パワーアンプは以下の変遷を辿ってきた。
QUICKSILVER AUDIO Mono Block →
QUICKSILVER AUDIO S60 →
KRELL KSA-100S →
FLYING MOLE DAD-M310 →
Nuforce Reference9 V2 SE →
Nuforce Reference9 V3 SE
1989年、静電型(コンデンサー型)スピーカーのマーティンローガンを駆動させる為に相応の出力のアンプが必要とのことでアメリカで評価の高かった管球アンプを購入。
その後トランジスターアンプのKRELLを経て、デジタルアンプ路線へ。デジタルアンプは高出力でクリアな音である上に場所もとらないし、熱くならないと良いこと尽くめ。
——海外のコンサートホール、かつての歴史的なコンサートに誘ってくれるのが自分にとってのオーディオ。 なぜ旅ブログでオーディオか、というお話はコチラになります——
● QUICKSILVER AUDIO Mono Block(1989年)
初めて購入したパワーアンプは管球アンプの QUICKSILVER AUDIO Mono Block 、GE社の8417真空管を使った管球アンプ。こちらは以前の記事「コンサートホールを再現する」にてご紹介した通り。
● QUICKSILVER AUDIO S60(1999年)
QUICKSILVER AUDIO Mono Block も10年近く使ってきた。真空管8417が入手困難になってきたこと、スピーカーをMartinLogan Sequel 2から3へ買換えたことから、ひと思いにパワーアンプもQUICKSILVER AUDIO社の最新モデルに買換えた。新モデルは電源容量も増え、真空管は付属のEL-34以外に6L6、KT77、KT88、6550Aなどの銘真空管が無調整で使用できるので安心。当時はデキの良いロシア製の真空管が安価で大量に流通していたので、いくつかの真空管を試したりもした。
以下はカタログから抜粋した立派な同社のコンセプト
『QUICKSILVER AUDIO社のパワーアンプの設計コンセプト』
-この30年間でトランスの技術は飛躍的に向上しました。この最新のトランス技術を導入すれば真空管アンプのパフォーマンスは、半導体を用いたものより十分なメリットがあると信じます。価格配分はトランスを最優先し外観は最小限に留めることによってコストパフォーマンスを追求しています。
-回路設計の特徴は、信頼性を高め音楽の純粋さを保つため、高品質な部品と厳重に選択された真空管を使い単純化していることで、保守を簡単に。
-コンストラクションは信号の流れに従った音質最優先のものとするため、外見などは二の次とする。
-スピーカーのすぐ傍に置き、スピーカー・ケーブルは出来るだけ短くする使用法を強く推奨。
-電源については、日本向け仕様として特別に電源トランスを設計開発し100ボルト、50ヘルツでの使用を完全にクリアすること。そのため、コア・サイズが米国仕様のものより大型化されています。
● KRELL KSA-100S(2002年)
プリアンプをKRELLに変更したので、管球アンプを卒業して、トランジスターアンプへ。単品の外見は、ごっつくてカッコいい感じがするが、システム全体の見た目(色味)が、かなり黒々と威圧感ある構成になった。音は締りはありつつパワフルで MartinLoganのようなコンデンサー型スピーカーを十分に鳴らし、相性も良いように感じた。クレル社は電源トランスに潜水艦で使っている軍事用を用いたり、物騒ながら音質への配慮の凄まじさを感じさせるメーカー。
● FLYING MOLE DAD-M310(2007年)
KRELL KSA-100Sが5年ほどで昇天。再生中に突然カチンという音が、アンプ内部からしたと思いきや、白煙を噴き出して、慌てて電源を落とした。あっという間のご臨終。
