ミュンヘンで体験する欧州の技術大国ドイツのテクノロジーの発展史 1 / 科学博物館の王様 ミュンヘンのドイツ博物館

ミュンヘンで体験する欧州の技術大国ドイツのテクノロジーの発展史 1 / 科学博物館の王様 ミュンヘンのドイツ博物館

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ミュンヘン(München Munich)には、歴史も貫禄も世界一の科学博物館と思えるドイツ博物館がある。敷地も広大、展示内容は科学の全分野に及ぶかと思える多種多様の展示であり、館内をざっと見るだけで丸二日を要するほどである。
このドイツ博物館の往年の姿については書籍『科学博物館からの発想―学ぶ楽しさと見る喜び』に詳しい。なんと戦前のドイツ博物館の記述まである。このスケールの大きな科学博物館の魅力をドイツ博物館の歴史とあわせてまとめてみた。

佐貫亦男氏の見た戦前のドイツ博物館(Deutsches Museum)
ドイツ博物館の歴史
ドイツ博物館を訪れる

● 佐貫亦男氏の見た戦前のドイツ博物館

古書店の均一棚でボロボロのブルーバックスを見かけた。『科学博物館からの発想―学ぶ楽しさと見る喜び』というタイトルで、博物館好きなら見逃せないタイトルである。手に取ってみると昭和57年10月第1刷とあり、どのページの紙も変色し、シミもあるボロ本である。

しかしページをめくってみて驚いた。科学博物館と銘打っているものの、その内容は大好物の航空博物館についての記述が大半を占めている。
著者は佐貫亦男(さぬきまたお)という航空エンジニアの方で、飛行機関連のエッセイも多数書いておられる。文章は洒脱で、多趣味かつ旅好きな人であり、つまらない訳がない。この本を手にとって以降、佐貫氏の著作物を何冊も読むことになった。

本書の内容をざっと見ると欧州各国の科学博物館の論評である。日本の博物館については腐している表現も目立つが、その目線は博物館愛に溢れている。そして、その博物館への愛故に、ドイツとイギリスの博物館の展示の優劣まで細かく記述してあり、こういった部分も面白い。『イギリス人は人の心をよく知っている故に、楽しい見せ方が可能である、一方、ドイツは技術は知っており親しみやすくする努力が抜群だが、楽しませることが不得手』だそうだ。無骨なドイツの博物館群を思い出すとどことなく頷ける話である。

ロンドン科学博物館のビッカース ビミー (Vickers Vimy)@The Science Museum
ロンドン科学博物館のビッカース ビミー (Vickers Vimy)@The Science Museum

本書で、とりわけ多くのページを割いているのが、ミュンヘンのドイツ博物館についてである。佐貫氏はヤマハの前身の会社で技術者として、戦前にドイツ企業へ赴任していただけあって、戦争前のミュンヘンのドイツ博物館まで記されており、これが希有なドイツ博物館ガイドとなっている。

ドイツ博物館の地下には、鉱山の坑内を再現した全長500メートルほどもある洞窟の展示が備わっている。佐貫氏によると、これは戦前からあり、博物館の目玉だったことがわかる。建物の地下にこれだけの坑道を造るのは驚きであり、訪れた自分もどこまで続くのかとびっくりした次第なので、博物館を訪れた当時の人々もさぞかし驚いたことであろう。

坑道入口 @Deutsches Museum
坑道入口 @Deutsches Museum

更に地下には潜水艦が展示してあると書いてあることから、第一次世界大戦中の巨大な潜水艦 U-1(1906年竣工)も早くから設置されていたことがわかる。

潜水艦 U-1の艦橋 @Deutsches Museum
潜水艦 U-1の艦橋 @Deutsches Museum

ちなみに、シカゴの科学博物館も地下にドイツのUボートを展示していたが、これだけ大きな潜水艦を当時の方々はどうやって内陸のミュンヘンのこの博物館にはこび入れたのだろうか。潜水艦 U-1の側には、第二次世界大戦時に運用された小型潜水艦(特殊潜航艇) UボートXXVII型 ゼーフント(Seehund)も展示されている。

特殊潜航艇 UボートXXVII型 ゼーフント Seehund @Deutsches Museum
特殊潜航艇 UボートXXVII型 ゼーフント Seehund @Deutsches Museum

更に、この本によると展示ブースは測定器、光学機器、音響学、化学、建設、天文学、繊維、製紙印刷等々とあるので、1925年の開館当時から展示構成の素地ができていたようで、当初から力の入った博物館であったことがわかる。

佐貫氏は、ドイツ博物館を1日で見学することなど不可能、1週間は必要と言われたとあるが、このことは現在も同じで、自分の訪問時も2日に分けて見学して、全て見終わった感だけは得られたような感じであった。説明書きをすべて読んでいたらそれこそ1週間は優に要するだろう。敷地面積5万㎡もある博物館とういうのは伊達ではないのである。

広いドイツ博物館 @Deutsches Museum
広いドイツ博物館 @Deutsches Museum

当時の展示方法について、佐貫氏は手入れが完璧と褒めているので、それほどまで迫力ある美しい博物館だったのだろう。しかし、その後の第2次世界大戦でドイツ博物館は大被害を受けたとある。無事だったのは気圧気温を示す塔とその周囲だけだったらしい。1954年に再訪した際、再度の開館したばかりだったそうだが、展示数は以前の1/10にも満たず、見学に1時間も要さなかったとある。

