金沢文化施設の2つの共通パス「金沢市文化施設共通観覧券」と「サムライパスポート」を携えて、金沢の文化施設巡りをしてきた。
金沢市の文化施設が最も集中するのは浅野川に近い尾張町と東山地区である。小ぶりながら楽しい博物館が多い。そして、泉鏡花や徳田秋聲、金沢文芸館と文学関連の施設も充実している。
また、金沢市内を離れた近郊には、金沢大学の資料館と石川県銭屋五兵衛記念館という興味深い博物施設もある。せっかく金沢まで来たので、路線バスを活用し、こちらにも足をのばしてみた。
そして、金沢には古書店も多く、古本屋巡りも楽しかった。これらも合わせてまとめて掲載した。
● 尾張町界隈
・金沢金融歴史資料館
・金沢蓄音器館
・柳宗理記念デザイン研究所
・泉鏡花記念館
・金沢文芸館
・武家屋敷 寺島蔵人邸
● 東山界隈
・金沢市立安江金箔工芸館
・徳田秋聲記念館
● 金沢近郊
・金沢大学 資料館
・石川県銭屋五兵衛記念館
● 金沢の古書店
・オヨヨ書林 シンタテマチ店
・オヨヨ書林 せせらぎ通り店
・文学堂書店
・近八書房
・加能屋書店
● 尾張町界隈
・金沢金融歴史資料館
北陸銀行金沢支店内にある小規模博物館。前身は1899年創業の第十二銀行と古く、加賀藩前田家と北前船主の出資によって設立。後に北陸120行もの銀行を吸収合併してきた歴史は深い。
棟方志功の銀行カレンダー、まだ無名の竹下景子を登用したキャンペーン等の軽い展示品も興味深い。
この資料館で、幕末期の金沢庶民の日記「梅田日記」の存在を知る。この内容が出色で、外食時のメニューや見世物で象やラクダなど見に行ったことが料金と共に詳細に書かれている。日記資料好きにとってはたまらない内容である。
・金沢蓄音器館
4万枚のSP、500台の蓄音機を収蔵する一大蓄音機ミュージアム、金沢で立ち寄ってよかった博物館の1つ。LPは聴き放題であるし、10台もの蓄音機でSP盤をかけて聴かせてくれる。電気を一切使わず、今や換えが効かないゼンマイを1台1台丁寧に巻きあげながら蓄音機で聴く音楽は格別。
豪華な家が一軒買えたほどの蓄音機の王様の音、100年前のエジソンが発明した 蓄音機の音、古いものから当時最高のものまで聴かせてもらい、未だにSPを愛聴する方がいる理由がわかった。レンジこそ狭いが相応にリアルな良い音がするのである。
試聴会での解説も面白い、エジソンもSP盤を販売したが、彼は針の縦振動にこだわりライバルに敗退した。
縦振動のレコード盤は厚く量産に難があり、更にPR下手だった故。
対するライバルはエミール・ベルリナー。横振動の薄いレコード盤で生産効率を高め、有名奏者を揃えてエジソンを打ち負かした。
調べると、そのベルリナーの興した会社がグラモフォンである。こちらは米RCA、英EMI、独グラモフォンの元の会社であり、今でも我々は彼の恩恵に授かっている。
・柳宗理記念デザイン研究所
工業デザイナー柳宗理は金沢美術工芸大学の教授であった縁から同大学が設立。ゆとりある空間で生活感ある彼のデザインを直接肌で感じることができる。
大学では、学生たちとの写真からも日常を大切にしていた様がうかがわれる。
展示品にキャプションは付されていないが、丁寧なガイドペーパーが設置されていた。
そして、壁に掲示されている彼の言葉が良かった。
-本当のデザインは流行と戦うところにある。
-伝統は創造のためにある。伝統と創造を持たないデザインはあり得ない。
-デザインは社会問題である。
・泉鏡花記念館
泉鏡花が愛読したと言う八犬伝を納める箱が美しかったり、地味に見物が多い。企画展の説明では、金沢からの上京する際は米原経由だったとある、理由は直江津経由は距離が倍となり旅費がかさむから。しかし、金沢と敦賀の間は徒歩か人力車を利用しなければならず、1913年の北陸本線が開通するまでこれが続いた。
鏡花は、極端な潔癖症で、生ものは一切口にせず、食事の際には何でも煮詰めてしまう。これを周囲が面白がり、更には迷惑するほどだった。熱燗も他人は飲めないほどに熱々にしてしまったらしい。
これについて他の仲間作家たちの証言が愉快。いただいたリーフレットにも詳細が記載されていた。
リーフレットにあった口絵の話も面白い。口絵に特徴のあった明治時代の2大出版社、春陽堂と博文館から出版されることや口絵を描かれることは作家として名誉あることだった。口絵で有名な画人の紹介もあり、今後の文学館巡りの楽しみになりそうである。ちなみに鏡花は濃い色が嫌いで茶とか鼠色は使用不可だった。