輸入元のアクシスに問い合わせると「ご指摘の症状はパワートランジスタの焼損や電源部のローカルに配置されたキャパシターのショート等が考えられます。」との解説のあと、ショックなことに「当該モデルは昨年3月に修理受付を終了しております。」と。
発売から10年以上経つので仕方ないのだけども、デザインも気に入っていたのでかなり残念。
そして、迷いつつ導入したのがFLYING MOLE DAD-M310。遂にデジタルパワーアンプの登場。当時はデジタルアンプの技術はまだまだだったが、日本ではソニーやシャープ、海外ではTact、Nuforceなどが商品を投入して数年がたち、ようやく市場が立ち上がってきた。しかしながら、雑誌での取り扱い記事もあまりなく、情報も少ない状況だったので、少々安めのFLYING MOLEという新興企業のデジタルアンプを試してみようと思い立った。
写真の大理石のアンプ置き台は以前と同じサイズなので、KRELLのアンプに比べると随分コンパクトになったのがわかる。重量もDAD-M310が4kg/台とKSA-100Sの32Kgに比べてグッと軽くなった。能率がよいのがデジタルアンプの特徴なので、300W/4Ωと従来よりもパワーアップしながら発熱も少なく、省スペースで良いこと尽くめ。入力はXLRのバランス入力が可能であり、出力はバナナプラグなので現状の機器との結線もそのまま流用した。
そして、肝心の音の変化は明白。音は伸びやかで、みずみずしくなった。更にはマーティンローガンの静電型(コンデンサー型)スピーカーの特性である瞬発力がとても効くようになった気がする。但し、理由としてデジタルアンプ化によるものなのか、アンプの出力向上によるものなのかは不明。KRELLも途中オーバーホールしたとはいえパーツも老朽化していただろうし、簡単には比較できないところだ。
しかし、音がかなり明晰になったので、大満足。それも所謂デジタル臭さや硬さではなく、くっきり明瞭で反応がクイックになった感じ。
スネアドラムのシャラシャラした集合音がとても粒立ちよくパラパラした音として再生される。お試しの購入だったが、しばらく使ってみることにした。
● Nuforce Reference9 V2 SE
スピーカーをアヴァロンに買替えたので、早速、アンプも上位のものを物色していたところ、FLYING MOLE DAD-M310 を購入した際から気になっていたNuforce社の製品 を試す機会を得た。マーティンローガンスピーカー を購入した際、その輸入代理店が扱っていた Spectral Audio というハイエンドの象徴のようなアンプを作っている会社があった。べらぼうに値段が高くて、手が出なかったが、それはそれはピュアで素晴らしい音が鳴っていた。
今回購入した Nuforce という会社、その Spectral Audio の設立者の Demian Martin が関わっていた。Nuforce は、このSpectral Audio に比べ、入手しやすく更には多少懐にやさしいのも嬉しい。
試聴してみると、同じデジタルアンプでながらFLYING MOLE DAD-M310 と比べ、立体感、分解性能の差は歴然とした。筐体はFLYING MOLE DAD-M310の半分くらいだが、仕上げやデザインはやはりNuforceのほうが遥かに上を行っている。そして、ローズコッパーという色、意外に品があって、部屋に置いても違和感がなかった。
ただ、なによりも優れているのは外観よりもその音。速度感は低音から高音まで飛躍的に上がったので、切れのよい音は耳に飛び込んできて、伸びやかな音は粒子が細かい、更にはEidolon もパワフルに易々と鳴らしている。
これは購入するしかないなぁ、となり発注をした。色は月並みながらシルバーにしたが、届いてみると表面仕上げはよく、なかなか上品な色で一安心。多少、ローズコッパーにも後ろ髪を引かれますが、Nuforceは各種アップブレードサービスもあるので、あまり奇抜な色は避けたほうがよいとも思った。筐体やネジなどのパーツがいつまで確保されているか不明であるし、色違うけど我慢してというのは十分あり得る(笑)。そこはアメリカ製ですから。
