四半世紀使用したCDプレーヤー ESOTERIC X-50w を買い替えた。途中はDACをかましてCDトランスポートとして使用していたが、SACDも増えてきたことだし、CDプレーヤーのパーツメーカーもどんどん少なくなってきて、日本以外では新製品の発売も減っているらしいから、ここらで新機種に買い直すことにした。
この30年でCDプレーヤーの変遷は、PHILIPS LHH300を経て、ESOTERIC X-50wからESOTERIC K-03XDとなった。
● オーディオ機器高騰の中、清水の舞台から飛び降りる
● 3枚のCDを持参しオーディオ店でCDプレーヤーを試聴
● 自宅で旧機種と聞き比べ ESOTERIC K-03XD VS ESOTERIC X-50w
● 驚いたことにCDにも産地があるらしい、カルロス・クライバーの音源聞き比べ
● オーディオ機器高騰の中、清水の舞台から飛び降りる
清水の舞台から飛び降りると言うが、その目的は「願掛け」である。13mの高さ、つまり4階建てのビルの屋上から飛び降りての運試しであった。その昔、200人以上が清水寺のあの舞台から実際に飛び降りたが、下に木々があって8割ちょいは死ななかったらしい。
CDプレーヤーは買ってから四半世紀、プリアンプも中古で20年ほど使ったので、そろそろと思ってオーディオの買い換えを進めているのだけど、それにしてもこの円安とインフレは困る。
不要になったものを売り払うのには、インフレは歓迎で、ケーブルなど過去に買って死蔵していたものが、全く値が下がっていないばかりか、購入時より高く売却できたりして、驚いてしまう。
一方、新規に機器を購入するとなると、一昔前の価格の感覚でいると目眩がするぐらいの高騰ぶりである。特に高級海外オーディオの世界はトンデモないことになっている。現地の物価高もあって定価がうなぎ登りの上に円安である。以前は200~300万円のスピーカーは最高峰の部類に入っていたのだが、今は入口のような価格帯になっているし、数千万円というスピーカーもちらほら現れ、億の単位のセットなんかも展示会では見かけるそうだ。中国の富裕層向けらしい。とても手が届くものでもないし、日本の店舗には並ばない製品も増えているような気がする。
いやはやである。日本の輸出向けの製品はそれにつられて、この2年でずいぶんと値段が上がった。日本の物価は諸外国に比べるとまだ低水準なことは実感できるのだが、それでも為替がせめて130円くらいまで戻らないことには、今後普通の生活にも影響が大きくなりそうだ。
それで、冒頭の「清水の舞台から飛び降りる」つもりで、このインフレの最中故に奮発して、ちょっと高めのCDプレーヤーに買い換えた。正直、オーディオ機器の買換えはギャンブルに近い。買換えたからと言って聴感上の音が良くなるとは限らないし、金額に見合った向上なども保証されない。願掛け、運試しの世界である。
購入したオーディオ機器を自宅で聴いてみると、イマイチと感じることも多々ある。特にオーディオ機器は通電して数日しないと本領を発揮しないのが普通なので、最初に耳にする音はショボいことも多く、これがけっこうガッカリして気落ちするのだ。
新しい製品で、そこまで最初から音が悪くなることは少ないのだが、それでも支出に見合う音の向上がみられないことはけっこうある。それで購入前に一応、試聴することにした。
● 3枚のCDを持参しオーディオ店でCDプレーヤーを試聴
一応と書いたのが、この試聴行為がほぼ役に立たないことがわかっているからだ。オーディオ店に出向いて、自分の好きな音源で候補の機器を聞かせてもらうのだけど、お店にはたくさんのスピーカーが並んでいて、音は共鳴はするから試聴環境としては劣悪である。
それにスピーカーもケーブルもアンプ類もすべて自宅とは違う構成になるのだから、自宅とは全く違った音しか聴くことができない。それでも、なんとか自宅に似た音になりそうな機器を指定して、試聴用のアンプやスピーカーをまずは選んで、自宅と環境を似せてはみる。そして候補のCDプレーヤーを聴かせてもらった。
