先日、オーディオ店で入社4ヶ月の若者から指南を受けた。この時に痛感したのは、やはり若者は耳が良いことである。一緒に試聴したのだけど、うらやましいほど耳が良い。そして、各メーカーの音の比較を尋ねると、雑誌など評論家のコメント(たいていは年配の方)と逆の評価なのが面白い。この耳の良い販売スタッフの意見が大いに参考になった。そして、彼らのデジタルアンプへの抵抗感のなさに驚かされもした。
そこで、よりデジタルアンプを生かすことと、ネットワーク対応を強化する為にサブシステムにTechnics SL-G700 の導入を決めた。
○ デジタルアンプを巡る状況
○ 侮れない日本のオーディオメーカー
○ なんとテクニクスTechnicsを選択する/Technics SL-G700
○ デジタルアンプを巡る状況
長らくデジタルアンプを使っているのだが、オーディオマニアの中ではまだまだ少数派である。大きなスピーカーをやすやすと鳴らすデジタルアンプに出会ってから、メインシステムもサブシステムもすべてデジタルアンプに切り替えた。
パワーアンプについては、以下のブログ記事「オーディオシステムの変遷-パワーアンプ編 / 管球アンプからデジタルアンプへ。静電型スピーカーをドライブするには強力なパワー必要だった」をご参照ください。
ハイスピードで濁りのない音の特性から原音再生にはデジタルアンプこそ向いていると感じたのがその理由。能率の低いスピーカーをずっと使い続けていることにもパワフルなデジタルアンプに惹かれる理由であるのだけど、なによりもこの新技術のアンプの素直な音がとても自分にフィットしている。
ただ、昨今のレコードブームもあって、オーディオ機器はアナログが追い風、管球アンプも人気である。こんな状況なのでデジタルアンプは未だに主流になり得ないでいる。海外のデジタルアンプ製品は中国を除いて、かなり少ない。デジタルアンプの音は「細い」とか、「硬くて冷たい」とか言われており、未だに流行らない。でも、デジタルアンプの音は解像度が高く生々しいのだから、そんな印象を持たれることもあるだろう。良いデジタルアンプは弦楽器もボーカルも目の前にいるかのようなリアルな音で再現して、写実的なことを称して「硬くて冷たい」なら仕方あるまい。
そんな話を若い販売員の方々と話をしていると、全体の流れがアナログアンプやレコードに回帰している理由を教えてくれた。その理由とは、長らく劣悪なデジタル音源を聴いてきたから、アナログのローファイ(Lo-Fi)の音が新鮮に感じるからだというのだ。これには、なるほどと思った。
CDでも低レベルのリマスターを含めて音質が悪い録音が昨今非常に増えたし、80年代のCD登場時のCDにも粗悪なものも多かった。その昔は中音域が薄くて目立つように高域と低音を強調したドンシャリ型、一方で最近の粗悪CDは中域ばかりを強調して耳聞こえだけが良い圧縮音源型が多い。これを聴いていた人がアナログの音を聞いて「良い音」と飛びついたのだ、と。
もうひとつ印象的な話はデジタルアンプの利幅が少ないとも(笑)、販売する側からすると売りにくいというのは販売員ならではの見立てである。効率的なデジタルアンプはハイエンド製品でも価格設定が比較的低い。だから売っても儲からない、と言うのだ。それで老店員たちがデジタルアンプをくさすのかもしれない。たぶん日本のオーディオ雑誌も同様だろう。
そんな訳でオーディオの世界では、デジタルアンプがいまひとつ元気がない。ただ、そんな逆風下で頑張っている日本企業がたくさんあることも教えてもらった。この話は日本企業の地盤沈下久しい中で、いろいろな意味でじんわりきた。
○ 侮れない日本のオーディオメーカー
2014年にパナソニックが「Technics」を復活させたが、彼らの主流製品はなんとデジタル技術のオーディオである。テクニクス得意のレコードプレーヤーですら、デジタル技術とかけ算をしようと技術開発をしているくらいだ。こういうことは松下ではなくソニーのお株だったので、教えてもらってびっくりである。(一方、最近のソニーのオーディオはあまり元気がない。)