エージングをしながら、各種CDを試聴してみると、やはりFLYING MOLE DAD-M310に比べ、速度感というか反応度が低音から高音まで飛躍的に上がったので、切れのよい音は濃密でもあり、伸びやかな音でも粒子は細かく聴き慣れたCDからも今まで聴こえなかった音が聴き取れる。そして、Avalon Acoustics Eidolon も易々と鳴らす力強さには驚かされる。
<試聴盤>
・ひとつだけ / the very best of akiko yano 矢野顕子
矢野顕子は楽器個別の分離が際立って明るい音はきらびやかさを増し、音のひとつひとつが細部まで細かく表現されるので音の鮮度が上がり、リアル感が増した。また、ピアノの芯の音はしっかりし、声はより微妙なニュアンスが表現されるようになった。
・COVER GIRL2 つじあやの
このCDは、全曲野外録音で、収録時のバックの雑談の声までもが鮮明に聞きとれ、耳を澄ませば、公園の子供たちが何を言っているのかまで、聞き取れるほどになった。こういったオーディオの性能向上が音楽的感動に影響する事は当たり前だが、所持する音楽ライブラリーが一新されたような感もあり、あまりの効果向上に驚いた。
● Nuforce Reference9 V3 SE(2013年)
Nuforceのアップグレードプログラムを活用して Reference 9 V2 SE を Reference9 V3 SE にアップグレードした。2009 年10 月からアップグレードの対応をしていたらしいが、その時は購入して1年あまりだったので、見送り続けていた。ほぼ使い始めて5年が経ち、購入価格の一割程度で最新機種になるし、劣化するコンデンサの入れ替えにもなるのかな、とアップグレードに踏み切った。このアップグレードで更に切れ味がよくなり、レンジも拡がった感がある。
<試聴盤>
趣向をちょっと変えてアイドルものでチェック。
・ザ・ベスト 小泉今日子
朝の連続ドラマ「あまちゃん」のおかげで朝から小泉今日子の歌を聴くことが多かった。まずはkyon²のLPレコードをひっぱりだしてアイドル時代のベスト盤を聴き直してみた。年齢にもかかわらず独特のチャーミングとも言える声質は変わらず、「あまちゃん」でも健在なのは、さすが。ただ元来、声の音域が狭いのと、どうも声を綺麗に伸ばすのが上手じゃない様子。
このベスト盤、シングルレコードの発売順に各曲が並んでいるが、録音の変遷が面白い。デビュー曲の「私の16才」から始まり、実力が評価されるにつれて、録音設備が整ってきたのか徐々に音質が上がってきて、ステレオ感が増してくる。更には、曲を追う毎に歌手のハンデを補うような楽曲つくりもされ、レンジが広い苦手部分はエコーをかけて録音手法でごまかす技術までも上達しているようだ(笑)。その結果「渚のはいから人魚」は中域の彼女の可愛い声を大いに活かした魅力ある曲になっている、と初めて気がついた。ところで、ドラマ効果で売れまくっている「潮騒のメモリー」は彼女の娘役も歌う設定の為か、小泉今日子にとってはチョイ手強そうな曲で、CDの仕上がりが気になるところ。
・BEST AKINA メモワール 中森明菜
お次はレコード棚にまだあった中森明菜のベストアルバム。小泉今日子は時系列で顕著に歌い方が上達していったが、この人は最初からすこぶる上手。この頃のアイドルが歌が下手というのは全くもって誤解であって、とりわけ「スター誕生」を足がかりにしているアイドルは、歌唱力はほぼ折り紙付き。中学生くらいから『歌ぢから』で勝負して勝ち抜いてきているので、プロ意識や強運も備えている。
それで、中森明菜であるが声の音域がともかく広い。低音から高域までキチンと出る上に、低音のスモーキーな感じの声が魅力的で惚れ惚れしてしまう。そして歌唱力のすばらしさ、小泉今日子には「少女A」の出だしの安定した音程や「スローモーション」の伸びやかな歌い回しは多分難しいだろう。
