下も通路も狭いのだが、そもそもキャパが1500席弱なので、問題ではない。オルガンも窮屈そうだが、コンパクトに縦にスッと伸びたラインが美しい。
しかし、ここまで垂直に円筒形のホールというのも珍しい、座席は切り立つ崖にへばりつくように配置され、中央の大きな反射板の高さ付近まで座席がある。空間の有効活用をしつくした感がある(笑)。こうなってくると、さぞかし音響設計は難儀したと思う。一方、垂直に客席が配置されているので、舞台はどの席からも近く、奏者がよく見えるので目には嬉しいホールである。
そして、音響はエルプフィルと似ており、響きすぎず適度で、自然な響きがする。奏者が近いせいか音はちょっと大きめに聞こえるが、繊細な旋律も聞き取れ、バランスのよさは絶品であると感じた。別日には舞台裏の最上席に座ったが、その席では更に豊かな響きがした。天井のすぐ近くで、オーケストラの真上の席でもあるにも関わらず、音はまったくうるさくない。そんな席でもキチンと響きを味わうことができるとは、と感心した。
次回は、このラジオ・フランスコンサートホールで聴いたコンサート等についてしたためたいと思う。(次回に続く)