オーディオシステムの変遷-レコードプレーヤー編 / LINN AXIS  LP12の廉価版がまだまだ現役、オーバーハング調整ゲージやデジタル針圧計を使って調整を

オーディオシステムの変遷-レコードプレーヤー編 / LINN AXIS LP12の廉価版がまだまだ現役、オーバーハング調整ゲージやデジタル針圧計を使って調整を

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若かりし頃に購入した国産のダイレクトドライブ方式のレコードプレーヤーを経た後、しばらく米国製のSOTA sapphireを使っていた。その後、時代も変わりフォノイコライザーのないプリアンプに切替えた際、レコード再生からしばし離れてしまった。
しかし、かつて収集した大量のレコードを再生したい気持ちがやまず、急場しのぎでLINN LP12 の廉価版である AXIS を購入するも、それが定位置を占め、今に至るまで使い続けている。
カートリッジは ORTOFON MC Kontrapunkt-a、フォノアンプは国産の SHELTER model216 と中堅どころで構成したレコード再生のセットは健在で、そろそろ使用歴が20年となる。
デジタル針圧計やオーバーハング調整ゲージなどを購入し、久方ぶりに LINN AXIS の調整をしたところ、激烈に音場感が改善したので、あらためてレコードプレーヤーについてまとめてみた。

LINN AXIS と 現在のレコードプレーヤーの構成
古書店で外盤LPレコードを買い漁る
レコードブームの中、オーディオ店も巡ってみた
レコードプレーヤーの調整、アクリルゲージでオーバーハング調整とトラッキングエラー調整
レコードプレーヤーの調整、デジタル針圧計を使って驚いた
LINN AXISの軸受けオイルの充填とヒンジ交換
LPレコードの名盤の数々を試聴

——海外のコンサートホール、かつての歴史的なコンサートや名演に誘ってくれるのが自分にとってのオーディオ。なぜ旅ブログでオーディオか、というお話はコチラになります——

● LINN AXIS と 現在のレコードプレーヤーの構成

若かりし頃は国産のダイレクトドライブ方式のレコードプレーヤーに DENONのDL-103という定番の針の組み合わせでレコードを楽しんでいたが、以前の記事「コンサートホールを再現する」にてご紹介したように、美しいプレーヤー SOTA sapphire / GRADO Signature tonearm を薦められて、分不相応にも手を出してしまった。それがベルトドライブ方式のレコードプレーヤーとの出会いであり、繊細な音を拾ってくれると盲信して、以来なんとなくベルトドライブ方式に愛着を持っている。

オーディオシステムの変遷 SOTA sapphire / GRADO Signature tone arm
SOTA sapphire / GRADO Signature tone arm

しかし、プリアンプを買替えた際に、フォノイコライザー機能がなくなってしまったので、SOTA sapphire もその際に手放してしまった。しかし、膨大なLPレコードを聴く術がなく少々寂しくしていると、目にとまったのが LINN(リン)の廉価版レコードプレーヤー LINN AXISであった。

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LINN AXIS
LINN AXIS

このプレーヤーはお手軽価格ながらベルトドライブ方式でよい音がする。デザインも同じメーカーのLINNの高級機 LP12に似てシンプルかつ落ち着いてみえる。調べてみるとLINN LP-12と基本構造やパーツはほぼ共用しているところが多い。そのためメーカーにも利幅が少なかったらしく製造も短期間で販売終了となってしまったらしい。逆を言えば、ユーザーにとってはお得なありがたい話である。ベルトドライブ方式のプレーヤーは高額品が多い割に、こなれた価格設定なのも納得できた。

プレーヤーが決ったのでカートリッジ(針)を別途選ばなくてはならない。そこで、いまだに職人が手巻きでコイルを巻いているオルトフォン製にした。カートリッジは選択巾がそもそも多すぎて迷うが、カートリッジを度々は交換するつもりはないので、できるだけ中庸のもの、かける曲を選ばないものがよい。そこで、コストパフォーマンスが良く、繊細との触れ込みにつられ Ortofon MC Kontrapunkt-a とした。ただし、実のところ選択理由としては「対位法」を意味する Kontrapunkt という名称とバッハの生誕250年にちなんで名付けられたという部分に惹かれたことが大きい。