ちなみにこれら聴き直した音源はすべてアナログの録音技術が最高潮に達した時代のLPレコードなので、リマスタリングされたCDでこの音質がどこまで保持されているのかは未確認。また、日本の音盤やリマスタリング全般に言えることだが、とにかく高域と低域をカットしてしまうのでLPレコードですら音量を上げて聴かないと音像の立体感がでてこないのは困る。
・SEIKO-TRAIN 松田聖子
松任谷由実による曲だけを集めたアルバム。こちらを聴き直してみて思うのは、松田聖子のテカテカつやつやの声は天賦のもので、時折みせる細やかなビブラートなんかも含めて、たいへんな技巧派。それ故に、妙な歌詞(笑)を違和感なく歌い上げ、曲中の特定の部分だけ甘ったるい媚びた歌い方もできたりする。上手、下手など論評の対象にすべきではない非常に高いレベルで完成された歌い手である。
一方、これらの曲を作曲した松任谷由実の歌唱力は、どうにもいただけないのだが、このアルバムを聴いていると自身でやれないこと&やりたいことを松田聖子に託しているような気がしなくもない。
松田聖子は歌い方を含めて、とやかく言われることの多い人だが、とやかく言う前に「Rock’n Rouge」をカラオケで完璧に歌えるのか、と問いたい(笑)。転調が多い新曲を数ヶ月おきに歌いこなした上で、こういった難曲をあちらこちらで歌いまくることは神業に近いと思う。
・ユートピア 松田聖子
もう一枚、松田聖子。ソニーが力を入れているBlu-spec CD2で、オリジナル音源からリマスタリングしたものの中から馴染み深い「ユートピア」を選んだ。かかる曲かかる曲懐かしく、かつ松田聖子の声に惚れ惚れ。30年前の記憶ながら格段に音はよくなっている。「SEIKO-TRAIN」と比較してもこの音の違いは顕著。
相変わらず音像の定位はよろしくないが、音質はすこぶるよい。所謂ドンシャリではなく低音はなだらかに下まで入っており、高域もキンキンせずに滑らかに伸びている。その結果、音がとてもプリプリ、みずみずしくなっている。シングルで発売された曲は更に突然サウンドステージが拡がる(笑)。特に「秘密の花園」の出だしはゾクッとするほどだ。
オーディオ関係の何かの本で読んだが10代で記憶に残った声はリファレンスレコードとして、歳を経た先々の指針になると。であれば、当時、中学生だった自分が度肝を抜かれた1stアルバム「SQUALL」も買い直してみたくなった。思えば、松田聖子の「えくぼの秘密あげたいわ~」の高く天にも昇るような声が音楽体験の入り口かつ原点だったような気がする。ここを起点に次々いろいろな曲を聴き始め、クラシック音楽まで到達した。そして、次に度肝を抜かれる音楽体験は、オペラに開眼したグルベローヴァのツェルビネッタまで待たなくてはならないのであった。
・DO THE BEST 森高千里
最後は、CD棚に埋もれていた森高千里のDO THE BESTを取り出し、聴き直してみた。歌詞がとにかく素晴らしく、こちらも久方ぶりに満喫。作詞を自らおこない、時には自ら音をあて、更には演奏もしている曲もある。森高千里はスタイルもよくて美人だし、歌唱力もまあまあ。マルチな才能で緩急自在に自己表現を紡ぎ出す彼女は、与えられた曲を歌っていた松田聖子とは全く別もの。アイドルともちょっと違う。
彼女の歌は跳ねるようなサウンドととっぴな歌詞の割に、実は音程の変化も少なく歌いやすいようだ。喉が鳴っているような声はとても好きなのだけれども、少々一本調子な感もある。
全体を通じて各曲の録音はサウンドステージもある程度認識でき、このところ聴いてきた音盤の中ではよいほう、時折、収録後に声をいじっている気がしないでもない曲もある。ただ、こんな音質云々は永遠の名曲「渡良瀬橋」の存在の前に意味をなさない。さりげなく意志を歌う歌詞が、演歌や四畳半フォークとも一線を画しているのも心地よさの理由だろう。付属の小冊子に作詞の経緯を自ら書き記しており、これまた興味深い。