その他にも、SPEC(https://www.spec-corp.co.jp/)という パイオニアが事業縮小した際に退職した方々が設立したデジタルアンプ主流の会社もある。Nmodeというブランドが認知され始めたLyric(https://www.nmode.jp/)という日本企業はシャープで1ビットのデジタルアンプを開発した人が設立した。更には小規模ながら逢瀬(https://ause-audio.com/?page_id=23)という魅力的な製品群を細々と打ち出しているガレージメーカーもある。
ガレージメーカーと言うと怪訝な顔になるかもしれないが、そもそもオーディオの主流である米国オーディオメーカーはガレージメーカー発祥のブランドも多いし、そういった企業がオーディオの技術革新を牽引してきた。
自分もそれらの素晴らしい米国製品に触れたがためにオーディオの世界に入った。自分の耳を育ててくれたのはかつて音楽喫茶店にあったタンノイのスピーカーであったけれど、オーディオに魅了されたのは米国初のフレッシュで研究心たくましい技術者による製品たちで、それを紹介してくれた青山にあったオーディオ店であった。
○ なんとテクニクスTechnicsを選択する/Technics SL-G700
オーディオに関してはそんな経緯もあって、日本製品を敬遠し海外製ばかり使ってきた。そもそも日本のオーディオ機器は、コンサートなどあまり行かず、音楽を聴いていなさそうな技術者の手による製品と決めつけてしまっており、サラリーマン開発者による無難な製品が多いと先入観をもってしまっていた。それに、かつては面白そうと思う製品を造るのはソニーぐらいであった。ところが、今は日本企業がベンチャー精神をもって奮闘し始めた。
耳の良い若者たちに勧められて、なかなかと思ったのがテクニクスのCDプレーヤーだった。長らく使っているCDプレーヤーはメインシステムもサブシステムも25年以上前の代物である。そこでCDやレコードプレーヤーなど駆動系はそろそろ買換え時期であったので、この提案が琴線に触れた。
勧められたテクニクスの製品はSACDも再生できて、ネットワークプレーヤーにもなるので「ながら聴き」をするサブシステムに案配が良い。リモコンやタブレットでたいていの操作ができるのだから片手間に使うにももってこいである。また、新製品が出たばかりなので旧型が値崩れしているのも好都合。サブシステム用にTechnics SL-G700を使うことにした。
その結果、1991年発売のMarantz CD-72 はお役御免になったが、驚いたことに、こんな旧製品が名機種故にか、ずいぶんと高値で売却できた。
それで、このCDプレーヤー Technics SL-G700を設置し、今までプリアンプ代わりに使っていたDAC NuPrime DAC-9をデジタルパワーアンプNuforce stereo8.5 v3にかましてみたが、音に期待したほどの変化はなくがっかりした。そこでダメ元と思い、Technics SL-G700をパワーアンプ Nuforce stereo8.5 v3に直結してみた。するとキレある鮮度良い音が飛びだしてくる。音の鮮度ではメインのシステムを追い抜いてしまいそうな良い音でこれには驚いた。広域から低域までフラットにまんべんなく音を再生しデジタルアンプとの相性も抜群である。正直、サブシステム用と割り切って使っていたスピーカーKEF Q700からこんな音がでてくるとは思いもよらなかった。
それで結局は5年ほど使ったプリアンプ代わりのDAC NuPrime DAC-9も不要になり、こちらも手放すことにして、結局のところTechnics SL-G700 購入代金をまかなえてしまえた。
しかし、まさか松下電器のオーディオを自分が使うようになるとは思いもしなかった。耳にしているリアルで素晴らしい音と、かつてのテクニクスのテレビCMのダサさとの脳内ギャップがもの凄いことになっている。
冒頭写真のCDは、CD登場した直後、背伸びして買ったケルンコンサート、CDは擦り切れないけれど、擦り切れるほど聴いた。生々しさが倍増して聴いて心地よいことこの上ない。
それから30年あまりを経て、やっとサンベアコンサートを入手。少々高価だが初期盤で揃えた。こちらは凄腕の日本人エンジニア 菅野沖彦氏が関わっていて、優秀録音とされるケルンよりさらに録音が良い。