オーディオシステムの変遷 Ortofon Kontrapunkt "a"
Ortofon Kontrapunkt “a”

フォノアンプは国産ながら定評ある SHELTER model216 を購入した。プリアンプにフォノイコライザー機能がなくなってしまったので、MM/MC両方のカートリッジが使えるフォノアンプにした。パワーがあるという評判なので、アメリカ系のアンプやスピーカーで構成されている今のシステムと相性がよいのではという短絡的な発想であった。

オーディオシステムの変遷 SHELTER model216
SHELTER model216

レコードを取り出したらすぐに音楽を聴きたいという、真っ当なオーディオマニアとは言えない自分には、SOTA sapphire はあまりに大仰すぎた。その一方、このLINNのAXISというプレーヤーは塩梅がよい。カートリッジ(レコード針)を都度交換する気などは全くないので、設定や調整などやることが少ないのが大いに助かるプレーヤーなのだ。レコード再生がメインではない場合は、かえってこの手軽さのほうが具合がよい。

LINNの製品の中でも、動作が安定し精巧なターンテーブルはマニアには魅力だが、遊び要素の少ないLINNのトーンアームは逆にマニア受けしないようだ。LINNのトーンアームは調整事項も少なく、一見するとチャチに見える。カートリッジは軽量のものしか取り付けられないし、アームヘッドが小さいものだから、ここでも取り付けられるカートリッジにも制約が多少生じてしまう。ただ、そんな割り切りが、ものぐさの自分にはちょうど良かったりもする。

● 古書店で外盤LPレコードを買い漁る

こうして、たまにレコードを聴くくらいだと、現状のレコードプレーヤーシステムにあまり問題を感じずにきてしまった。しかし、昨今のレコードブーム到来である。街中でレコードを見かけることも多くなった。よく行く古書店なんかにもレコードが出品されていたりする。投売り価格で、アメリカ盤やイギリスプレスのDECCAやらMercuryやら Capitol Recordsに EMI、LONDONレーベルなんかを見かけると、もうたまらない。つい中身にこだわらず買ってしまった。

オーディオシステムの変遷 久しぶりに外盤LPレコードを買い漁る
久しぶりに外盤LPレコードを買い漁る

掘り出し物はアンソニー・コリンズ指揮 ロンドン響のシベリウス。Decca Eclipseという廉価版ながら迫力の演奏が納められているレコードであった。当時の楽団なので演奏に多少の荒さがあるが、壮大かつ悠然たる演奏で驚いた。録音が1952年-1955年で作曲者のシベリウスが存命中であり、指揮者はシベリウスとも親交があったらしい。そして、録音エンジニアは名手ケネス・ウィルキンソンがノンクレジットながら関わっていたようだ。このCDは絶版であるし、こういう出会いがあるからレコード購入も楽しい。

● レコードブームの中、オーディオ店も巡ってみた

こうしてレコードを買うようになってくると、ほかのレコードプレーヤーも少々気になってくる。そして、使っているLINNのAXIS を検索してみると、そろそろ寿命なのか、あちらこちらで故障し、手放したオーナーも多いようだ。海外メーカーは代理店さえあれば、金額こそ値が張るが気軽に修理を請け負ってくれるので、壊れてももう少し使おうかと思いきや、LINNジャパンのメーカー修理対応もAXISに関してはとっくに終わっていた。もともと低価格品なので、高いお金をかけて修理屋に頼む気にもならない人も多いらしく、こんなことから中古市場でも、あまり見かけない機種となりつつある。