試聴のために持参したCDは以下の3枚。
・ガーシュインのラプソディ・イン・ブルー (OPS 30-64)
Gershwin;Rhapsody in Blue Piano Georges Rabol/Jazzogene Orch
Opus 111レーベルは良い録音が多い。こちらの演奏はパリの教会で収録されたもの。冒頭で楽器が次々と登場し、教会の音場と響きの伸びと相まって、楽器位置やオケの横の広がりを見極めるのに最適なディスクである。このところ、試聴には必ず持参している。ただ、雑然としたオーディオ店内で、この音場を確認できたことはほとんどない。
・ビル・エヴァンスのザ・コンプリート・ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード1961 (VICJ 60951-3) The Complete Village Vanguard Recordings, 1961 /Bill Evans
こちらのディスク2のトラック5をかけてもらった。このトラック5は有名なワルツ・フォー・デビイ(テイク1)の直前の会場内の様子である。ヴィレッジ・ヴァンガードはこの雑音を確認するために前回のニューヨーク旅で再訪した(笑)。この天井が低くざわめく店内の様子がビル・エヴァンスの演奏前にたっぷり入っているのがトラック5。
平べったく広がったヴィレッジ・ヴァンガード店内に客のざわめきの拡散案配や客同士の会話が明晰に聞こえるか、続いてのワルツ・フォー・デビイの演奏へ導入の自然さなど様々なサウンドステージの確認ができるのがこのディスクである。
・松田聖子 Windy Shadow SACD (SSMS011) Windy Shadow / Seiko Matsuda
3枚目は松田聖子のSACDを持参した。いい歳のおっさんが他の客がいる店舗で松田聖子を大音量でかけるのは気恥ずかしいが、オーディオ店のスタッフはいかなる試聴ディスクが持ち込まれようと淡々と試聴させてくださるよう特訓がなされている(笑)。
このディスクではトラック6 Dancing Café をかけてもらう。打込の伴奏音がスピーカーの外側に大きく広がり、中央に松田聖子ボーカルが立つ。ただ、そのボーカルが若干伴奏と溶け込むサウンドなのが特徴だ。低音も豊かで機器の再生能力が問われる。ショップスタッフの方曰く、これが3つの中で一番CDプレーヤーの特性がわかると言っていた。
● 自宅で旧機種と聞き比べ ESOTERIC K-03XD VS ESOTERIC X-50w
結果として、店頭にある現有と同一メーカー ESOTERICのCDプレーヤーの中でちょっと格上のものを選んだ。ESOTERIC K-03XDと言う機種で、25年近く使っている今の機種の末裔である。
CDプレーヤーは2000年からESOTERIC X-50wという機種をずっと使い続けてきた。四半世紀駆動系の電化製品が働き続けてくれたのだから、たいしたものである。確か途中2回ほどメーカーにメンテナンスをお願いした。業務用機器をたくさん手がけるTEACの関係会社だけあって、サポートも手厚く安心して長く使えるので、今回もESOTERIC / TEACのものにした次第だ。CDやBlu-ray等のパーツ製造メーカーが減っていく中で、やはりCDプレーヤーのサポート体制は今後重要になってくるだろう。
このESOTERIC X-50wにはワディアという米国製のDACが内蔵されており、ワディアの音が時代遅れになった以降も、米国製のDACをCDプレーヤーとの間にかませて使い続けてきた。
そのESOTERIC X-50w と今回購入した ESOTERIC K-03XD 四半世紀の技術差を聴き比べると、ずいぶんと音像がくっきりはっきりとするようになった。そして、ブーミーさ(低音の締まりのなさ)が改善され、音にきびきびと締まりが出てきたと思う。しかしながら、筐体は同じサイズなのに収納箱が桁違いに大きくなったのにはビックリした。箱を保管するスペースがかなり必要になってしまった。