ドイツ博物館の塔とイザール川 @Deutsches Museum
ドイツ博物館の塔とイザール川 @Deutsches Museum

その後も佐貫氏はミュンヘンを訪れる際にドイツ博物館に通ったようだが、複製も多く、展示方法も劣化してしまったと航空エンジニアらしく、複葉機の展示を例に嘆いておられる。また、第2次大戦機の展示については『これだけ高度な技術なのに技術説明が少なくロマンがない、不親切である』と散々な評価であるが、ご自身も航空エンジニアとして戦時中に深く関わってきた分野なのだからわからぬでもない。

今もフォッカー Dr.I の展示はレプリカ @Deutsches Museum
今もフォッカー Dr.I の展示はレプリカ @Deutsches Museum

● ドイツ博物館の歴史

ドイツ博物館外観 @Deutsches Museum
ドイツ博物館外観 @Deutsches Museum

ドイツ博物館の創立者はオスカル・フォン・ミラー。彼は電気工学の専門家で、ロンドンのサウスケンジントン博物館(ロンドン 国立科学産業博物館 National Museum of Science and Industry)に刺激を受けて、ドイツ博物館の建設に着手をした。今でもドイツ博物館内の目抜き通りスペースに、電気の大きな設備展示がゴロゴロあるのはその名残かもしれない。

バリバリと大きな音をたててのデモをする電気工学の展示 @Deutsches Museum
バリバリと大きな音をたててのデモをする電気工学の展示 @Deutsches Museum

また、今ではどの科学博物館でも標準となっている展示手法-大きな機械のカットモデルやジオラマ-はミラーによって始められたらしい。大衆の興味をかき立てる為のこうした工夫に、当時の日本の若手技術者であった佐貫氏が惹かれるのももっともである。

風車のジオラマが並ぶ @Deutsches Museum
風車のジオラマが並ぶ @Deutsches Museum
船底修理のジオラマ @Deutsches Museum
船底修理のジオラマ @Deutsches Museum
建物や機械のカットモデル @Deutsches Museum
建物や機械のカットモデル @Deutsches Museum
大きな船もカットして展示 @Deutsches Museum
大きな船もカットして展示 @Deutsches Museum

ドイツ博物館の創立をミラーが呼びかけたのは1903年だったが、第1次世界大戦のため開館は10年遅れてしまった。そして、1925年のミラー70歳の誕生日についに開館のはこびとなる。オープニングの式典にはあのリヒャルト・シュトラウス指揮でベートーヴェンの第9が奏でられ、市民は仮装して街を練り歩くなど大騒ぎだったという。

● ドイツ博物館を訪れる

ドイツ博物館はミュンヘンと言う内陸に位置しながらも船舶関係の展示が充実している印象を受けた。エントランスすぐには大きな船舶が鎮座し、古今東西の舟の模型が中央の船舶を取り囲んでいる。地下にも先の潜水艦のみならず、航法関係の展示や艦船模型が並ぶ。
船舶関係は前年のハンブルクの博物館巡りで勉強させてもらったので、今回は由緒ある博物館で体系だってひとまとめに見られたのはありがたかった。また、ドイツ博物館なのでハンブルクやブレマーハーフェン関係の展示もあり、海運や港町の歴史のよい復習ともなった。そして、見事な船舶模型の数々は眺めているだけで、時を忘れるほど楽しい。

1階のメインは船の展示 @Deutsches Museum
1階のメインは船の展示 @Deutsches Museum
ハンブルク港のジオラマ @Deutsches Museum
ハンブルク港のジオラマ @Deutsches Museum

その他、エネルギーの発展史、ガラス、窯業等々あらゆる産業におよぶ科学テーマが、とにかく広い敷地や上層階に展示が並ぶ。解説などろくに読まないで、すべてを歩くだけで4時間を要した。

やはり、印象に残るのは先に触れた採掘(坑道)の展示である。博物館地下に設置されており、いつ終わるともしれない地下の細い坑道を延々と歩かされ、その所要時間は10分以上。息苦しくなるような、暗くて長い展示である。アップダウンも頻繁にあり、よくぞこんなものを博物館建物の地下に造ったな、と感心することしきりである。

坑道内を散策 @Deutsches Museum
坑道内を散策 @Deutsches Museum

坑道の途中には、ちょっとした採掘関係の展示も配置されていて、飽きることはない。

採掘現場のカットモデル @Deutsches Museum
採掘現場のカットモデル @Deutsches Museum

ひとしきり博物館を巡ると、あらゆる技術にドイツの技術者は関与しており、佐貫氏の『科学博物館からの発想』に記述されている「ドイツで発想されなくとも、ドイツで完成しない科学技術はない」と言う所以がよくわかった。

ちなみに、通常ミュンヘンの博物館は月曜日休みだが、ドイツ博物館は奇特にも月曜日も開館しているので月曜日に訪れるのもよい。

ドイツ / ミュンヘン

<詳細情報>
・科学博物館からの発想―学ぶ楽しさと見る喜び 佐貫亦男著

・ドイツ博物館(Deutsches Museum)
Museumsinsel 1, 80538 München

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