LPレコードを買ったり、LINN AXISの先行きに不安を感じたりもあって、最近のプレーヤー動向はどうなんだろうとオーディオ店を冷やかし感覚で、何店舗か巡ってみた。昨今のレコードブームのおかげでレコードプレーヤーの新製品は一時よりも多い気がする。中古市場もなかなか盛況のようで、超弩級の製品は以前ほど見かけなくなったものの、手頃なものが山のように出揃っていて、昭和かと感じる。そして、レコードプレーヤーの価格自体もデフレのせいか以前より安くすら感じる。

オーディオシステムの変遷 レコードプレーヤー各部名称
レコードプレーヤー各部名称(デジマートマガジンより)

レコードプレーヤーで大事なのは、まずは回転するターンテーブル。ただ回っているだけに見えるが、速度は安定していなくてはならないし、針に正確に音を拾わせるには外部からの振動に強くなければならない。つまり良いモーターとうまい具合に浮いて、床などからの微細な振動をもレコード盤面に伝えないようにする必要がある。それでベルトドライブ方式が有利と言われており、自分もこちらの方式を盲信している。店内を眺めてみるとベルトドライブ方式のものも海外品を中心にけっこう出回っているようだった。

次に大事なのがトーンアーム。決められた一定の圧力で、円形のレコードの細い溝を、針は可能なかぎり正確な角度でトレースする必要があるのだから、トーンアームは精密機器そのもの。以前と比べてカーボンなどの素材も増えたので選択幅も広く、かつて高嶺の花だったアームも中古なら比較的に安価に手に入るように思えた。こうなってくると買替えたくもなってくる。

英国のトーンアームメーカーに SME社というのがあって、これが見栄え良くカッコ良い。如何にも良い音がしそうで、レコードから繊細な音を拾いまくってくれそうだ。そこで店舗スタッフに「これいいですね、どうなんだろう?」と気軽に声をかけたところ「使い方はわかるのか?」と問われ「マニア受けはするが、設定がとてもたいへんだから辞めておけ」と無下に言われてしまった。

オーディオシステムの変遷 SME 3009 Series II トーンアーム
SME 3009 Series II トーンアーム

こちらの性格なんかお見通しで、売ったはよいがあとの返品などクレームを恐れたのかもしれない。むしろ、高いものを売ろうとしない面白い店員さんなので、シェル(針を取り付けるアームの先端部品)によって音がどれくらい変わるかなんかを教えてもらったりすると会話がはずんで楽しい。そして、シェルに穴が開いたのは「鳴く」から最初は普通のがよいかも、などと指南を頂戴する。

あげくシェルリード線と言って、針とアームをつなぐ細くて数センチの短い4本の電線があるのだが、これを取り替えて音の違いを試す人もいるらしいと教えてもらう。この取り付けはピンセットで極細の線を小さな針に取り付ける面倒な作業な上に、間違えて針を傷めたりしそうにもなる。1度やったらしばらく手をつけたくない作業だ。この店員さんによると、驚くほど高額なリード線があるそうだが、そこまではこだわらなくてもよいのではないかと教えてもらう。こちらは作業自体が願い下げの代物なのだけれども、マニアの方々はそういう作業まで含めて楽しんでおられるのだろう。

そして、レコードプレーヤーで3つ目に大事なのがレコード針。これもコイルの巻き方から針の形まで多種多様、正直どれを選んでよいかわからない。一方、どのオーディオショップにもカートリッジは新品、中古含めて数多在庫があり、選り取り見取り。老舗のレコード針メーカーのナガオカが倒産(現在は復活)した話など過去のお話のようだ。

お好きな人は針をとっかえひっかえして音の違いを楽しんでいる。自分もモノラル再生専用カートリッジやたまにはMM型の針を試してみたいものだが、ものぐさでそこまではやらないだろうな、と思いつつ、次なる選択肢はLINNのLP12なのかなと思いつつ、トーレンスなんかを試してもよいかななどと思案する。そして、LINNのAXISの挙動やご機嫌を伺う日々となった。