・金沢文芸館
1929年竣工の旧高岡銀行橋場支店、外見は3階建てだが階段を使うと中2階がある。
資料館というよりサロンの印象。ただ、五木寛之や文学賞に関する展示は豊富。現代作家含めて展示作家数は多く、スタッフも「盛りすぎ」との弁(笑)。文学館は土地に少しでも縁があれば取り扱うのは宿命か。
文学作品と照らし合わせた金沢地図が展示されている。これは便利で、お願いすれば印刷物をいただくことができる。
・武家屋敷 寺島蔵人邸
江戸時代の武士のお屋敷、その雪景色の庭園を静かに眺める。しかし武士と言えどもこんな寒い家で暮らしていたのかと(笑)。板の間が冷たく靴下からも足がかじかむ。たった1人の訪問なのにスタッフの方が暖房をつけ、木戸など開放し解説をしてくださった。
●東山界隈
ひがし茶屋街は、街並みの保存状態が良く惚れ惚れし、これにレンタル和装の観光客も景色に溶け込み華を添える。シーズンオフであると人もまばらで、風情を感じながら散策を楽しめる。そして、付近に立派な博物施設が2つほどある。
・金沢市立安江金箔工芸館
1万分の1ミリの金箔をつくる工程を詳細に説明する、製造機具や説明動画が豊富。工芸品の博物館の中で、最も金箔に関わる解説が詳細で、金屏風など工芸品の展示も。
豊富な動画があり試聴に時間を要するので、余裕をもって訪れたい。展示品の撮影が不可なのは残念。
・徳田秋聲記念館
文学館の多い金沢でも一際立派な資料館。ひがし茶屋街から記念館-浅野川への道も風情があり、秋聲が幼少期を過した街の面影を少し残す。館報「夢香山」が極めて秀逸、専門家の対談等が気軽に読め、内容充実。東京本郷の古い旧宅にはお孫さんが住まわれていることを、この館報で知る。
● 金沢近郊
・金沢大学 資料館
大学の歴史、前身の四高や師範学校からの系譜が資料と共に綴られている。もうひとつは主に理学系の備品展示で大学博物館のオーソドックスなスタイル。ただし、キャプションに興味をもたせる工夫が随所あり、学生に企画展示をさせるなど注視したくなるものが多い。
そして、精巧なムラージュやひょうきんな恐竜模型、リトグラフの人体図など見るべきものも多い。市内からバスで30分ちょっとかかるが、大学博物館好きは満足できると思う。
・石川県銭屋五兵衛記念館
場所は駅から離れ、バス利用だと難儀するが海運に興味があれば必見、北前船のすべてがわかる。
銭屋五兵衛は、鎖国の時代にあってロシアなどと交易をし、農政では産業育成を図り、加賀藩の財政支援までした豪商、自らも舟に乗り北米渡航の伝説まである豪傑でロマンな人。
館内は広く展示品も展示資料も多い。昭和の劇画タッチで五兵衛の人生をアニメで見られ、これはなかなかの仕上がり。乗船できる北前船の1/4模型も展示され、舟の詳細構造、当時の海図なども見ることができる。
● 金沢の古書店
金沢は文化的な土地で、古書店も多く、古本屋巡りも楽しかった。金沢市観光案内所には、なんと「石川の古書店案内」なるリーフレットまであり、古書店の営業中か否かを調べる手間が省け助かった。
・近八書房
なんと1789年創業の古書店。老舗中の老舗だけに郷土資料も多いが、一般古書も多数。東京では見かけない本も多く、岩波新書を一冊購入した。金沢の古書店案内の切り抜きを写真に撮らせてもらう。
・オヨヨ書林 せせらぎ通り店
あまりに渋い建物で外観を見て悶絶してしまった。中はとても広く、少々寒いが古本好きには天国のような空間。雑多な本と豊かな空間から千駄木時代の古書ほうろうを思い出した。
・加能屋書店
マンションの1階でそこそこの広さある古書店。棚数が多く、扱う書籍も雑多で楽しめる。ドイツの珍しい博物館本に巡り会う。氷見にも分店があり、そちらも紹介された。
・文学堂書店
入店するとストーブの暖かみを感じるなんとも古風な古書店。一昔前の一般書も多く、自分好み古本屋さんである。来店中でも平気で奧にひっこまれてしまう店主も客を信頼している感がある。新潮選書と朝日選書から、これまで出会えなかった本を購入。
・オヨヨ書林 シンタテマチ店
細い通路の両脇にぎっしり本が並ぶ、アート系を得意にしているらしく大判の本も多い。なんと1967年の雑誌「レコード芸術」を見つけ購入。どの奏者も若い、オーディオの広告も新鮮でページをめくるのが楽しい。