オーディオ店での試聴した際は松田聖子の高音質盤(SACD)が良い仕事をしてくれたのだが、自宅で聴くとこのボーカルの音がイマイチと判明する。聴き直してみると松田聖子の声は奇妙なことに廉価盤(選書シリーズ)の方が声が明るくて良い印象である。廉価盤はオリジナルソースからかなり手を加えてメリハリをつけたのかもしれない。一方、オリジナルテープから忠実にリマスターしたSACDは声が若干曇った感じである。
ただ、どのCDをかけても音像がとても立体的になったので、マドンナ / 『レイ・オブ・ライト』のディスクをかけてみる。このCDには3D映像の如く立体的な電子音がたくさん収録されている。電子音がスピーカーからせり出して真横で鳴ったりするのだ。実際、新しいCDプレーヤーでは、このサラウンド感がかなり鮮明になって嬉しい。これだと良い録音のものはオーケストラが眼前にシャキっと広がることは確実だろう。
・Ray of Light / Madonna (WPCR-2000)
そして、音の粒子が微細であるから音楽の表情がでてくるようになった。点描画が写真になったような感覚だ。そして、サウンドステージは低音が豊かで音は上方に高く伸びていくし、鮮度というかキレが抜群に向上した。
● 驚いたことにCDにも産地があるらしい、カルロス・クライバーの音源聞き比べ
この「宇多田ヒカル「First Love」都市伝説は実在した! CDはプレスで音が変わる」という記事には驚かされた。「なかでも◯◯◯の工場で生産されたものが最も高音質で、激レアである」という都市伝説を、同じCDを80枚以上も購入して、CDの音盤に産地があることを突き止めたのである。とても興味深い。
メタルマスターなどというレコードの原盤みたいな話も出てきて愕然とする。デジタルの世界でも音質に影響する音盤の個体差が歴然と存在するのだ。
これにつられて、クラシックの人気同一盤の比較試聴をしてみた。カルロス・クライバーが指揮するベートーヴェン 交響曲7番をSACD、リマスター盤、外盤、日本盤で聴き比べてみる。各盤を比較すると、各々では左右の音の広がり、音の密度にけっこうな差がある。ホールの残響は如実に違うし、演奏の印象も全く異なってしまうほどの差であった。
・SACD(471 630-2)
精彩を欠いた平板な音だがボリュームを上げると若干改善される。響きが人為的、最初は広がりや空気感が良いと感じたが、新CDプレーヤーだと粗が目立つ。SACDというフォーマットに騙されないほうがよい。せっかくのSACDを生かしていないリマスタリングが悪いのだと思われる。
・西独盤(415 862-2)
定位はしっかり目、残響は少ない感じだが、横に音が広がる感じが見事で、グラモフォンなりながら自然な録音。
・独リマスタ盤(447 400-2)
ドイツ・グラモフォン的な靄がかかった空気感渾然一体で定位は良くない。ただムジークフェラインの響きはこんな感じかも。音は真ん中に寄る。私が最も苦手な録音。
・日本初期盤(UCCG-2001)
残響豊かで定位もよく、ダイナミックレンジも大きい。副旋律も良く聴き取れる。意外や日本盤のこちらが1番良い。ホールの音質をとらえているし、ウィーンの雰囲気をとらえている。日本盤のリマスタリングはイマイチというのは都市伝説なのかもしれない。
これだけ人気あるCD音源でも、収録されている音がずいぶんと違うのだから困ったものである。今回CDプレーヤーを買い換えてより明瞭に違いがわかった。
尚、クライバーのベートーヴェンの7番の演奏としてはこちらのウィーンフィルのものよりも、バイエルン国立管弦楽団との1982年5月3日のライブのほうが、聴き応えがある。ゴツゴツドイツ音楽っぽいのだけど、乱舞しながらすさまじい推進力で突き進む様はこの指揮者ならではの演奏である。