● レコードプレーヤーの調整、アクリルゲージでオーバーハング調整とトラッキングエラー調整

そんなこんなでレコードプレーヤーに目が向いたので久しぶりにレコードプレーヤーのセッティングをしてみることにした。必要なものは水準器、オーバーハング調整とトラッキングエラー調整用のアクリルプレートゲージ、そして針の重さを計る針圧計である。

レコードプレーヤー調整器具各種
レコードプレーヤー調整器具各種

水準器でレコード盤の水平を確かめた後、アクリルプレートゲージを使って、オーバーハング調整をおこなう。レコード針の調整とはレコードの溝と水平に針がトレースするか、スピンドル(軸)から針が垂直にトレースしているかになる。これを調整しなくては正しく再生されたとは言えないし、良い音が出ない。小難しい理屈は「オーバーハング調整」で検索するといくらでも出てくるので、まずは実践。

レコードプレーヤーの調整に便利だったツールが、こちらのアクリルゲージ。オーバーハング調整とトラッキングエラー調整の両方がこれ1つでできて、Amazonで安価に購入できた。

まずはオーバーハング調整だが、アクリルゲージのオーバーハングインジケータ側を使う。アクリルゲージの穴をスピンドル(軸)に挿して、オーバーハングインジケータ側と逆側の長い方をトーンアームの回転部を中心をに向くように設置する。あとはアームをプレートと平行にし、針先を指定されているオーバーハングの長さ○㎜にあわせる。このオーバーハングの長さは1.8mmなどとトーンアームの解説書に明記されているから、そのまま距離を調整すればよい。つまり、ターンテーブルのスピンドルの中心から指定された距離○㎜のオーバーハングした位置に針がなるようにカートリッジを位置を調整するということだ。

オーバーハング調整
オーバーハング調整

次に必要なのは、トラッキングエラー調整である。これはアクリルゲージのオーバーハングインジケータ側と反対側の長い方を使う。アクリルゲージの穴をスピンドル(軸)に挿して、外側と内側の2カ所あるマス目の黒い●に針を降ろし、アクリルゲージの縦横線とカートリッジが平行になるように調整する。内側のほうが偏差が大きくなるので内側のほうで厳密に調整したほうがよいようだ。

トラッキングエラー調整
トラッキングエラー調整

● レコードプレーヤーの調整、デジタル針圧計を使って驚いた

オーバーハング調整とトラッキングエラー調整が終わったら針圧調整をおこなう。オーバーハングの調整が済んでからでないと針先の針圧が変わるので、これらは先に済ませておかなければならない。針圧調整には今回購入したデジタルの針圧計 Neoteck 針圧計を用いる。

Neoteck 針圧計
Neoteck 針圧計

デジタルの針圧計なら計測は簡単である。レコード針の先端を針圧計の中心に乗せ、トーンアームの後ろについている重りを回転させながら指定の重量になるように調整するだけだ。ORTOFON MC Kontrapunkt-a の適性針圧は2.5g なのでちょうどその数値になるように調整した。デジタルの針圧計も以前は高価だったと記憶しているが、今は安いものだ。1000円台で各種あるし、精度も問題なく手軽で便利である。

針圧調整
針圧調整

ここで驚いたのが以前から使っていた針圧計 SHURE SFG-2 とデジタル針圧計とで、ずいぶん異なる数値がでたことだった。

SHURE SFG-2
SHURE SFG-2

最初は安物のデジタル針圧計に問題があるのかと考え、付属の分銅で5.0g試してみると正しく表示されている。念の為コインを用いて調べることにした。三菱UFG銀行のサイトに以下の記載があるのを見つけたので、コインが分銅代わりである。

