なにもない原野に空路だけは確保されているのもユーコンの特徴、陸の孤島でもあるユーコンは陸路より空路が主流なのであろう。そして、こういった荒れ地に離着陸できる技術をもったブッシュパイロット(Bush Pilot)が大活躍している地でもある。このアラスカの自然を愛し、戦闘機乗りからブッシュパイロットに職を転じた湯口 公さんの『アラスカ極北飛行』を読んだ。
● ユーコンは航空機の王国でもあった
● ブッシュパイロットに転じた日本人戦闘機乗り
● ユーコン航路を専門にしたエアライン、エアノース
● ユーコンは航空機の王国でもあった
ユーコンのドライブでは、動物以外にも楽しみがある。それはこの地に特有の航空機やその施設が見られることだ。
道中に、緊急用滑走路を兼ねた広い道があった。丘陵地帯が続くので、専用の長い滑走路を造るよりも道路を滑走路にするほうが手っ取り早いのだろう。見晴らしのよい高台の直線道路は絶好の滑走路となる。
そもそもこういった緊急用の空港だけでなく、約100km毎くらいに砂利もしくは芝生の滑走路がある。そばを通ると、セスナ機を使ってユーコン中を飛び回ってハンティングをしている方々が手を振ってきた。人間には1日に数名しか出会わないので、人影はホッとするし、こちらもすかさず手を振る。
こうして出会うハンターの方々は、荒野の空をセスナで飛びまわって猟をしたり、フロート(浮き舟)付きのセスナを湖面に止めて、釣り&キャンプを楽しみながら湿地帯中をまわったりしている旅人だ。
ツンドラタイヤと呼ばれる極太のタイヤを履いたセスナ機は、砂利を敷いただけの滑走路でも難なく離着陸できる。しかし、このセスナを操れる腕前を持つ「ブッシュパイロット」は限られるので、チャーターしているのだろう。
ブッシュパイロットとは現地の職業の1つだ。彼らの多くはエアタクシーと言われる航空会社に属している。空のタクシーとはユーコン独特である。これらの会社は自社のインターネットサイトやFacebookにパイロットが空から撮影した写真を掲載しているのだが、これが息を飲むほど美しい。
Air Taxi会社のFacebookページにはこのような写真が時折アップされる。
また、ツンドラタイヤを履いた航空機が何げなく庭先に駐機していたりするから、飛行機好きにはたまらない。思わずコクピットを覗き込んでしまう。
アラスカのトック(Tok)という街で給油をしていた時の話であるが、飛行機が突然ガソリンスタンドに入ってきて驚いたことがある。よく見ると飛行機を運んでいる途中のようだ。カヌーや船、バギー、自転車等をピックアップトラックで運んでいる光景は、北米ではよく見かけるが、飛行機をまるごと運ぶ様は初めて見た。飛行機が不可欠なこの地ならではの風景である。
いずれにせよ、ユーコンやアラスカでは航空機が最適な乗り物であり、セスナでの旅はロマンいっぱいの体験になること間違いなしである。お気に入りの飛行場を決めたら、しばらくその土地でキャンプをしつつ、セスナで付近を大空から散策する。なんて魅力的な旅だろう。そんな旅人たちのために、フェアバンクスのような大きな空港ですら、飛行機の横にテントが張れるようになっているらしい。
● ブッシュパイロットに転じた日本人戦闘機乗り
自衛隊F15の戦闘機乗りの方で、訓練飛行を行ったアラスカの大自然の美しさに惹かれ、ブッシュパイロットに転じた方がいらした。『アラスカ極北飛行』を書かれた湯口 公さんである。
この本を読むと、ブッシュパイロットの日常がわかる。また、燃料を貸してくれたり、プロペラをさりげなくヤスリで削って整えてくれたりと、アラスカのパイロットたちとの交流話も楽しい1冊だ。
アラスカ開拓史は航空機の発達史そのものだったらしい。道路を整備できない地形と気候ゆえに、航空技術の発展がそのまま遠隔地への物資供給のカギとなった。そのため、ブッシュパイロットはフロンティア精神のあらわれ、とある。
ユーコンやアラスカの航空事情については、ホワイトホース空港の脇のユーコン運輸博物館(Yukon Transportation Museum)があり、ここのサイトで「ユーコン航空の100年」や「ユーコンの航空機」を俯瞰して眺める記事がアップされている。
このサイトの「 ユーコンの航空機 」の筆頭にあるダグラスDC-3は、博物館のシンボルとして目の前に実機が展示してある。しかも、この飛行機は風見鶏として機能しており、世界最大の風見鶏として名高い。稼動する台座の上に飛行機をそのまま載せており、離陸で滑走路に並んでいる時と同様に、常に風を指している。軸上でうまくバランスをさせているので風速2.55m/sの風で動くそうだ。
このDC-3は、もとは軍用機C-47として購入されたもので、のちに旅客用にDC-3に換装された。カナダ全土を運航された後は、ホワイトホース~ドーソンシティ間で就航しており、地元民には思い入れのある機体である。
C-47 輸送機の詳細については、以下のブログ記事「海外ツーリング-フランス編 3」をご参照ください。
● ユーコン航路を専門にしたエアライン、 エアノース
ユーコンにはエアノース(Air North, Yukon’s Airline)という、ユーコン航路を専門にしたエアラインがある。点在する町、陸路では行けない村へ定期便をだしているのだが、オールドクロウ(Old Crow)という、陸路ではアクセスできない集落にもAir Northは連れて行ってくれる。
エアノースのFacebookページにも、パイロットの撮影した美しい写真や旧型機の写真が満載なので、ぜひ見てほしい。眺めているだけで楽しい。
いつかエアタクシーやAir Northに乗って、山あいの村や海辺に行ってみたいと思う。