種類 重さ
1円玉 1.0g
5円玉 3.75g
10円玉 4.5g
50円玉 4.0g
100円玉 4.8g
500円玉 7.0g

いずれのコインで調べてもデジタル針圧計では、かなり正確な数値がでる。どうもデジタル針圧計には問題はなく、このアナログな天秤式のSHURE製 針圧計に問題があることがわかった。こちらのAmazonのコメントで見てみると海外の方が一人だけ明確に否定していた。磁気を帯びた金属でできているのでカートリッジの磁石に引き寄せられるので使い物にならないとある。本当の原因かは不明だが、正しく計れないのは事実だ。

針圧はほんの少しずれただけで音が変わる。今回は間違いに気がつくことができてよかった。

● LINN AXISの軸受けオイルの充填とヒンジ交換

ここまで来たらついでとばかりに、軸受けオイルの充填をおこなう。ターンテーブルの中心にあるスピンドル(軸)は、上に載っているターンテーブルの重さと回転用ベルトに横に引っ張られ両方から強い力を受けている。そのため、スピンドル(軸)の加工には高い精度が必要で、これが担保されないと正確な回転ができないばかりかノイズの発生源にもなってしまう。

この精緻な加工で磨き上げられたスピンドル(軸)はモリブデンオイルで満たした軸受けにはまるようになっていて、わずかな接点とこのオイルで軸がホールドされる仕組みになっている。このしくみは LINN LP12もAXISも変わらないので、交換時も LP12のオイルが使える。

銀座に出たついでにオーディオ店 サウンドクリエイト(SOUNDCREATE)に軸受けオイルを買いに立ち寄ってみた。以前のビルから向かいのビルに引っ越したようで、ビルの2フロアに銀座の一等地にしては、たいへんゆったりとしたショールームが幾部屋もある。
そのショールームのひとつに美しく状態のよい JBL のスピーカー パラゴン(PARAGON)が置いてあって、スタッフの方がこちらを聴かせてくださった。我が儘に何曲か聴かせてもらうと、アンティークとは思えない、とてもクリアなよい音がする。そして、チェロなどは楽器が楽器を鳴らしているような豊かな響きだ。目の前に浮かぶコンサートホールと楽器の様相、加えて豊富な知識をお持ちのスタッフの方の説明を楽しませてもらった。

JBL パラゴン(PARAGON) @SOUNDCREATE
JBL パラゴン(PARAGON) @SOUNDCREATE

サウンドクリエイトは、LINNも長く取り扱っているお店だけあって、軸受けオイルの在庫もあり、尋ねるとダストカバー用のヒンジまで在庫があると言う。ヒンジのバネが折れて長らく使えなくなっていたので、こちらもあわせて購入した。

LINN ダストカバー用のヒンジと軸受けオイル
LINN ダストカバー用のヒンジと軸受けオイル

軸受けオイルを受け取ってみると、充填方法の説明書までついているので助かる。そして、LINNはこういった細々とした部品も何十年も提供しているのだから立派なものである。

LINN 軸受けオイル充填方法の説明書
LINN 軸受けオイル充填方法の説明書

● LPレコードの名盤の数々を試聴

軸受けオイルも交換し、針の調整も完璧、おまけにダストカバーまで蘇り、LINN AXISは新品のようである。そこで、まずはオーディオマニア定番のいくつかのSACDとレコードを聞き比べてチェックしてみる。ピックアップしたのは以下の3枚。

Waltz For Debby / Bill Evans Trio
Cantate Domino / Oscar’s Motet Choir
Canary / 松田聖子

オーディオシステムの変遷 試聴LPレコードとSACD
試聴LPレコードとSACD



ワルツ・フォー・デビイ / ビル・エヴァンス(Waltz For Debby / Bill Evans Trio)

Waltz For Debby の収録された Village Vanguard は天井も低く、狭い会場に客席が密度高く配置されている。そのため、このディスクでは音の響きではなく、ジャズクラブならではのライブの臨場感が再現できるか、個々の楽器の微細な音の表現がポイントと思っている。レコードプレーヤーを調整した結果からか細かな音の拾い具合が一変したのが確認できた。機器構成もなにもいじっておらずレコードプレーヤーの調整をしただけなのに、レコード再生とは不思議なものである。オーバーハング調整で1mmほどのズレを解消したのが大きかったのかもしれない。

カンターテ・ドミノ(Cantate Domino / Oscar’s Motet Choir)

Cantate Domino はストックホルムにあるオスカー教会(Oscarskyrkan / Oscar Church)で収録されている。この教会を写真で見ると中規模のバシリカ様式の教会で、教会内の造作少なく端正なたたずまいである。そして、教会の礼拝堂によくある天井高があるが横幅は狭い長方形の造りとなっている。そのためシューボックスのコンサートホールの響きとは異なり、豊かな響きが上方に立ち昇る。今回、これがレコードでもしっかり確認できたので、レコードプレーヤーの調整は音場感の改善にも一役かったようた。

Canary / 松田聖子

Canaryは、曲調に憂いがある曲が多く、松田聖子の明るい声に陰影が加わる聴き応えがあるアルバムである。SACDでは、キラキラな声に見通しのよさのある優れた録音なのだが、あまり聴きたくない微細な声のざらつきまでがわかってしまうという側面がある。これはSACD制作時にマスターテープに忠実で補正を最小限にした成果なのかもしれない。一方、レコードからは細かな声の粒子が響き合うようであり、濁らない陰影と明晰な明るさが混じり合う様が感じとられ、耳の心地はレコードのほうがよかった。

やはり、調整を終えたレコードプレーヤーからでる音はSACDとも互角でありハイレゾ、空間表現に優れていることが実感できる。

そして、良い録音のLPレコードを更にいくつか選んで聴いてみた。

・ブラームスとワーグナー のBOX クレンペラー指揮 EMIドイツ(EMI DE)

これはどちらもレコードプレスがよく高音質で、気に入っているボックスセット。ブラームスは堂々たる演奏でクレンペラーらしい指揮、どれも名演ながら特にドイツ・レクィエムが素晴らしい。クレンペラーは雄大ながら曲の構造を描ききり、しっかりとした音楽造りをするので、オーディオの再生能力が問われる。
ワーグナーのボックスのほうには、クレンペラー晩年の録音である「ワルキューレ」第3幕の「ヴォータンの告別」が入っている。クレンペラーの万感の想いがつまった演奏でヴォータンとクレンペラーが重ね合わさる超絶演奏。CDは持っていないので、久々に圧倒的な名演をレコードで堪能した。

オーディオシステムの変遷 クレンペラー指揮 ブラームスとワーグナー のBOX
クレンペラー指揮 ブラームスとワーグナー のBOX

マーラー 交響曲第5番 ノイマン指揮 チェコフィル (Supraphon)

1977年の録音でアナログ録音の最後期にあたる録音。プラハのルドルフィヌム(Rudolfinum)の豊かで美しい響きもしっかり収録されている。トランペットの名手を擁したチェコフィル故にトランペット協奏曲と揶揄する向きもあるが、チェコこそマーラーの故郷、このノイマンとチェコフィルのマーラーは郷愁を誘い、チェコの自然を感じるようなマーラーの原点に触れた気がする演奏である。

ドヴォルザーク 交響曲第9番 序曲「謝肉祭」 シャイー指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (DECCA)

おまけのように収録されている序曲「謝肉祭」がシャイーらしく溌剌としており素晴らしい。これがコンセルトヘボウのホールに響き渡るのだからたまらない。残響は豊かながら楽器間のリレーションは明瞭に収録されており、1987年の録音でデジタル録音初期ながらデジタル臭もしない。豊潤なアムステルダム・コンサルトヘボウの音響をとらえていて、オーディオリファレンスともなる1枚。

レコードの大きなジャケットには購入時の思い出が重なり、収納にかさばるものの、なかなか手放せない。こうして訪れたホールを思い出したり、購入したお店を懐かしんだりしながら、じっくり耳を傾けるひとときは何事にも代え難い。

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